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13章 召喚魔法の伝説

第209話 青年ゲイル

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 ヴィンセントとジュンは、街の人たちを避難誘導する。

「落ち着いて、こっちへお願いします」

 ジュンは街の人たちに声をかけた。

 避難誘導しているジュンにもモンスターが襲い掛かってくる。

 大剣がジュンの背中を斬ろうとしている。

 ジュンは咄嗟に細剣、ブレードソードで大剣を振り払った。

 モンスターの大剣は、ブレードソードと重なり合う音が響いた。

「きゃっ」

「ひゃぁっ」

 ジュンとモンスターとの競り合いに、街の人は恐怖を覚えて悲鳴を上げた。

「大丈夫ですよ。こっちへ移動しましょう」

ジュンは街の人たちを庇うようにして避難させる。

 ジュンは街の人をガードしながら、辺りを見渡す。

 すると、突然、爪でジュンの首を引っ搔くモンスターが現れた。

「うっ……」

 完全に躱すことは難しい。

街の人たちをガードしたまま、ほんの少しだけ横に身体をずらした。

 深くは抉られなかった。

 それでも首からは血が滲んだ。

 街の人は呆然としていて、顔を手で覆う人もいた。

 ジュンの首から滲む血を見て叫ぶ人も。

「気にしないで。大丈夫だから。逃げるよ!」

 ジュンは街の人に、なるべく心配させないように振舞った。

「危ない!」

 街の人が叫んだ。

 モンスターがジュンを狙っている。

 ジュンと街の人を避難誘導していたヴィンセントは、モンスターに気がついた。

 街の人をモンスターから素早く遠ざけて、長剣、ブラッドソードでジュンを狙うモンスターを斬った。

 雷鳴が響き、モンスターに雷が落ちる。

 モンスターは雄叫びを上げて、ゆっくりと倒れる。

 ヴィンセントはモンスターが起き上がってくる前に、街の人を避難させた。

 完全に殺したわけではないので、すぐに起き上がってくるはず。

「ヴィンセント! 後ろ!!」

 ジュンの声がする。

 ヴィンセントは振り返るが遅かった。

 ブラッドソードを振り下ろすことができない。

「しまった!」

 跳躍してモンスターから逃れようとした瞬間。

 モンスターの拳がヴィンセントの頬を殴っていた。

「……っ!!」

 ヴィンセントはノックダウンした。

「ヴィンセント!」

 ジュンが叫ぶ。

ヴィンセントが気になるが、街の人たちをモンスターから守らないといけない。

 ヴィンセントは、意識を取り戻して立ち上がった。

「こっちは大丈夫だ。街の人たちを守るぞ!」

「よかった。ヴィンセント! 街の人守るよ!」

 ジュンは、ヴィンセントの無事が確認できて安心した。

 ただ、頬には殴られた跡と流血があった。

 ヴィンセントは頷くと、街の人を何十人も抱えるようにして、安全な場所へと進んでいく。

 安全な場所へ連れていく途中でも、モンスターは襲ってくる。

 再び、ヴィンセントへと拳を振り上げた。

 ヴィンセントはモンスターに気がつき、ブラッドソードで受け止めようとしたときだった。

 ヴィンセントよりも早く反応していたホークは、短剣、ダガーでモンスターの背中を刺していた。

 モンスターは凍結する。

「街の人を安全な場所へ頼む!」

 ホークにお礼をして、ヴィンセントは素早く街の人を避難させる。

 ホークは、ヴィンセントが街の人を移動させていることを確認した。

 そろそろモンスターの凍結が溶ける。

 そのまま、気絶してくれていればいいが、そんなに簡単にやられるほど弱くないだろう。

 凍結が溶けたモンスターは、すぐさま、ホークに飛びついてくる。

「!!」

 いきなりのことだったので、避けることはできず、ホークは押し倒された。


 モンスターは押し倒したホークに爪を刺し、胸を抉ろうとしている。

 ホークは咄嗟にモンスターの股間を蹴って、横に流れるように転がった。

 瞬時に態勢を整えて、ダガーを持ち直す。

 モンスターは股間がものすごく痛かったのか、悶絶している。

 その隙をホークは見逃さない。モンスターの背中にダガーを突き刺す。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 雄叫びを上げてモンスターは大暴れする。

