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09.十五歳は学園入学の年ですの。
しおりを挟む私は十五歳になったわ。
十五歳と言えば、学園への入学。
お兄様の時は、幼年学校からの持ちあがりだった。それでもそれなりに準備が必要とのことで、半月前ともなるとせわしない様子だった。
入学式は九月で、今は八月の半ば。
学園はオーダーメードの制服。貴族の学校だものね。
まだ採寸もしていないけど、どうするのかしら?
私から言うべきなのかしら?
私は学園に行っても行かなくてもいいから……と言うかあまり行きたくないから、このまま知らないふりしてもいいんだけど……
結局、学園の入学式には間に合わなかったわ。
私は面倒だったので、何も言わなかった。
どうせ誰も何も言わないだろうから、何も言われないならこのまま引きこもっていましょう……そう思って。
それが変わったのは、十月も半ばのことよ。
お兄様が、妹さんはどちらへと先生から聞かれたんですって。
どの国もらしいけど、十五歳から十八歳までの貴族階級の男女はすべからくどこかの学園に通うことになっているらしいの。
基本は生まれた国の学園へ通う。だけど、特別学びたいことがある場合は、留学も可能。その場合は本来行く学校へ届け出をすることになっているそうよ。
学園では私が兄と共に通うと思っていたのに、その手続きも無く留学するとの連絡もないことでお兄様へ質問したみたい。
余計なことを……と思ったのは内緒よ。
で、お兄様が慌てて帰ってきて、お父様にお話になり、それはそれは大変な騒ぎだったわ。
お茶会の再現よ。
今回、私はすぐ見つかったけど、私の予算は相変わらず動いてないし、当然学園へ行くための準備は何一つされているはずもなく。
精霊たちの嫌がらせは相変わらずあったけど、それどころではなかったのね。彼らが右往左往して必死で嫌がらせをしているのに、家人総出での入校準備には何の影響も与えなかったわ。
お父様は私を抱きしめながら、涙ながらに、
「どうして私はお前を忘れてしまうんだろう」
なんて言うの。
前は私の認識疎外のせいだったけど、今回はそこまで使ってないのよ。
だから、今回はあまり罪悪感を持たなかったわ。
でも、何か言わなきゃと思って、
「お父様、私、文字が書けませんわ」
って、言ったの。
本当は書けるわよ? 転生者だもの。
でも、私、この家では教育と言う物を受けていないのよ?
それなのに文字が書けたら、神童だわ。
それは絶対、避けなければ!
「な……」
お父様は絶句したわ。
お母様も、お兄様も、執事も、侍女長も、あんなに騒いでいた家人が、ぴたりと止まって。
音一つ立たなかった。
「どう言うことだい?」
長い沈黙の後、お父様はそう私を見たの。
そう言われましても、そのままの意味よね。
私は首を傾げて、 きょとん、と言う顔をしたわ。
自分でも、最高の演技よ!
「家庭教師はどうした?」
お父様は執事にそう尋ね、執事は青い顔でまたも帳簿を持ってきた。そして、家庭教師はすべて妹にだけついていた、と報告したわ。
―――――えぇ、知っていましたとも。
妹のところに何人もの家庭教師が来ていたことは。
専属侍女からも聞いていました。
お嬢様には家庭教師もいないんですか?
と聞かれた時、どうリアクションすべきか数分悩んだくらい。
悩んでどうしたかは忘れたけれど、きっとそのままスルーしたのね。
私はもちろんだけど、専属侍女も。
……私、どうなるのかしら……ね?
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