このやってられない世界で

みなせ

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 何がどうして、こうなった。
 目を覚ますと、そりゃあ豪華な部屋だった。
 よく漫画とかアニメとかで描かれるザ・貴族の部屋そのもの。
 ベッドはキングサイズに、天蓋付きで、その下につけられたカーテンみたいなのは、女子なら一度は憧れるレースじゃなく、どっかの舞台の緞帳みたいに立派なものだ。
 マットレスも極上品なのだろう。どのくらい眠っていたのか知らないけど、全身に力が入らない状態でもふんわりと受け止められているのが分かる。沈むところは沈み、支えられるべきところは支えられている。長く眠っていると体が痛くなるはずなのにそれもない。
 掛け布団も柔らかくって、暖かいのにちっとも重さを感じない。
 部屋もかなり広く、目が動く範囲しか見えないけれど、多分ワンルームの部屋なら十部屋は取れそうなくらいだ。
 壁も、天井も、色彩豊かな上品な壁紙で覆われているし、そこかしこに置かれた調度品も、教科書や博物館でしかお目にかかることがないような豪華なモノだ。
と、こうしてじっくり部屋を見聞しているのは、体が全然動かないので誰かを呼ぶこともできないからだ。
 ピーちゃんの姿もない。
 あの時みたいに、心で何度か呼んでみたけど、全く音沙汰なくむなしくなったので諦めた。
 悲しいかな、誰か人が来てくれるのをただ待つしかない。

 どれくらいそうしていたろう?
 ようやく壁のどこかから扉の開くような音がして、誰かが入ってくる気配がした。パタパタと羽音も聞こえ、ピーちゃんが枕元へ飛んできた。

「ビィーッ!!」

 私と目があった瞬間、ピーちゃんは叫び私の顔に頭をすりつけてきた。

「鳥様、お嬢様のお休みを邪魔してはいけませんよ……あら、まぁ」

 ほんわりした声が聞こえてすぐ、赤茶色のワンピース姿の女性が私を覗き込んだ。

「お目覚めでしたか? すぐに坊ちゃまを呼んでまいりますね」

 そして、そう嬉しそうに微笑んで、私が何か言う間もなくまた視界から消えてしまった。

「ピーチャン、シンパイシタ、モウ、オキナイ、オモッタ」

 扉のしまる音がしてすぐ、ピーちゃんがそう言った。
 頭をかいてあげたいが、何度も言うが、全く体が動かない。

「ピーちゃん、ごめんね。それに、助けに来てくれてありがとう」
「ピーチャン、タスケタ、デモ、ケッカイ、アツクテ、オソクナッタ。」

 ぐりぐりと頭を肩に押しつけながら、ピーちゃんが言う。

「結界……」
「ソウ、オマエ、オレ、ヨンダ。ダカラ、ヤブレタ」

 わお、何そのファンタジー。

「本当に、ピーちゃんのおかげで助かったんだね。ピーちゃんを飼ってて良かった」
「ゴホウビ、ニク、タノシミ」
「はいはい」

 ピーちゃんが胸の上に飛び上がって、ダンスをしだした。
 嬉しそうに小さな体がぴょんぴょん跳ねるのを見ていると、また扉の開く音がした。

「目が覚めたそうだな」

 この声はカークだなとか思っていると、綺麗な顔が覗き込んできた。その隣にはさっきの女性もいる。

「体調はどうだ?」
「体が動かない以外は、特に悪くありません」

 聞かれた事にとりあえず答える。

「そうか。彼女はアリーダ。キーラ付きの侍女だ。私がいない時、何か必要なものがあったら彼女に言うように」
「お嬢様のお世話をさせていただきます、アリーダと申します。お坊ちゃまに言いにくいことでもなんでも、是非言ってくださいね。」

 ニコニコとアリーダさんが頭を下げた。結構なお年だと思うんだけど、すごくかわいらしい人だ。

「キーラ・オンリンナです。よろしくお願いします」

 動けないので、そう言って笑顔を作る。まぁまぁ、おかわいらしいとアリーダさんが、カークを見た。カークは咳払いした。

「話をしたいが、その前に……何か、食べるか?」
「は、い?」
「アリーダ、何か食べるものを用意してくれ」
「はいはい、すぐにご用意いたしますね。お嬢様は何か召し上がりたいものはございますか?」
「いいから、消化のよさそうなものを持ってこい」

 せっかくアリーダさんが聞いてくれたのに、ムッとしたカークに遮られた。

「うふふ。分かりましたよ。お坊ちゃまにも何か軽いものをお持ちしますね」

 楽しそうにアリーダさんは言って、部屋を出て行った。
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