このやってられない世界で

みなせ

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 デリックのことをチョロイとか考えた罰なんだろうか。 
 騎士団の制服を着ているとはいえ、見ず知らずの男の後ろをふらふらついてきて、自分も充分チョロイじゃないか。 
 オレオレ詐欺に騙される人を責められない。

「言えないようなこと、か?」
「そうじゃなく!」
「そうじゃなく?」
「恥ずかしいです」
「じゃあ、記憶を読もうか?」

 聞かない選択肢はないんですか?

「そうだ、そんなに嫌なら、デリックに聞こうか?」

 何なのよ、このブラコン。
 デリックに言われたら、また面倒なことになるじゃない。
 でもこうしていても、埒が明かない。
 記憶を読まれるのも嫌だし。
 私は覚悟を決める。

「確か、『貴方の願いを決して破らぬと……騎士として貴方に忠誠を捧げることは出来ないが、貴方が本当に困った時私の持てる力をすべて捧げることをここに誓おう。もし貴方が私の誓いを受け入れるなら、祝福を』と言ったはずです」
「それで君は何と答えたの?」

 ボンって顔か赤くなった……と思う。

「それが答えか」

 はぁ、とダリルの声が、少し低くなる。
 ガタンと音がして、見るとダリルが立ち上がっていた。

「もう、お帰りですか?」

 なんとなく危機を感じて、聞いてみる。
 ダリルは答えない。
 私も立ち上がる。
 扉は開いているが、ダリルの後ろだ。
 確かに私から一番遠い席だけど、女将は何を考えてあの席に置いたんだろう?
 騎士の動きに勝てる気はしないけれど、逃げない理由にはならない。
 どちらにしても、ダリルが動いてから、動くのが正解だろう。
 ダリルが右なら左へ、左なら右へ。

「座ってていいのに」
「私ももう帰るので」

 ピンと空気が張り詰める。
 人一人が寝転がれるくらいのテーブルをはさんで、騎士と女学生が睨みあう。
 なんか映画みたいだなとか考えたりして。
 睨みあうこと、数分、だろう。
 ダリルが、フッと力を抜いたのが分かった。

「今日は、降参するよ」

 絶対嘘だ、目がそう言っていない。騙されちゃいけない。
 大声を上げる準備もしておかないと。
 何度も自分に言い聞かせながら、生唾を飲み込む。
 ダリルが両手を上げて、一歩下がり右に動く。
 私は動かずにダリルを見つめる。
 ダリルが止まる。動くなら早く動いてよ。面倒くさい!

「帰る気がないなら、私が先に出ますね」

 言って、椅子を戻す。お盆をもって、右側へ一歩。

「ヒッ!」

 目の端で、ダリルが動いたと思ったら、あっという間に私の前に来ていた。
 早っ。
 見えなかったんだけど――――当たり前か、魔法が使える戦闘要員と一般人の女子、かなうわけがない。
 笑顔のまま、私の手からお盆を取り上げ、テーブルに戻す。
 それにしても、近すぎです。
 私がそれとなく、一歩下がると、ダリルも一歩前にでる。
 一歩、また一歩、とうとう壁際に追い詰められた。



 ……これって、所謂、壁ドンに当たるんでしょうか?
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