このやってられない世界で

みなせ

文字の大きさ
上 下
81 / 336

81

しおりを挟む
 私はわんわん泣いた
 そんなつもりは無かったんだけど、自分ではどうしようもなくて、カークにしがみついたまんまで泣いた。
 いままで溜まっていたものが、全部出たのかもしれない。

 そんなに長い時間じゃなかったけど、カークは私が泣いている間中ずっと抱きしめてくれていて、時々ポンポンて背中を叩いてくれたり、頭をなででくれたり……うーん、なんて言ったらいいか。
 おかげでだいぶ落ち着いたけど、落ち着いたら落ち着いたでどっか冷静な部分が、結局カークなんだね、なんて考えていた。




 暫く立って、涙も鼻水も出なくなったころ、

「すまない」

 って、軽くカークが謝ってきた。
 謝ってなんでもすむと思うな、と言いたいがしゃくりあげ過ぎて声が出せそうになかった。とりあえず頷いておく。

「もう三日もキーラに触ってなかったし、ほら、毎日キーラとキスしてたから、つい……」

 つい? ついって何よ。
 あれは治療でしょ。人工呼吸と一緒! まるで習慣みたいにいわないでよ。
 睨みつけると、カークは肩をすくめる。きっと、反省していない。

「何か飲み物を用意しようか?」

 ムッとしていると、カークがそう言って、私を椅子に座らせた。
 少し離れた位置にあった椅子をひきよせて、カークも座る。

「……いらない。それより、話って何?」
「あぁ、順番が逆になったけど、体調はどうだ? どこかおかしいところはないか? 」
「……大丈夫」

 自分の中で、何が違ったのか良く分からないので首を傾げながら答えると、カークが少し笑った。

「そうか、それはよかった。魔力の移動は上手くいったし、私の魔力の回収もしたから、もう心配しなくていい」

 その後に言葉が続かないので、私は気になっていたことを聞くことにした。

「そう言えば、ジャニアス家ってどうなったの?」

 何か怪しい感じの話をしていたよね。

「セルジオたちは領地に戻った。屋敷は半壊させて、フランクとリオネルは、我々とこちらに転移し、今は本宮にいる」
「本宮?」
「王城だ。彼らは暫く父の管理下に置かれることになった」
「そうなんだ。えーっと、フランク、さ、ん、はまだ眠っているの?」

 “さん”をつけるのが嫌だったが呼び捨てもいやだと思ったら、変な間ができてしまった。カークは気にしなかったみたいに続ける。

「あぁ、あのまま暫く眠らせておくことになった。フランクはリーナの影響を受けやすいようだから。それに世間的には死んだことにしたんだ」
「えっ!」
「そんなに驚くことじゃない、変にリーナを思い出して、うろつかれたら面倒だ」

 面倒って。いや、面倒か。また何かされたら嫌だ。
 図書館のことを、思い出して身震いする。

「大丈夫か?」
「う、うん。……それって罰なの?」
「フランクにか?」

 頷く。

「いや、違う。刑罰は全部終わってからになる。フランクが個人的に動いたのか、誰かに指示されたのか。それに、まだリーナ達がなにを狙っているのか分かっていない」

 カークはそう言って首を振った。

「カークはリーナがフランクに命令したと思っているの?」
「どうだろうな。フランクの入れ込みようは、デリックともジョシュアとも違っているように見えた」
「どんなふうに?」
「説明できない」

 眉を寄せて渋い顔になる。

「そう……じゃあ、リーナは、どうしているの?」
「彼女は普通に学園に通っている」
「そうなんだ」

 ん? あれ。聞いてから気がついたけど、

「カーク達って学園どうしてるの?」

 私もだけど。

「あぁ、私とデリック、ケビンは公務で休みにしてある」
「そうなんだ……で、私は?」
「キーラは病欠の届け出を……」

 え、何その沈黙。

「大丈夫だ、多分、侯爵が……」

 もしかして私、無断欠席なの?
 担任、あれだよ。リーナの取り巻きだよね?

「リーナは私が王宮にいるの知ってるよね。なら、リーナから先生に伝わっていないの?」
「あぁ、そうか……そうだな。ジョシュアにはリーナから伝わっているかもしれないな。でも学園には……」

 ぼそぼそとつぶやき、カークは私を見た。

「明日ちゃんと確認しておく」

 そして、弱々しくそう言った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます! ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。 ※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

処理中です...