31 / 63
31.初めてのパーティー……え? 会場へ行くだけ?
しおりを挟むその日の朝、侍女さんたちが徒党を組んで突入してきたの。
今までそんなこと一度もなかったから、本当にびっくりしたわ。
誰も何も説明してくれないけれど、ちゃんとした―――子供のころ一度だけ行った王家のお茶会以来のちゃんとした、新品で今一番流行だと思われるドレスが登場して、なんとなく察したわ。
悲鳴を上げて暴れる私を、侍女さん連合は素晴らしい連携プレイで、あれよあれよと言う間にお嬢様に変身させた。
完全にドレスに着られてる感じだけど、侍女さんたちが褒めてくれるからこれでいいのね、きっと。
履きなれないパンプスのせいで、いつもはふかふかして歩くのが楽しい毛足の長い絨毯が敵のよう。
顔をしかめながらもエントランスまで行けば、流れ作業のように馬車に乗せられて……
中には同じように着飾ったグリフ様がいたわ。そして申し訳なさそうに口を開いたの。
「急ですまないが、これからパーティーに出てもらう」
でしょうね。こんな格好させられるんですもの。それ以外考えられないわよ。
でも、一体どこのパーティーなのかしら?
「行くのはドリウス家のパーティーだ」
ドリウス家と言えば攻略対象3、宰相子息のイラリオ・ドリウスの家ね。
ゲームでは、運によっては私の婚約者になったかもしれない人よ。妹と同じ年だって言うのに、三つも上の意地悪な女と婚約させられるなんて、お気の毒よね。
あぁ、でも、私と婚約しなくてもあの縦ロールの誰かと婚約させられてたわね。それなら気の毒じゃないわね。
今は、どうなのかしら? 王子たちも婚約者がいないなら、もしかしたら誰にも婚約者がいないのかもしれないわね。
「陛下がマチルダに会いたいそうなんだ」
今度は国王ですの? 流石に悪女とは言われないでしょうけど……
「本当は王宮に連れて行く方がいいのだろうが、今マチルダを王宮に連れて行くのは少し問題があると言う事で、ちょうど良く陛下が立ちよる事になっていた今日のパーティー会場が選ばれた。今日のパーティーは宰相子息の誕生会だ。マチルダに近い年の子たちが多く呼ばれるから、目立たないだろう」
「そうですか」
私に拒否権はありませんから、大人しく頷くわ。
グリフ様はそれ以上何もおっしゃらなかった。
私は少しだけ開いたカーテンの隙間から、流れていく景色を暗い気持ちで眺めてた。
宰相のお屋敷は、グリフ様のお屋敷から見れば、学園を挟んでちょうど向かい側のあたりにあると言う。
王都内で主要な役職に就く者の家はたいてい立派な道付近にあって、宰相のお屋敷も例にもれず大通りに面していて、馬車はにぎやかな商店街を通りすぎれば、特に問題もなく一時間ほどで辿りついた。
「お待ちしていました」
降り立った私たちを迎えたのは、壮年の男性。
「この国の宰相で、ドリウス殿だ」
グリフ様がそう紹介し、私はいつかのように挨拶をしたわよ。一応あの後習ったけど、人前で披露するのは子供のころ以来だから、正しいかは不明よ。
どうやらパーティーはすでに始まっているらしく、軽やかな音楽がどこかから聞こえてくる。
ちゃんとしたパーティーなんて初めてだから楽しみにしていたのに、案内されたのは音楽も聞こえない奥まった応接室。
開けられた扉の中では、見事なマントを肩にかけた男性が一人グラスを傾けながら待っていた。
二人の王子に良く似た、けれども彼らにはない精悍さと威厳があるわ。
――――この人が、陛下なのね。
お茶会の時、ちらっと見たはずだけれど、悪役令嬢たちと精霊王の方が印象深くて、少しも覚えていなかったのよね。
「陛下、お待たせしました」
グリフ様がそう頭を下げたので、私もそれに倣う。
「頭を上げて、座ってくれ」
特に偉そうでもなく自然に陛下はそう言ったわ。
グリフ様が動くのを待って頭を上げれば、陛下と思い切り目が合っちゃった。
嫌だわ。じろじろ見るなんて、失礼よ。
「君がマチルダ嬢か」
「はい、初めてお目にかかります。マチルダと申します」
「……息子が君に言いがかりをつけたそうだな。すまなかった」
陛下がそう頭を下げるので、私は小さく首を振ってみせる。
親なんだから謝るのは当然だけど、流石にそうは言えないものね。
「言い訳になるが、あれは君の妹、ルフィナ嬢の聖気にやられているようだ」
あら、言い訳はするのね。
それより、せいき……って何かしら?
10
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
次は幸せな結婚が出来るかな?
キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。
だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる