上 下
200 / 239
12章 離島 ダリ島

第200話 優しさと癒し

しおりを挟む
 セルティスは、シャロル、キーファーの過去を知り、改めて決意した。

 四天王をなんとしても止める。

 過去の話を聞き、悲しみや怒り、辛さなど、それぞれ噛み締めながら、再び、進んでいく。

 犠牲になった街の人々、街の兵士、騎士、戦士、そして、犠牲になった仲間たちの想いを乗せて。

 ロボット型モンスターを倒してから、歩いて数十分経った。

 地面には、兵士、騎士、戦士の死体が転がっている。

 セルティスは死体を発見する度に、優しく死体に触れて、感謝の気持ちを述べた。

「いつも、街や島を命懸けで守ってくれて、ありがとうございます。必ず、私が止めます。そして、こんな残酷な世界を終わらせます」

 本当なら、セルティスも死体を見ると、目を背けたくなるし、逃げたくもなる。

 それでも、国が、世界が平和になって、穏やかで安心して暮らせるように、四天王を止める。

 その覚悟を持って、怖くても戦おうとしている。

 セルティスに倣って、ホーク、キーファー、ヴィンセント、ジュン、シャロルも死体に寄り添って、感謝して、必ず四天王を止めると誓った。

 ジュンは、死体に触れて誓いと感謝をしてから、スッと立ち上がる。

「セルティスは凄いね。戦った相手にも優しくできるし、気持ちに寄り添うこともできる。あたしなら、多分できないな」

 ボソッと呟く。

 できないと言いつつも、セルティスのように優しくできたら良いなと思う。

 ジュンがセルティスの優しさに感心していると、甲高い叫び声が聞こえてきた。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 何事かと声のする方へ視線を向ける。

 そこには、ホークの背中にピッタリとくっつき、隠れているセルティスがいた。

 ホーク、キーファー、ヴィンセント、シャロル、ジュンは呆気にとられていた。

「でたぁぁぁー!!!!!!!!」

 セルティスは、ホークにしがみついている。

 もう、お決まりのようにホークは、軽々と持ち上げた。

「バッタだよ、これ。バッタならかわいいじゃん」

 セルティスは、軽々とバッタを手に取るホークに、呆然とした。

「……ごめんなさい。悪気はないんだよ。でも、どうしても苦手で。ちゃんと生きてね」

 バッタを見ながら、バッタに謝る。

 シャロルが、セルティスの行動に驚愕している。

 苦手だとはいえ、昆虫にも優しいとは。

「苦手な昆虫にも優しいなんて恐れ入ったわ」

 思わず、口にする。

 セルティスの優しさに驚いたのは、シャロルだけではない。

 ジュンは昆虫にも優しくしているところを見ると、自分にはそこまで優しくできないと思ってしまう。

 ヴィンセントも思わず口走った。

「あそこまで優しいとは思わなかったな」

 セルティスの優しい面を見た、ヴィンセントは心が穏やかになるのを感じた。

 キーファーは、ヴィンセントの言葉に頷いている。

「セルティスの優しさは、セルティスにしかない優しさだよな」

 セルティスの優しい気持ちが、キーファーを笑顔にした。

 束の間のホッとする瞬間だ。

 ホークは、セルティスに笑顔を向けると、バッタを逃してやった。

「幸運だな、君は」

 逃したバッタを見ながら呟く。

「セルティスの優しさに触れたから、きっと、あのバッタも幸せだな」

 セルティスは、バッタがいなくなっても呆然としている。

 ホークの言葉が気になる。

「どういう意味?」

 セルティスが聞く。

 ホークはニヤリと笑う。

「セルティスは気が付いていないと思うけど、俺ら、皆、セルティスの優しさに助けられてるんだぜ」

 セルティスは、ホークの言ったことに疑問を持った。

 その理由は、自分が何もしていないのに助けられていると言われても、しっくりこなかった。

 ジュンは、ホークの言っていることに頷いている。

「セルティスの優しさは、どんなに辛いことも弱さも強さも全て、包み込む。だから、心が温まって、心の傷が癒されるんだ」

「そうね。その優しさは、皆を癒してくれる。だから、その優しさを忘れないで。それと、私たちがいるから、セルティスも自分が辛くなったら言うのよ?」

 シャロルは、ジュンの言う通りだなと納得して、付け加える。

 セルティスは、ジュンとシャロルの言葉に目をパチクリさせている。

「えっ?」

 セルティスの様子に静かに答える。

 「セルティスが皆のこと心配しているように、セルティスのことも皆、心配してるってことだ」

 キーファーがうんうんと頷いている。

「そうだな、特にホークは、かなり心配してるよなぁ」

 悪戯するときの笑みで、ホークを見る。

 ホークは、キーファーを横目で睨んでいる。

「なんだよ、その悪戯っぽい笑みは」

 キーファーは、さぁなと合図をしながらも、何故か笑っている。

 セルティスは感謝の気持ちでいっぱいだった。

 最高の仲間たちだ。

 何度、助けられたことか。

 改めて、セルティスは、この仲間たちと一緒にどんなことも乗り越えていこうと強く思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王の娘に花束を~落ちこぼれ剣士と世界を変える小さな約束~

結葉 天樹
ファンタジー
それは、人と魔族が対立する世界の話。 豊富な魔力で行使する破壊の力「魔法」を用いる魔族。 わずかな魔力を効率的に運用する技法「魔術」と剣技を組み合わせて戦う人間。 長い間続いていた戦いは遂に魔族の長、「魔王」との決戦までたどり着いていた。 まもなく始まる魔王討伐戦。それを前にとある女性に騎士団への招集がかかる。 彼女の名はトウカ=フロスファミリア。王国屈指の騎士の家の出身でありながら家を追われた存在。 対して姉のオウカは王国騎士団の実力者。 共に歩んだ道はいつしか分かれ、修復不能なほどに壊れた仲のまま二人は討伐戦へ突入していく。 そこで出会うものが二人と世界を変える存在と知らずに。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN
恋愛
恋人同士まで、秒読みだと思っていたのに―― 思いを伝え合った悠里と剛士。 2人の間に立ち塞がったのは、剛士の元カノ・エリカ――ではなかった。 悠里に激しい敵意をぶつけてくるのは、エリカの親友・カンナ。 カンナは何故、悠里と剛士の仲を引き裂こうとするのか。 なぜ、悠里を追い詰めようとするのか―― 心を試される、悠里と剛士。 2人の辛くて長い恋の試練が、始まる。 ★こちらは、シリーズもの恋愛小説4作目になります。 ・悠里と剛士は、ストーカー事件をきっかけに知り合い、友だち以上恋人未満な仲 ・2人の親友、彩奈と拓真を含めた仲良し4人組 ・剛士には元カノに浮気された経験があり、心に傷を抱えている ★1作目 『私の恋はドキドキと、貴方への恋を刻む』 ストーカーに襲われた女子高の生徒を救う男子高のバスケ部イケメンの話 ★2作目 『2人の日常を積み重ねて。恋のトラウマ、一緒に乗り越えましょう』 剛士と元彼女とのトラウマの話 ★3作目 『友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを』 剛士の誕生日を、悠里と親友2人でサプライズお祝いする話 ラブコメ要素強めの甘い甘いお話です ★番外編 R18 『オトナの#秒恋 心が満たされる甘い甘いエッチ♡〜貴方と刻む幸せなミライ〜』 本編#秒恋シリーズの少し未来のお話 悠里と剛士が恋人同士になった後の、激甘イチャラブHな短篇集♡ こちらもぜひ、よろしくお願いします!

共鳴のヴァルキュリア (全話再編集完)

成瀬瑛理
SF
「少年は愛するものを守るべく、禁断の力を手にする。その時、運命の歯車は大きく回り始める――!」 ※アザゼルの突然の襲撃に混乱する第6宇宙拠点基地ラケシスのコロニー。敵の放った最新型のドールアームズ、アークの襲来にアビスで抵抗するラケシスのパイロット達。激闘が繰り広げられる中、さらなる嵐が巻き起こる。 第1話〜第6話編集完了。→第7話編集中。

捨てられた第四王女は母国には戻らない

風見ゆうみ
恋愛
フラル王国には一人の王子と四人の王女がいた。第四王女は王家にとって災厄か幸運のどちらかだと古くから伝えられていた。 災厄とみなされた第四王女のミーリルは、七歳の時に国境近くの森の中で置き去りにされてしまう。 何とか隣国にたどり着き、警備兵によって保護されたミーリルは、彼女の境遇を気の毒に思ったジャルヌ辺境伯家に、ミリルとして迎え入れられる。 そんな中、ミーリルを捨てた王家には不幸なことばかり起こるようになる。ミーリルが幸運をもたらす娘だったと気づいた王家は、秘密裏にミーリルを捜し始めるが見つけることはできなかった。 それから八年後、フラル王国の第三王女がジャルヌ辺境伯家の嫡男のリディアスに、ミーリルの婚約者である公爵令息が第三王女に恋をする。 リディアスに大事にされているミーリルを憎く思った第三王女は、実の妹とは知らずにミーリルに接触しようとするのだが……。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません

そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。 貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。 序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。 だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。 そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」 「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「すまないが、俺には勝てないぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!

処理中です...