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教室は当然、シン、となりました
「は?」
アドリアナさんが代表して、そう言ってくれました。
「すべて私が悪いのです。私のために争うのは止めてください!」
見当違いなメアリーさんに、アドリアナさんが、額を抑えました。
最初は確かに言い争いのようでした。ですが最後は明らかに違います。
メアリーさんは蚊帳の外でした。
メアリーさんは素で自分が中心でなければならない人なのでしょうか?
皆が次に何があるのか、興味津々にまたも静まり返った教室に、
「アドリアナ嬢はいるか?」
そう言って入ってきた人物がいました。
教室中の目が前方の扉に向かいます。
扉のところには、殿下や取り巻きたちにも引けを取らない、いえそれ以上に美しい容姿の男性が一人立っていました。
「あらアルノー。ちょうどいいところに来てくれたわ。ちょっとこちらに来ていただける?」
アドリアナさんが片手を上げそう言うと、アルノーと呼ばれた男性は不機嫌そうだった顔を柔らかい微笑みに変えてまっすぐアドリアナさんへ近付いていきました。
その瞳にはアドリアナさんしか映っていないようです。
メアリーさんの取り巻きと同じ恋する男の顔をしています。
「アドリー、僕を探していたって聞いたけど、何の用だい?」
「アルノー様」
メアリーさんの声です。
アルノーさんは名を呼ばれて、不思議そうな顔でメアリーさんを見下ろし、ひどく嫌そうに顔を歪めました。
「おや、アイローラ嬢じゃないか。気が付かなかった。久しぶりだね」
不快を隠さない声でアルノーさんは言い、アドリアナさんの腰を何かから守るように抱きました。それはまるで恋人同士のように見えます。
「アドリアナさん、アルノー様とどう言う関係なんですか!」
メアリーさんが立ち上がって叫びました。
アドリアナさんが、メアリーさんのようにふんわりとほほ笑み首を傾げました。
すごーく、イヤミな感じです。
「お友達よ?」
「やっと僕を受け入れる気になってくれたのかと思ったのに、まだお友達なんて言うのかい?」
アドリアナさんに向かって、アルノーさんは破顔し、あたりに強烈な色気をまき散らし始めました。
所謂でれでれ状態です。
メアリーさんはもう泣きそうです。
「ところで、アルノーとメアリーさんはどう言った関係なの?」
今気が付いたと言うように、アドリアナさんがアルノーさんを見上げました。
「親が決めた婚約者だ。父が好きだった人の子なんだそうだよ。最近男爵家に養子として引き取られたらしくて、父がかわいそうだと僕の婚約者にしてしまったんだ。僕はアドリー一筋だと言うのに、ひどいだろう?」
アルノーさんは、それはそれは嫌そうに言い、アドリアナさんの頭の上にキスを落としました。アドリアナさんはそれを手でべしべしと払っています。
何もかもびっくりです。
腰の手はいいのでしょうか?
「アルノー様」
メアリーさんが、青い顔をしてアルノーさんをもう一度呼びました。
「君に名を呼ぶことを許した覚えはない」
アルノーさんは地の底に響くような声でそう言いました。
その目は優しくアドリアナさんを見ています。
「そんな! 私はアルノー様の婚約者じゃないですか!」
「親が勝手に決めただけだ。僕は君を婚約者だなんて思ったことはない。君には言ったはずだ。僕はアドリー以外を愛することはない、と。 だからアイローラ嬢はこの学園で良い結婚相手を探しているんだろう? 噂は聞いているよ。この国第二王子殿下の寵愛を受けていると、すごいじゃないか!」
ちっともそうは思っていない声です。
相変わらず、とろけるような目はアドリアナさんを見ています。
「そんなことありません! 殿下たちは私が庶子で、こうしていじめられているから親切にしてくださっているだけで、私はいつだってアルノー様一筋です!」
「ふん、口だけなら何とでも言えるだろう? もうアイローラ嬢は殿下のお手付きだと皆言っている。アイローラ嬢の父上だって、その噂を聞いて家に婚約解消の打診をしてきている。僕はいつでも婚約解消するといっているのに、父がうんと言わない。それに、いじめられているだって! 君こそ、僕の大事なアドリーにひどい口のきき方じゃないか。君のことを心配していると言うのに、いじめられているなんて! 僕のアドリーは君のようにすぐ男に媚びを売るような人間じゃないし、この学園でもいつも優秀な成績をとるよう努力している素晴らしい人間だ。いじめなどするわけがないだろう!」
