このやってられない世界で

みなせ

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「力になるって……私って、良く変わったと思う? それとも、悪い方?」
「マリーの態度を見て、分かりませんか?」

 アーサーがそう笑う。

「……良く変わったと思っていいの?」
「あの筋肉馬鹿に殴られた瞬間ですよね? 目覚められたのは」

 さっきまで婿とか言ってたのに、今度は筋肉馬鹿だって。
 やっぱりさっきは私をからかっていたのか。
 キーラの記憶にはそんなアーサーの姿は見えない。
 私は微妙な気分になりながら頷いた。

「私とマリーは良く変化したと認識しました。やはり親子だと思いましたよ。変化したカーラ様と雰囲気が良く似ています」
「本当に?」
「はい、だから私たちはここに残っています」

 ん? それって、どう言うことだろう。

「えーっと、もし悪く変わっていたらどうしていたの?」
「カーラ様からは、もしキーラお嬢様が悪く変わったら、この家のすべてを消し、キーラお嬢様を捨てろ、と言われていました」
「……」

 笑顔で言い切るアーサーに、私は目を瞬かせる。
 この人たち、やっぱりちょっとおかしいよね。

「ねえ、アーサーとマリーって、一体何者なの?」
「何者と言われましても、私はこの家の家令で、マリーは侍女ですよ」
「そう言うことじゃなくて」

 絶対、人じゃないよね、とは聞きにくい。
 何と言っていいか分からず、じっとアーサーを見つめる。

「私とマリーは、キーラお嬢様が思うように、たぶん普通じゃないでしょう。私はエルフの血を、マリーは精霊の血を半分引いているハーフです」
「……エルフと精霊……」

 わぉ、エルフとか、精霊とか、この世界には本当にいるんだ。

「そんなに簡単に言ってもいいの?」
「隠してはいません。聞かれないから言わないだけで。それに、エルフや妖精は人間世界とは交流もありません。存在は知っていても、見たことがない人が殆どです」

 まあ、それは確かに。
 エルフとか精霊とかってあっちの世界じゃ美男美女って言われていたけど、アーサーもマリーも、リーナや彼女を取り囲んでいた攻略対象者たちとそう変わらないような気がする。普通と比べれば綺麗だけど、結構綺麗な人が多い場所ならアーサーもマリーも普通だ。
 どちらも童顔だし、若づくりと言われれば、年相応ではなくとも気にならない程度だろう。現にキーラは気にしていなかった。

「多少誤解もしてもらっていますから、こちらが普通にしていればほぼ気が付きません」

 ニコニコとアーサーは続ける。

「誤解って、それも魔法?」
「そうです。我々は普通の人間よりかなり魔法特性が強いですから、こっそり使わせてもらっています」
「で、この部屋にもあんなに魔法をかけている、と」
「不満ですか?」
「それは」

 不満と言うより、いろいろ困るだけで。

「お嬢様の部屋を守る以外に、お嬢様が嫌がるようなことは誓ってしていませんから、ご安心を。もしそんなことをすれば、マリーに殺される……」
「はい、私がアーサーを監視してますので、ご安心を!」

 アーサーに続いて、マリーが胸を張ってそう言った。

「でもさっきしっかり覗いてたよね」
「今日は特別です」

 マリーがそう言って、私の頬を痛ましそうな目で見た。

「お嬢様を殴った男ですよ。何かあったらカーラ様に申し訳がないじゃないですか。本来なら部屋どころか、邸にも入れたくなかったんですから」

 と、マリーは言ったけど、騎士団風プロ―ポーズからのあの一連の流れ。
 ちょっと信用できない、よね。
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