ダガーを突き刺された痛みに耐えられなかったようだ。

 無造作に腕を振り上げて爪を立てる。

 だが、ターゲットを決めているわけではない。爪は空振りだ。

 ホークは、再度、ダガーでモンスターを刺す。氷がモンスターを固める。

 氷が割れると、モンスターは崩れ落ちた。

 動かないことを確認して、他のモンスターを止めにいく。





 ホークがモンスターを倒した頃。

 キーファーは、水で、モンスターを10数体まとめて流し込んでいた。

 細剣、ラプターソードを振り下ろし、モンスターをまとめて攻撃している。

 モンスターは倒れていく。

 しかし、すぐに立ち上がって複数体でキーファーに襲い掛かってくる。

「面倒だな」

 キーファーは、ラプターソードで横なぎに斬っていき、駆け抜けていく。

 同時に水がモンスターを沈めていく。

 一気にモンスターを倒そうとしているキーファーの背後に、もう一つの影が迫っている。

 キーファーも背後の影の存在に気がついた。

 振り返りざま、ラプターソードを下ろそうとした瞬間。

 背後の影のほうが、速い動きだった。

 キーファーの背後に、いつの間にか移動していた。

「!?」

 手刀で、キーファーは首を叩かれ倒れる。

「あぁ、やっかいな邪魔者が入ったなぁ」

 少年のような声がする。

 明らかに、今、倒したモンスターとは違う。

 キーファーは、ラプターソードを支えにして立ち上がる。

「誰だ?」

 ラプターソードを握る手に力を込めて、少年のような声の影を睨みつける。

「あぁ、初めましてだね。僕の名はゲイル。四天王様に貰った新たな命。思う存分、試してみたいな」

 ゲイルと名乗った少年、いや、青年はニヤリと笑う。

 声は少年のようだが、容姿を見ると18歳前後の青年だ。

 18歳は、もう立派な青年だ。

 良し悪しの判断はつくはずだが、ゲイルは判断ができなかったのか。

 四天王に命をもらったということは、言い方を変えれば、改造されたということになる。

 それとも、四天王に、むりやり研究材料に使われたか。

 いずれにせよ、四天王に手を加えられて、人間からモンスターになってしまったのは確かだろう。

 ゲイルは、キーファーの鳩尾みぞおちにパンチを食らわせる。

 キーファーは、素早くラプターソードでガードして、手を振り払った。

 ゲイルは手を振り払われた後、間髪入れずにキーファーを蹴る。

 キーファーはキックを躱すことはできず、建物に突っ込んだ。

 ゆっくりと起き上がって、ゲイルにラプターソードを向ける。

「へぇ、やってくれるじゃねぇか」

 ラプターソードで、ゲイルを叩き落とす。

 水がゲイルを吹き飛ばしていく。

 ところが、ゲイルは吹き飛ばされても、倒れることはなかった。

 体幹が強いのか耐えたのだ。

「結構、強力だね。でも、こんなんで、僕は倒せないよ」

 ゲイルは連続でパンチを繰り出し、キーファーに、ジワジワとダメージを与えていく。

 キーファーは連続のパンチを、全てガードすることができない。少しずつ体力が奪われていく。

 完全に読みが外れた。

 ラプターソードだけではなく、手でもゲイルのパンチを受け止めた。

 だが、繰り出されるパンチは素早い。ラプターソードと自身の手では足りない。

「……!!」

 キーファーは顎に強力なパンチが入り、ダウンした。

 ゲイルは倒れるキーファーに近寄ってくる。

「まぁ、結構、耐えたんじゃないの? だけど、残念だな。バイバイ」

 キーファーに蹴りを入れて、拳を振り上げる。

 蹴りを入れられ、拳を振り上げられたら動けない。

 キーファーは振り上げられた拳を躱せないと覚悟した。

 その時だった。ダガーが、ゲイルの背中に刺さった。
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