ようやくアルノーさんの目がメアリーさんに向きました。
メアリーさんは、驚くほど恐ろしい目と声をものともせず、庇護欲を誘う涙目でアルノーさんを見上げました。
アルノーさんにはまったく効いていないようですが、取り巻きの皆さんには効き目があったようです。
「アドリアナ嬢。君は私やメアリー嬢に婚約者がいながらいちゃいちゃしていると言ったが、君こそ婚約者がいる男性に近寄っているじゃないか」
宰相次男がそうメアリーさんを守るように前に出てきました。
アルノーさんが恐ろしい目を宰相次男へと移動します。
アドリアナさんはアルノーさんの腕の中で首を傾げました。
「あら、わたくしとアルノーは本当にお友達ですわよ。ダンス以外でこのようなことしたのは今回が初めてですもの」
「あぁ、その通りだ、いつもならこんなことしようものなら、みぞおちに膝と拳が飛んでくるぞ」
恥ずかしそうなアドリアナさんを、アルノーさんがさらに強く抱き寄せて、自信満々に言いました。
「わたくし、メアリー様と貴方が校舎裏で同じようにしていた所を見たことがありますの。それに……メアリー様も皆さまもおっしゃいましたでしょう? お友達だと。ならわたくしとアルノーもお友達ですもの、これはいちゃいちゃじゃないのでしょう?」
いや、アルノーさんはそう思ってないし、充分いちゃいちゃに入ると思います。
でも、メアリーさんも取り巻きさんもさっき否定していましたから、あれ?
「私は……」
「そんなことしていないとおっしゃいますの? その様子を見ていたのはわたくしだけじゃありませんわよ、クラリス様とそのお友達も見ていらっしゃいましたわ」
しれっと、アドリアナさんは宰相次男の婚約者の名前をぶっこみました。
宰相次男が言葉と顔色を失っています。
確か宰相次男はクラリス様のお家へ婿入りする予定でした。
「それから、殿下とは生徒会室で、魔法使いさんたちは講堂と図書室で、騎士科の方は鍛錬場で、後はお相手の名前は知りませんが階段の踊り場、屋上、温室、芸術室、救護室、放課後のカフェでも見たことがありますわ」
アドリアナさんの言葉に、殿下たちが金魚のように口をパクパクさせています。
……ですよね。
実は、私も何度かお見かけしたことがあります。
婚約者も恋人もいない身としましては、なんとも羨ましい話です。
「お友達ならこれは当たり前ですわよね?」
にっこりと、アドリアナさんが笑いました。
はっきり言って、物凄く意地悪です。
「アドリアナさんはひどいです! そうやって私の婚約者を奪おうと言うのですね!」
メアリーさんがアドリアナさんへと詰め寄りました。
その勢いは掴みかからんばかりです。
アルノーさんがするりとアドリアナさんをメアリーさんから遠ざけました。
その守りから顔だけを出して、アドリアナさんが言います。
「あら、わたくしそんなこといたしませんわ。だってアルノー様とわたくしはお友達ですもの。メアリー様だっておっしゃったじゃありませんか、こんな風になさっていた取り巻きの方たちとはお友達だって」
「そんな、こと、ありま……」
「あら、違いますの?」
「アイローラ嬢、君が誰と付き合おうと僕には関係ないが、君が誰かの腕に抱かれることを良しとするなら、僕も同じことをしていいはずだ。まぁ、僕はアドリーを本気で愛しているからこそ、こんなことをするのだけどね」
アルノーさんはそう言ってアドリアナさんの頬にキスをしました。そして、
「愛してるんだ、アドリー。どうか僕を受け入れて欲しい」
トドメとばかりにアルノーさんがアドリアナさんにささやきました。
メアリーさんの目から涙が滝のようにあふれます。
「メアリー嬢」
取り巻きたちは茫然とメアリーさんを見ていますが、もうそれ以上の声はかけられないようでした。
アドリアナさんはアルノーさんの手をはたき、その腕から逃れました。
「アルノー、わたくしと貴方はお友達。それ以上でもそれ以下でもないわ。もしわたくしを本気で口説くおつもりなら、ちゃんと婚約は解消してからいらっしゃいな。わたくし、二股・三股、無限大のメアリー様とは違い、不倫や略奪は大嫌いなの!」
「何度も言われているからそんなに大声で言わなくても知っているよ、アドリー。そう言うわけだからアイローラ嬢、早めに婚約解消すると君のお父上と僕の父に言ってくれないか。君が婚約を望んでいないと言えば、すぐに解消できるだろう。僕はもう【真実の愛】を見つけてしまったんだ。君が僕を本当に好きなら、君も僕が幸せになることを望んでくれるだろう?」
