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13章 召喚魔法の伝説

第210話 召喚魔法

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 キーファーはゲイルの攻撃を躱せずにいた。

 その時、ダガーがゲイルの背中を刺していた。

「ホーク! サンキュー!!」

 キーファーはホークの手を借りて起き上がると、感謝の言葉を口にした。

 ホークは拳でキーファーの胸を叩いて合図する。

「さて、こいつをどうにかしないと、いつまでも他のモンスターが消えないぞ」

 ダガーをくるくると回しながら、ホークはゲイルのほうに視線を向けた。

 ゲイルは息を整えてホークを睨みつけると、ため息をつく。

「また、邪魔者が増えたなぁ」

 ひとりごとを言うと、手の平を空にかざした。

 すると、ゲイルの手は剣へと変化する。

 ホークとキーファーは驚いた。

 手が剣になるなんて、当然見たことはない。

「手が剣に変わりやがった」

 キーファーはラプターソードを振り回して、水を起こす。

 その水は、ゲイルを巻き込んで沈ませる。

 ゲイルは剣で受け止めると、キーファーの顎を蹴った。

 キーファーはバランスを崩したが、態勢を素早く戻す。

 キーファーが態勢を戻している間に、ホークはゲイルにダガーを突き刺して、凍結させていた。

 ゲイルの血液が飛び散る。

 ただ、平然としている。

 まるで、全くダメージを受けていないかのようだ。

 ゲイルはニヤリと笑う。

「何人で来ても変わらないよ」

 剣でホークの頬をゆっくりとなぞっていく。

 ホークの頬にはジワリと血が流れる。

 血を感じながらもダガーを手に、ゲイルへと向かっていった。

「ふんっ!」

 ゲイルは、ダガーを剣に変化していない手で受け止める。

 剣に変化していない手は素手なので、ダガーを受けて血が滲んでいる。

「素手で受け止めるとは度胸がいるな」

 ホークは不敵な笑みを浮かべた。

 ゲイルは挑発されたと思って眉を細める。

「何、余裕の笑みを浮かべているの? あんた、死ぬよ」

 素早くホークの背後に回り込み、剣で首を押さえつける。

 ホークは落ち着いて、ゲイルの隙を窺う。

 しかし、なかなか隙が見えそうもない。

 それならとゲイルに足払いをする。

 バランスを崩したゲイルは、首から剣を離す。

 その瞬間、脇腹を刺される。

 ホークのダガーが、ゲイルの脇腹を刺していた。

「……チッ、使えるのは、その短剣だけじゃなかったか」

 ゲイルは脇腹を抑えながら、唾を吐く。

 一息入れてから、ホークのボディに拳を突きつけた。

 ホークは血を吐き出して、背中を地面に強打した。

 その様子を見て、ゲイルはすぐに剣をホークの喉元へ刺そうとした。

 同時に、水がゲイルを飲み込む。

 キーファーのラプターソードが、ゲイルの腿に食い込んでいる。

「何……!?」

 ゲイルは予想していなかったようで、大きなダメージを負った。

 ひざまずき、激しく息を切らしている。

「可哀そうだな、おまえも。理由はどうであれ、四天王の実験台にされたんだろ」

 キーファーはラプターソードを突きつけて言う。

 その言葉は、優しさも含まれていたが、冷酷だった。

 悔しさ、悲しさ、優しさ、助けられない後悔とたくさんの感情が溢れていた。

 ゲイルはゆっくりと立ち上がると、フッと笑う。

「僕は自分から望んで、四天王に改造してもらったんだよ」

 キーファーに剣を振り下ろしたあと、間をあけずにキックをする。

 剣を避けたものの、キックまでは避けることはできなかった。

 キーファーは、その場にうずくまった。

 ゲイルは不気味なくらい、にっこりしている。

 ホークとキーファーに向けて、指を差し、くるくる回す。

 まるで、トンボだ。

「僕は後悔してないよ、これだけ強くなったんだから。それに、四天王が喜んでたよ。大成功だって」

 その言葉にホークとキーファーは目を丸くした。

「成功ってまさか、召喚魔法を作った……?」

 ホークが口にすると、ゲイルはその通りと人差し指を立てた。

「本当に作り出すことができたのか……」

 キーファーは呆然としている。

 だとしたら、どうやって作り出したのだろう。

 伝説として話にはあったが、作り方まではわからなかったはず。

 だから、今まで召喚魔法は出てこなかったはずだ。

 その魔石を作り出したとでもいうのか。

「なんか、そんなこと、言ってたな。召喚魔法って凄いんだよ」

 ゲイルは楽しそうに答えると、拳で地面を叩く。

 すると、空が暗くなり、雷鳴が響く。

 ドラゴンが姿を現し、炎を吹いて周辺を一瞬で焼き尽くした。

 ホークとキーファーも、その炎に巻き込まれて倒れてしまう。

 火傷の跡が生々しく残る。

「これが召喚魔法……」

 ホークはゲイルを睨みつけた。

 通常の魔法よりも圧倒的に威力が違う。

 召喚させるだけでこんなにも威力が変わってくるものなのか。

 召喚されたモンスターが現れるだけで、鳥肌が立つほどの威圧感を感じる。

 その状況で炎を、いや、他にもあるとしたら、水や氷、雷などを発生させたら、この星は簡単に終わる。そう思わせるほどの威力だ。

 キーファーは、ゆっくりと態勢を整える。

 既に血だらけだ。それでも、回復薬を使って少しはマシになっている。

「どうやって、阻止するか……」

 頭の中で思考を巡らせている。

 また、召喚魔法をやられたら、確実に死んでしまう。

「召喚魔法に対抗できるものはあるのか……」

 ホークはまだ、息を切らしている。

 どうすればいいか、考えても思いつかなかった。

 だから、できる限り、ゲイルに接近し、ダガーで突き刺し、凍結させる。

 ゲイルは、ホークのダガーを振り払うと、再びドラゴンを召喚させた。

 ドラゴンは大きな口を開いて、炎を吐き出す。

 本来なら氷が炎を消す。

 だが、ダガーから放つ氷では、全く消すことはできない。

 氷の威力が足りないのだ。

 氷は炎にかき消され、ホークは仰向けになり、動けないでいた。

「ホーク!!」

 キーファーは、ラプターソードを振り回し、水を起こした。

 その水がゲイルを貫く。

 しかし、その前にゲイルの召喚したドラゴンが、大暴れして炎を撒き散らした。

 ラプターソードの水でさえ、炎を消すには足りない。

 炎はキーファーと周辺の建物や人々を巻き込む形となってしまう。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「いやぁぁぁぁ!!」

 人々の悲痛な叫び声が響いている。

 召喚魔法はあっという間に街の半分を焼き尽くした。

 ホークは息を整えて、ダガーを握り直した。

 人々の声が辛い。

 罪のない人々が犠牲になっていく。

 これが悔しい。

 助けるために戦っているのに、これでは、人々を助けることができない。

 ゲイルは、ホークの肩に剣を置く。

「あれ? どうしたの? ねぇ、凄いでしょ? 召喚魔法って」

 剣に力を込めた。

 肩を少しずつ抉っていく。

 ホークは顔を歪める。

 肩からは血がダラダラと流れ出ていた。
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