だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ

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54.愛し子を巡る国と神殿の陰謀(笑) 2

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 八冊目、神殿の日誌が違う文字になった。
 愛し子が見つかったって言う隣国の文字ね。きっと。

 日付は、隣国で愛し子が見つかる一年前くらいかしら。

 中身は最初から酷いものよ。

 何度も聖女が誕生し、どの国より潤い発展している隣国への不平不満と、罵詈雑言。
 丁寧な文章の中に、時々下品だったり、もう文字にすらなっていない文章からはとにかく隣国が羨ましいっていう恨みつらみが溢れてる。
 よくまぁ毎日毎日、こんなに邪心満載の文章をこの量書けるわねってくらい。

 この日誌書いた人、多分病んでる、ううん、絶対、病んでる。

 これ、日記じゃないのよ。日誌よ。
 神殿の印が全ページに箔押しされてる、公式文書!

 でも、この日誌を読めばそうなる気持ちも分からなくもないわ。

 悪口の間に、国の状況が書いてあるんだけど、

 大災害にはならないけれど多かったり、作物を育てるには少し足りない雨。
 暴風までいかないけれど、物が動く程度の風。
 夏はひたすら暑く、冬は一週間も顔を見せない太陽。
 日々安定しない天候のせいで、作物は不作とまではいかないけれど、お腹一杯食べられるほどの収穫量はない。
 十分働けるだけの食糧がないから、民はいつもギリギリの生活をしていた。

 多分この世界のその時の食糧事情ってそれが普通だったんだろうけど、隣国から聞こえてくるのは夢のような話。
 この国にも愛し子さえいてくれればって気持ちが、ちょうど愛し子を探し始めた神殿に怒りとなって向かったみたい。

 だから、毎日毎日、民の文句を受けてた神官は、日誌に隣国への怒りを書き連ねたのね。

 うん、分かる。その気持ち。
 隣の芝生が青いと、どうして家はって思っちゃうもの。

 でも文字が多すぎて真っ黒なページは、ある日突然白くなった。


――――その日、愛し子が見つかったから。





 白いページは、神官の動揺を表していたのかもしれない。
 筆跡が同じだから、黒ページと書いた人は同じなのに、違う人みたいな文で、短く淡々と愛し子の洗礼の様子が書かれ、そこには感想も感情もなかった。

 もしかしたら神殿は愛し子を見つけたかったけど、本当に見つかるとは思っていなかったのかもしれないわね。

 そして洗礼は三歳前後の子供が受ける。
 見つかった愛し子も、当然三歳。

 洗礼が始まって初めての愛し子発見に、この国でも初めての愛し子。
 三歳の子供を神殿に住まわせることまで考えてなかった……んだと思うわ。


 そこからは同じような報告文が続いて、とくに愛し子の待遇についてひたすら困惑していた。




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