たたみかけるようにアルノーさんはメアリーさんに言いました。
そして、取り巻きたちへ向かい、
「アイローラ嬢に声をかけてくれた君たちに感謝するよ! アイローラ嬢が誰を選ぶかは分からないが、君たちも早く婚約は解消したほうがいいぞ。思う存分口説けるし、後ろ指もさされないぞ!」
テンションマックスです。
そんなアルノーさんを、生温かい表情で見ていたアドリアナさんが、思い出したように手を打ちました。
「アルノーの言うとおりですわ。良い機会です、皆さまよくお話合いしたほうがいいですわ。皆さまの婚約者様たちはもう婚約解消の準備は整っているそうですもの、すぐ二股男の汚名も返上できますわよ」
「そうだ、君たちのような節操なしの顔だけ軍団と合法的に別れられると、君たちの婚約者たちもアイローラ嬢に感謝していた。僕はアイローラ嬢のような人間は大嫌いだが、君は不実な男をあぶり出すには最高の女性だったんだな!」
容赦のないお二人の言葉に、メアリーさんは放心状態です。
もう誰も、メアリーさんをかばう人はいませんでした。
アドリアナさんが起こした断罪イベントは、担任教師の登場で幕を下ろしました。
メアリーさんは、お隣の席の親切な女性によって救護室へと連れて行かれました。
殿下を始めとする取り巻きの方たちも、流石にメアリーさんと行動を共にすることは良くないと思われたようです。
このクラスの担任教師もメアリーさんの取り巻きの一人でしたが、メアリーさんの様子と教室の雰囲気、そして何が起こったのか誰も語らないことから何かを察したのでしょう。
そのことには一切触れずに、淡々と授業を進め放課後を迎えました。
そして、その日を最後に、メアリーさんは、学園から姿を消しました。
「は?」
アドリアナさんが代表して、そう言ってくれました。
「すべて私が悪いのです。私のために争うのは止めてください!」
見当違いなメアリーさんに、アドリアナさんが、額を抑えました。
最初は確かに言い争いのようでした。ですが最後は明らかに違います。
メアリーさんは蚊帳の外でした。
メアリーさんは素で自分が中心でなければならない人なのでしょうか?
皆が次に何があるのか、興味津々にまたも静まり返った教室に、
「アドリアナ嬢はいるか?」
そう言って入ってきた人物がいました。
教室中の目が前方の扉に向かいます。
扉のところには、殿下や取り巻きたちにも引けを取らない、いえそれ以上に美しい容姿の男性が一人立っていました。
「あらアルノー。ちょうどいいところに来てくれたわ。ちょっとこちらに来ていただける?」
アドリアナさんが片手を上げそう言うと、アルノーと呼ばれた男性は不機嫌そうだった顔を柔らかい微笑みに変えてまっすぐアドリアナさんへ近付いていきました。
その瞳にはアドリアナさんしか映っていないようです。
メアリーさんの取り巻きと同じ恋する男の顔をしています。
「アドリー、僕を探していたって聞いたけど、何の用だい?」
「アルノー様」
メアリーさんの声です。
アルノーさんは名を呼ばれて、不思議そうな顔でメアリーさんを見下ろし、ひどく嫌そうに顔を歪めました。
「おや、アイローラ嬢じゃないか。気が付かなかった。久しぶりだね」
不快を隠さない声でアルノーさんは言い、アドリアナさんの腰を何かから守るように抱きました。それはまるで恋人同士のように見えます。
「アドリアナさん、アルノー様とどう言う関係なんですか!」
メアリーさんが立ち上がって叫びました。
アドリアナさんが、メアリーさんのようにふんわりとほほ笑み首を傾げました。
すごーく、イヤミな感じです。
「お友達よ?」
「やっと僕を受け入れる気になってくれたのかと思ったのに、まだお友達なんて言うのかい?」
アドリアナさんに向かって、アルノーさんは破顔し、あたりに強烈な色気をまき散らし始めました。
所謂でれでれ状態です。
メアリーさんはもう泣きそうです。
「ところで、アルノーとメアリーさんはどう言った関係なの?」
今気が付いたと言うように、アドリアナさんがアルノーさんを見上げました。
「親が決めた婚約者だ。父が好きだった人の子なんだそうだよ。最近男爵家に養子として引き取られたらしくて、父がかわいそうだと僕の婚約者にしてしまったんだ。僕はアドリー一筋だと言うのに、ひどいだろう?」
アルノーさんは、それはそれは嫌そうに言い、アドリアナさんの頭の上にキスを落としました。アドリアナさんはそれを手でべしべしと払っています。
何もかもびっくりです。
腰の手はいいのでしょうか?
