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夏の出会い

雑談の朝

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 さて、本日も気の重たい、補習の朝がやってきた。ただ、昨日と違う点があるとすれば、それは……。

「やぁ、石嶺さん。おはよう」

「おはようございます」

 そう、石嶺さんという女の子と、補習時間が一緒だということだ。
 彼女は昨日と同じく、僕の席の前に座っていた。通りざまに彼女の机をのぞくと、なんらかの参考書が開かれている。

「それ、なんの勉強?」

「これは『FP』というものです。夏休み明けにでもチャレンジしようと思いまして」

ットボール・レイヤー?」

「はい?」

「いや、FPっていうからさ、頭文字から連想してそうなのかな~? って」

「アメリカンフットボール選手のことを言ってるのなら、それは明らかに筆記よりも技能試験だと思うのですが」

「すごいなぁ、FP選手目指してるんだね、石嶺さんは。僕、クォーターバックとか憧れちゃう」
 ※クォーターバック=アメリカンフットボールにおける攻撃のリーダー的ポジション


 僕のくだらない冗談に、だんだんと彼女の目があきれ目になっていく。

「はぁ……もう付き合いきれません。FPとは「ファイナンシャル・プランナー技能検定士」の略で、資格の名前です」

「だろうね、そんなことだろうと思ったよ。また、帳簿関係の資格?」

「これは人生設計における資産運用アドバイザーの資格ですね」

「人生設計……っすか。あなた高校生ですよね? そんな大人っぽい資格受けられたりするの?」

「3級レベルなら、特に規定に引っかからないと思いますが」

「ずいぶんとストイックなことで。補習の課題もあるってのに」

「伊勢君も一緒に受けませんか?」

「冗談!? 学校のテストですらまともな点数取れないのに。資格の合格なんて、夢のまた夢」

「やってみなければわかりませんよ」

「いいや、わかる。僕には無理」

「そうですか、残念です」

 そう冷たく言うと、彼女は参考書を閉じた。今日は安藤先生がまだこないので、僕らはもう少し雑談を続けた。

「ねぇねぇ、そんなことよりも、あのさ……そのくそ丁寧なしゃべり方ってどうにかなんない?」

「……馬鹿にしていますか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……ほら、同級生じゃん。そうかしこまられると、こっちも気を遣っちゃうっていうか」

「申し訳ありませんが、これがの話し方なんです」

「うそでしょ?」

「本当です。私はこれが一番落ち着くんです」

「石嶺さんって、変わってるよね」

「あなたほどではないと思いますが」

 あれこれ話していると、ようやく教室にきた安藤だが、なぜか少し驚いた様子であった。 

「へぇ、こりゃ意外だな。昨日でずいぶんと打ち解けたんだね」

 こうして、今日の課題説明とプリントが配布される。

「勇之助、困らせたりとかしてないだろうな?」

「何を馬鹿な。真っ当に勉強を教わっているだけですよ」

「疑わしいなぁ……お前みたいな問題児がか?」

「ふふふ、安藤先生。それぐらいにしてあげてください。彼、けっこう素直ですよ」

 俺たちのやり取りを見て、石嶺さんが笑っている。

「石嶺さんがそういうなら、まぁ、信じてやらんこともないか。ただし、悪さしたらタダじゃおかないからな」

 ううむ、僕っていったいどういう風に見られてるのだろうか? 少し勉強嫌いというだけで人畜無害だというのに。

「石嶺さんもごめんね。こんな馬鹿の面倒見てもらって。本来なら教師がしっかり見てあげなきゃなんだろうけど、なんせ担任の先生が部活の顧問で忙しいらしくてさ。それで、俺もいろいろと事務のヘルプ頼まれてて」

「いえ、お気になさらず。私が好きでやっているだけです」

「助かるよ」

 横を向いてふてくされていると、安藤先生が僕にしか聞こえない声で耳打ちしてくる。

「石嶺さんにあまり迷惑かけるなよ。彼女、お前の指導役やりたいって希望してきたんだからな」

「え、それってどういう……」

「さて、教師はこれから仕事だ」

 意味深な言葉を残し、安藤先生は教室を去っていった。
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