このやってられない世界で

みなせ

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 突然視界が横にぶっ飛んだ。


 右の頬が痛い、と思ったと同時に、左肩が何かにぶち当たってひどい音をたてる。
 きゃーとかあーとか、とにかく外野らしい人の悲鳴が聞こえて、ようやく自分が殴られたことを認識した。
 痛みより何が起こったのか気になって、ゆっくりあたりを見回すと、私の前に大きく空いた空間の向こうに、ふんわりしたショートカットのかわいい系の美少女が見えた。
 大きなまんまるおめめに、いっぱいの涙を浮かべておびえるように私を見ている。
 私の目が彼女を捉えた瞬間、その視線を遮るように金髪碧眼の男が少女の前に進み出た。
 良く見るとその少女の周りには、彼女を守るように綺麗な男が数人立っている。




―――――なんだ? これ?




 私は違和感のある左肩を押さえながら壁伝いに立ち上がり、さらに視線を動かして、少女の斜め前に、手をフルスイングした形で固まった男を見つけた。
 こいつが私を殴った男か。
 他の男たちより明らかにガタイが大きく、服を着ていてもしっかり鍛えてられているのが分かる。
 その男をもっとよく見ようとした途端、ポタリと何かが垂れる音がして、その音の方に気がそがれた。
 床に向いた視界にはグレーのプリーツスカートが揺れ、そのスカートの裾からは細い足、その先に落ちた赤い色。
 上唇に、生温かいものを感じ、そっと鼻に触れると鼻から血が出ていた。
 私、女の子なのに、あれに殴られたのか。
 いまだに微動だしない私を殴っただろう男をもう一度見て、





――――――本当に、なんだ? これ?





 と、思った瞬間、頭の中で何かがはじけた。
 聞いたことのない名前や誰かの生い立ち、今の状況とこれから起こるだろうことが、一気に私の中に溢れてくる。
 瞬時に、そして整然と物語が組み立てられた後、自動的に結論が出た。





………………ああ、私、異世界転生しちゃったのか。
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