「アルノー様」
メアリーさんが、青い顔をしてアルノーさんをもう一度呼びました。
「君に名を呼ぶことを許した覚えはない」
アルノーさんは地の底に響くような声でそう言いました。
その目は優しくアドリアナさんを見ています。
「そんな! 私はアルノー様の婚約者じゃないですか!」
「親が勝手に決めただけだ。僕は君を婚約者だなんて思ったことはない。君には言ったはずだ。僕はアドリー以外を愛することはない、と。 だからアイローラ嬢はこの学園で良い結婚相手を探しているんだろう? 噂は聞いているよ。この国第二王子殿下の寵愛を受けていると、すごいじゃないか!」
ちっともそうは思っていない声です。
相変わらず、とろけるような目はアドリアナさんを見ています。
「そんなことありません! 殿下たちは私が庶子で、こうしていじめられているから親切にしてくださっているだけで、私はいつだってアルノー様一筋です!」
「ふん、口だけなら何とでも言えるだろう? もうアイローラ嬢は殿下のお手付きだと皆言っている。アイローラ嬢の父上だって、その噂を聞いて家に婚約解消の打診をしてきている。僕はいつでも婚約解消するといっているのに、父がうんと言わない。それに、いじめられているだって! 君こそ、僕の大事なアドリーにひどい口のきき方じゃないか。君のことを心配していると言うのに、いじめられているなんて! 僕のアドリーは君のようにすぐ男に媚びを売るような人間じゃないし、この学園でもいつも優秀な成績をとるよう努力している素晴らしい人間だ。いじめなどするわけがないだろう!」
ようやくアルノーさんの目がメアリーさんに向きました。
メアリーさんは、驚くほど恐ろしい目と声をものともせず、庇護欲を誘う涙目でアルノーさんを見上げました。
アルノーさんにはまったく効いていないようですが、取り巻きの皆さんには効き目があったようです。
「アドリアナ嬢。君は私やメアリー嬢に婚約者がいながらいちゃいちゃしていると言ったが、君こそ婚約者がいる男性に近寄っているじゃないか」
宰相次男がそうメアリーさんを守るように前に出てきました。
アルノーさんが恐ろしい目を宰相次男へと移動します。
アドリアナさんはアルノーさんの腕の中で首を傾げました。
「あら、わたくしとアルノーは本当にお友達ですわよ。ダンス以外でこのようなことしたのは今回が初めてですもの」
「あぁ、その通りだ、いつもならこんなことしようものなら、みぞおちに膝と拳が飛んでくるぞ」
恥ずかしそうなアドリアナさんを、アルノーさんがさらに強く抱き寄せて、自信満々に言いました。
「わたくし、メアリー様と貴方が校舎裏で同じようにしていた所を見たことがありますの。それに……メアリー様も皆さまもおっしゃいましたでしょう? お友達だと。ならわたくしとアルノーもお友達ですもの、これはいちゃいちゃじゃないのでしょう?」
いや、アルノーさんはそう思ってないし、充分いちゃいちゃに入ると思います。
でも、メアリーさんも取り巻きさんもさっき否定していましたから、あれ?
