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68 -夢-
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「とうとう明日かぁ」
隣の席で、幼稚園から一緒の親友がしみじみとそう言った。
親友……そう親友だよ、でも、名前、なんだったっけ?
不思議に思いながらも、口からは勝手に言葉が紡がれる。
「何? 何が明日なの?」
「ほら、例の絵師さんがキャラデザしたゲームの発売日!」
「―――がファンだって人の?」
あれ? 名前が聞こえない。
私、いまちゃんと呼んだよね?
「何だ、分かってんじゃない! 明日は乙女ゲーム【忘却のアビリティ】の発売日よ! はい、これ」
「これは何よ?」
「【忘却のアビリティ】の販促限定パンフ、ゲームのパンフっぽくないから、見つけるの苦労したんだよ」
そう言って、渡されたのはA5サイズのカラーパンフレット。
どこかで見たような景色のイラストに、たくさんの見えにくい文字が重なっている。
一見、ゲームと言うより、小説みたいな表紙だ。なんて言うんだっけ、こう言うデザイン。
「何これ、ホントに乙女ゲームのパンフなの? こういうのって普通、表紙にはキャラクターがどーんって描かれているよね?」
「そうそう、普通そうだよね! 私もそう思ってた! だから最初分かんなくって、店員さんに聞いたら、これが、【忘却のアビリティ】の販促パンフなんだって。なんか文芸小説の表紙みたいでかっこいいよね」
「うん、これならバスの中で見ても恥ずかしくない!」
「そこは、恥ずかしがるな! とにかく、これをちゃんと読みこんで、明後日に備えておいて」
「私は買わないよ?」
「分かってる。私が攻略したらちゃんと貸すから、大丈夫。でも、私も話相手が欲しいのよ! この興奮を分かち合う人は必須なのよ!」
「えー、またなの? プレイ前のネタばれ反対!」
そう言って、おー、っと右手をグーにして空につき出す。
「じゃあ、買いなよ! そしたら、がっつり隅の隅まで攻略させてあげるよ!」
「それもめんどくさい、ゲームは一回やったら十分だもん。ゲームより私は、睡眠時間がほしい」
「言うと思った!」
親友はがっかりしたように肩を落としてから、両手を腰に当てて胸を張る。
「では、いつものように、お好みの攻略者の、おいしいところだけ短時間で攻略させてあげましょう!」
「ありがとうございます! 助かります。先輩!」
「まかせておきたまえ! で、どの人がいい? その人以外を先に攻略しちゃうから。ってどうせいつも通り王子様なんでしょ」
「んー、今回はどうかな、一番面倒くさくない人にしたい」
「そんなこと言ったら、ゲームの意味が……まぁ、とりあえず、キャラ紹介はパンフの五ページ目だよ」
「了解です! 先輩!」
あぁ、懐かしいな、親友とは、いつもこんな感じだった。
何故かいつも同じクラスで、いつもちゃんとくじを引くはずなのに必ず隣か前後の席になって、幼稚園からの腐れ縁で……
彼女のお父さんやお母さんも、兄弟たちもすごく親切で優しくて。
お父さんが出張の時はいつも泊めてくれて。
こんなに大切な人なのに、
なのに、何で名前が思い出せないんだろう?
なんか、記憶がおかしい。
絶対忘れるはずないのに、何で一番大切なこと、思い出せないんだろう?
隣の席で、幼稚園から一緒の親友がしみじみとそう言った。
親友……そう親友だよ、でも、名前、なんだったっけ?
不思議に思いながらも、口からは勝手に言葉が紡がれる。
「何? 何が明日なの?」
「ほら、例の絵師さんがキャラデザしたゲームの発売日!」
「―――がファンだって人の?」
あれ? 名前が聞こえない。
私、いまちゃんと呼んだよね?
「何だ、分かってんじゃない! 明日は乙女ゲーム【忘却のアビリティ】の発売日よ! はい、これ」
「これは何よ?」
「【忘却のアビリティ】の販促限定パンフ、ゲームのパンフっぽくないから、見つけるの苦労したんだよ」
そう言って、渡されたのはA5サイズのカラーパンフレット。
どこかで見たような景色のイラストに、たくさんの見えにくい文字が重なっている。
一見、ゲームと言うより、小説みたいな表紙だ。なんて言うんだっけ、こう言うデザイン。
「何これ、ホントに乙女ゲームのパンフなの? こういうのって普通、表紙にはキャラクターがどーんって描かれているよね?」
「そうそう、普通そうだよね! 私もそう思ってた! だから最初分かんなくって、店員さんに聞いたら、これが、【忘却のアビリティ】の販促パンフなんだって。なんか文芸小説の表紙みたいでかっこいいよね」
「うん、これならバスの中で見ても恥ずかしくない!」
「そこは、恥ずかしがるな! とにかく、これをちゃんと読みこんで、明後日に備えておいて」
「私は買わないよ?」
「分かってる。私が攻略したらちゃんと貸すから、大丈夫。でも、私も話相手が欲しいのよ! この興奮を分かち合う人は必須なのよ!」
「えー、またなの? プレイ前のネタばれ反対!」
そう言って、おー、っと右手をグーにして空につき出す。
「じゃあ、買いなよ! そしたら、がっつり隅の隅まで攻略させてあげるよ!」
「それもめんどくさい、ゲームは一回やったら十分だもん。ゲームより私は、睡眠時間がほしい」
「言うと思った!」
親友はがっかりしたように肩を落としてから、両手を腰に当てて胸を張る。
「では、いつものように、お好みの攻略者の、おいしいところだけ短時間で攻略させてあげましょう!」
「ありがとうございます! 助かります。先輩!」
「まかせておきたまえ! で、どの人がいい? その人以外を先に攻略しちゃうから。ってどうせいつも通り王子様なんでしょ」
「んー、今回はどうかな、一番面倒くさくない人にしたい」
「そんなこと言ったら、ゲームの意味が……まぁ、とりあえず、キャラ紹介はパンフの五ページ目だよ」
「了解です! 先輩!」
あぁ、懐かしいな、親友とは、いつもこんな感じだった。
何故かいつも同じクラスで、いつもちゃんとくじを引くはずなのに必ず隣か前後の席になって、幼稚園からの腐れ縁で……
彼女のお父さんやお母さんも、兄弟たちもすごく親切で優しくて。
お父さんが出張の時はいつも泊めてくれて。
こんなに大切な人なのに、
なのに、何で名前が思い出せないんだろう?
なんか、記憶がおかしい。
絶対忘れるはずないのに、何で一番大切なこと、思い出せないんだろう?
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