このやってられない世界で

みなせ

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「そろそろ学校に行った方がいいよ。これはお昼用のサンドイッチ。こっちは夜用の携帯食だよ、もっておいき。お代はアレに払わせたから、安心して食べなよ」

 そう女将にまた店を追い出された。
 学校に行かなければと思ったが、向かおうとすると足が重くて動かなくなった。
 キーラは皆勤賞をもらえるくらい真面目に通っていたから、行った方がいいのは分かる。学園の授業料だって、もったいない。

「でも、朝から疲れた……」

 学校へ向かう道の真ん中に立ってつぶやいて、ため息をつく。
 空を見上げると、気持ちいいくらいの快晴だ。
 お弁当もある。

――――そうだ! この世界を見てみよう!

 私は学校へ続く道へ背を向けて歩き出した。
 こっちの方向へ行けば、ずっとキーラも行ってみたかった公園がある筈だ。
 きょろきょろと中世ヨーロッパ風の街並みやお店、道を行き交う人々を眺めながら、でこぼこした石畳の感触を足裏で確かめる。
 学校と家の距離くらいを歩いたところで、公園の入口が見えてきた。
 石でできた門の横には公園の見取り図がある。
 ボートで遊べる池、散策のできる森、芝生が敷かれた憩いの場、小川に近い場所にはキャンプが出来る場所もある。
 しばし考えて、散策できる森と言う場所を目指してみた。

 入口から湖を見ながら進むと、こんもりとした森が見えてくる。
 森と言ってもシッカリ手入れされているので、暗くもないし怖くもない。柔らかい光が舗装された道を照らし、木々の優しい香りが心を落ち着かせてくれる。
 あまり人の姿はないが、安心して歩けそうな場所だ。
 所々にベンチが置いてあったので、少し奥まで入ったところを選んで座ってみた。

――――んー、このマイナスイオンに包まれる感じ、好きだなぁ。

 どこからか聞こえてくる鳥の声と葉擦れの音が、またいい。
 荷物を置いて、思い切り伸びをする。

「やっぱり結構疲れてるなぁ」

 光の漏れる梢を見上げ、全身の力を抜く。

――――今日も朝から濃かった……

 考えなければならないのに、考えたくない。
 一難は去ったような気はするけれど、これから一体どうなるのか。
 リーナが聖女として覚醒するには、キーラとの争いが不可欠だ。キーラからの攻撃に我慢して我慢して、そして反発してリーナは力を発現する。

「力、か」

 キーラも魔法は使える。
 怪我をした時治癒魔法を使っている。部屋の魔石に魔力を与えることもできる。
 入学の時に魔力の測定はあった。でも、学園では魔法が使えないことになっている。

 それはどうして?

 キーラが使ったことがある魔法は、自分に対する治癒魔法と魔石などで引き出される形の魔法。他には……

「あれ? 記憶にない」

 使い方が分からないわけじゃないみたいだけど、使っていない。

 どうして?

 ゲームのキーラは結構派手な魔法を使っているのに……

「んー?」
ガサッ、ガサガサッ

――――ガサッ? 何の音……

 腕を組んで背もたれに伸びをするようにしていたら、急に雑音が聞こえた。
 体を元に戻して音の方を見ると、女将から貰ったサンドイッチの袋の口が開いて、左右に揺れている。

「…………」

ガサガサガサッ

 そおっと、そおっと、手を伸ばし紙袋の口を一気に閉じる。

「ビーッ!!!!!」

 紙袋から悲鳴にも似た声が聞こえ、バサバサと紙袋が右左に揺れた。
 中で何かが暴れているようだ。

「せっかくのお昼ご飯なのに、今度は一体何なのよ……」

 私はため息をついて、揺れる紙袋を見つめた。
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