「私は……」
「そんなことしていないとおっしゃいますの? その様子を見ていたのはわたくしだけじゃありませんわよ、クラリス様とそのお友達も見ていらっしゃいましたわ」
しれっと、アドリアナさんは宰相次男の婚約者の名前をぶっこみました。
宰相次男が言葉と顔色を失っています。
確か宰相次男はクラリス様のお家へ婿入りする予定でした。
「それから、殿下とは生徒会室で、魔法使いさんたちは講堂と図書室で、騎士科の方は鍛錬場で、後はお相手の名前は知りませんが階段の踊り場、屋上、温室、芸術室、救護室、放課後のカフェでも見たことがありますわ」
アドリアナさんの言葉に、殿下たちが金魚のように口をパクパクさせています。
……ですよね。
実は、私も何度かお見かけしたことがあります。
婚約者も恋人もいない身としましては、なんとも羨ましい話です。
「お友達ならこれは当たり前ですわよね?」
にっこりと、アドリアナさんが笑いました。
はっきり言って、物凄く意地悪です。
「アドリアナさんはひどいです! そうやって私の婚約者を奪おうと言うのですね!」
メアリーさんがアドリアナさんへと詰め寄りました。
その勢いは掴みかからんばかりです。
アルノーさんがするりとアドリアナさんをメアリーさんから遠ざけました。
その守りから顔だけを出して、アドリアナさんが言います。
「あら、わたくしそんなこといたしませんわ。だってアルノー様とわたくしはお友達ですもの。メアリー様だっておっしゃったじゃありませんか、こんな風になさっていた取り巻きの方たちとはお友達だって」
「そんな、こと、ありま……」
「あら、違いますの?」
「アイローラ嬢、君が誰と付き合おうと僕には関係ないが、君が誰かの腕に抱かれることを良しとするなら、僕も同じことをしていいはずだ。まぁ、僕はアドリーを本気で愛しているからこそ、こんなことをするのだけどね」
アルノーさんはそう言ってアドリアナさんの頬にキスをしました。そして、
「愛してるんだ、アドリー。どうか僕を受け入れて欲しい」
トドメとばかりにアルノーさんがアドリアナさんにささやきました。
メアリーさんの目から涙が滝のようにあふれます。
「メアリー嬢」
取り巻きたちは茫然とメアリーさんを見ていますが、もうそれ以上の声はかけられないようでした。
アドリアナさんはアルノーさんの手をはたき、その腕から逃れました。
「アルノー、わたくしと貴方はお友達。それ以上でもそれ以下でもないわ。もしわたくしを本気で口説くおつもりなら、ちゃんと婚約は解消してからいらっしゃいな。わたくし、二股・三股、無限大のメアリー様とは違い、不倫や略奪は大嫌いなの!」
「何度も言われているからそんなに大声で言わなくても知っているよ、アドリー。そう言うわけだからアイローラ嬢、早めに婚約解消すると君のお父上と僕の父に言ってくれないか。君が婚約を望んでいないと言えば、すぐに解消できるだろう。僕はもう【真実の愛】を見つけてしまったんだ。君が僕を本当に好きなら、君も僕が幸せになることを望んでくれるだろう?」
たたみかけるようにアルノーさんはメアリーさんに言いました。
そして、取り巻きたちへ向かい、
「アイローラ嬢に声をかけてくれた君たちに感謝するよ! アイローラ嬢が誰を選ぶかは分からないが、君たちも早く婚約は解消したほうがいいぞ。思う存分口説けるし、後ろ指もさされないぞ!」
テンションマックスです。
そんなアルノーさんを、生温かい表情で見ていたアドリアナさんが、思い出したように手を打ちました。
「アルノーの言うとおりですわ。良い機会です、皆さまよくお話合いしたほうがいいですわ。皆さまの婚約者様たちはもう婚約解消の準備は整っているそうですもの、すぐ二股男の汚名も返上できますわよ」
「そうだ、君たちのような節操なしの顔だけ軍団と合法的に別れられると、君たちの婚約者たちもアイローラ嬢に感謝していた。僕はアイローラ嬢のような人間は大嫌いだが、君は不実な男をあぶり出すには最高の女性だったんだな!」
容赦のないお二人の言葉に、メアリーさんは放心状態です。
もう誰も、メアリーさんをかばう人はいませんでした。
アドリアナさんが起こした断罪イベントは、担任教師の登場で幕を下ろしました。
メアリーさんは、お隣の席の親切な女性によって救護室へと連れて行かれました。
殿下を始めとする取り巻きの方たちも、流石にメアリーさんと行動を共にすることは良くないと思われたようです。
このクラスの担任教師もメアリーさんの取り巻きの一人でしたが、メアリーさんの様子と教室の雰囲気、そして何が起こったのか誰も語らないことから何かを察したのでしょう。
そのことには一切触れずに、淡々と授業を進め放課後を迎えました。
そして、その日を最後に、メアリーさんは、学園から姿を消しました。
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