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31.初めてのパーティー……え? 会場へ行くだけ?

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 その日の朝、侍女さんたちが徒党を組んで突入してきたの。

 今までそんなこと一度もなかったから、本当にびっくりしたわ。
 誰も何も説明してくれないけれど、ちゃんとした―――子供のころ一度だけ行った王家のお茶会以来のちゃんとした、新品で今一番流行だと思われるドレスが登場して、なんとなく察したわ。

 悲鳴を上げて暴れる私を、侍女さん連合は素晴らしい連携プレイで、あれよあれよと言う間にお嬢様に変身させた。
 完全にドレスに着られてる感じだけど、侍女さんたちが褒めてくれるからこれでいいのね、きっと。

 履きなれないパンプスのせいで、いつもはふかふかして歩くのが楽しい毛足の長い絨毯が敵のよう。
 顔をしかめながらもエントランスまで行けば、流れ作業のように馬車に乗せられて……

 中には同じように着飾ったグリフ様がいたわ。そして申し訳なさそうに口を開いたの。

「急ですまないが、これからパーティーに出てもらう」

 でしょうね。こんな格好させられるんですもの。それ以外考えられないわよ。
 でも、一体どこのパーティーなのかしら?

「行くのはドリウス家のパーティーだ」

 ドリウス家と言えば攻略対象3、宰相子息のイラリオ・ドリウスの家ね。
 ゲームでは、運によっては私の婚約者になったかもしれない人よ。妹と同じ年だって言うのに、三つも上の意地悪な女と婚約させられるなんて、お気の毒よね。
 あぁ、でも、私と婚約しなくてもあの縦ロールの誰かと婚約させられてたわね。それなら気の毒じゃないわね。
 今は、どうなのかしら? 王子たちも婚約者がいないなら、もしかしたら誰にも婚約者がいないのかもしれないわね。

「陛下がマチルダに会いたいそうなんだ」

 今度は国王ですの? 流石に悪女とは言われないでしょうけど……

「本当は王宮に連れて行く方がいいのだろうが、今マチルダを王宮に連れて行くのは少し問題があると言う事で、ちょうど良く陛下が立ちよる事になっていた今日のパーティー会場が選ばれた。今日のパーティーは宰相子息の誕生会だ。マチルダに近い年の子たちが多く呼ばれるから、目立たないだろう」
「そうですか」

 私に拒否権はありませんから、大人しく頷くわ。
 グリフ様はそれ以上何もおっしゃらなかった。

 私は少しだけ開いたカーテンの隙間から、流れていく景色を暗い気持ちで眺めてた。





 宰相のお屋敷は、グリフ様のお屋敷から見れば、学園を挟んでちょうど向かい側のあたりにあると言う。
 王都内で主要な役職に就く者の家はたいてい立派な道付近にあって、宰相のお屋敷も例にもれず大通りに面していて、馬車はにぎやかな商店街を通りすぎれば、特に問題もなく一時間ほどで辿りついた。

「お待ちしていました」

 降り立った私たちを迎えたのは、壮年の男性。

「この国の宰相で、ドリウス殿だ」

 グリフ様がそう紹介し、私はいつかのように挨拶をしたわよ。一応あの後習ったけど、人前で披露するのは子供のころ以来だから、正しいかは不明よ。
 どうやらパーティーはすでに始まっているらしく、軽やかな音楽がどこかから聞こえてくる。
 ちゃんとしたパーティーなんて初めてだから楽しみにしていたのに、案内されたのは音楽も聞こえない奥まった応接室。
 開けられた扉の中では、見事なマントを肩にかけた男性が一人グラスを傾けながら待っていた。
 二人の王子に良く似た、けれども彼らにはない精悍さと威厳があるわ。


――――この人が、陛下なのね。


 お茶会の時、ちらっと見たはずだけれど、悪役令嬢たちと精霊王の方が印象深くて、少しも覚えていなかったのよね。

「陛下、お待たせしました」

 グリフ様がそう頭を下げたので、私もそれに倣う。

「頭を上げて、座ってくれ」

 特に偉そうでもなく自然に陛下はそう言ったわ。
 グリフ様が動くのを待って頭を上げれば、陛下と思い切り目が合っちゃった。
 嫌だわ。じろじろ見るなんて、失礼よ。

「君がマチルダ嬢か」
「はい、初めてお目にかかります。マチルダと申します」
「……息子が君に言いがかりをつけたそうだな。すまなかった」

 陛下がそう頭を下げるので、私は小さく首を振ってみせる。
 親なんだから謝るのは当然だけど、流石にそうは言えないものね。

「言い訳になるが、あれは君の妹、ルフィナ嬢の聖気にやられているようだ」

 あら、言い訳はするのね。

 それより、せいき……って何かしら?




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