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12章 離島 ダリ島
第197話 弱音を吐く強さ
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セルティスは顔についている血を、ホークに拭き取られて恥ずかしそうにしているとき、ジュンもまたヴィンセントのほうに駆け寄り、傷を手当てしていた。
ジュンに手当をされて、ヴィンセントは戸惑っている。
本当ならば、たいしたケガではない。
だから、放っておけば治ると思って、大丈夫だと言いたいところだが、丁寧に優しく手当てをしてくれているので、おとなしく、素直に受けている。
ヴィンセントの戸惑っている顔を見て、キーファーは笑った。
「ははははっ」
いつもクールなヴィンセントが戸惑っているとは面白い。
こんなヴィンセントを見たことがない。
突然、笑い出したキーファーに、シャロルは目を丸くしている。
「どうしたのよ? 急に……」
ヴィンセントを見ながら笑うキーファーに、シャロルは不思議そうにしていた。
キーファーもそんなに笑うことがあるのかと驚いている。
シャロルがじっと見ていることに気が付いたキーファーは、悪いとジャスチャーする。
その後で補足した。
「ヴィンセント、いつもクールだからな、あんな表情、見たことがなかったんだよ。あいつは、辛くて悲しいものを背負って、感情というものを忘れていたからな」
キーファーの言葉に、シャロルはヴィンセントを見る。
「そっか、彼は彼なりにジュンに心を許しているのかもしれないわね」
セルティスたちと出会って、少しずつ心を開いていくジュンに、安心すると同時に、シャロルは悲しさを感じた。
ジュンに強気なことを言っているが、シャロル自身も心に背負っているものがあり、限界に近づいてきている。
そろそろ背負いきれないかもしれない。
キーファーは、シャロルの異変に気が付いて、声をかけた。
「シャロル、大丈夫か?」
シャロルの顔を覗き込むキーファー。
シャロルは慌てて、大丈夫と手で合図する。
心配をかけてはダメだと思って、何事もなかったかのように冷静を装った。
キーファーは、怪訝そうな顔をする。
しかし、それ以上の追求はしなかった。ただ、一言だけ。
「シャロル、おまえに何があったのかは聞かない。でも、辛い過去や悲しみを背負っているなら、俺も背負ってやる。我慢するな」
「えっ?」
シャロルは呆然とした。冷静さを装ったつもりだが、キーファーにはバレていた。
「私は大丈夫よ」
それでも、騎士としてのプライドなのか、弱みを見せたくないシャロルは、凛として、キーファーを心配させないように努めた。
キーファーは呆れた。
「おまえはジュンを守ろうと、自分のことを後回しにしてたんだろ。それだけジュンが心配だったから。でも、ヴィンセントにジュンを任せられると思って、安心したんだろ。なら、今度は自分のことを考えるべきなんじゃないのか?」
シャロルは、キーファーに言われて、頭が追いつかなくなっていた。
「私は、騎士よ。どんなときでも強くいなきゃいけないのよ」
そうは言うものの、実際、図星だったので、正直、自分の心がわからなくなっていた。
何故だか、心がモヤモヤする。
キーファーはため息をついた。
「おまえなぁ、強くいるってことは、我慢することじゃねぇぞ。弱音を吐けることも強さだ」
シャロルの反応を見て、話を続ける。
「弱音を吐くことは、逃げることでもない。人間は弱さをずっと心に秘めておくなんて無理だ。心が壊れてしまう。何故か、弱音を吐くなという風潮があるけどよ、弱音を吐けなくて自ら命落とす人もいる。そうなる前に弱音を吐き出して、仲間で分け合って、助け合わなきゃいけないんだよ」
シャロルはキーファーの話を聞いて、次第に力が抜けていく。
「……なんで……」
身体がよろめいてしまう。
キーファーは、咄嗟にシャロルを抱きとめた。
「だから、我慢し過ぎだって……」
ジュンに手当をされて、ヴィンセントは戸惑っている。
本当ならば、たいしたケガではない。
だから、放っておけば治ると思って、大丈夫だと言いたいところだが、丁寧に優しく手当てをしてくれているので、おとなしく、素直に受けている。
ヴィンセントの戸惑っている顔を見て、キーファーは笑った。
「ははははっ」
いつもクールなヴィンセントが戸惑っているとは面白い。
こんなヴィンセントを見たことがない。
突然、笑い出したキーファーに、シャロルは目を丸くしている。
「どうしたのよ? 急に……」
ヴィンセントを見ながら笑うキーファーに、シャロルは不思議そうにしていた。
キーファーもそんなに笑うことがあるのかと驚いている。
シャロルがじっと見ていることに気が付いたキーファーは、悪いとジャスチャーする。
その後で補足した。
「ヴィンセント、いつもクールだからな、あんな表情、見たことがなかったんだよ。あいつは、辛くて悲しいものを背負って、感情というものを忘れていたからな」
キーファーの言葉に、シャロルはヴィンセントを見る。
「そっか、彼は彼なりにジュンに心を許しているのかもしれないわね」
セルティスたちと出会って、少しずつ心を開いていくジュンに、安心すると同時に、シャロルは悲しさを感じた。
ジュンに強気なことを言っているが、シャロル自身も心に背負っているものがあり、限界に近づいてきている。
そろそろ背負いきれないかもしれない。
キーファーは、シャロルの異変に気が付いて、声をかけた。
「シャロル、大丈夫か?」
シャロルの顔を覗き込むキーファー。
シャロルは慌てて、大丈夫と手で合図する。
心配をかけてはダメだと思って、何事もなかったかのように冷静を装った。
キーファーは、怪訝そうな顔をする。
しかし、それ以上の追求はしなかった。ただ、一言だけ。
「シャロル、おまえに何があったのかは聞かない。でも、辛い過去や悲しみを背負っているなら、俺も背負ってやる。我慢するな」
「えっ?」
シャロルは呆然とした。冷静さを装ったつもりだが、キーファーにはバレていた。
「私は大丈夫よ」
それでも、騎士としてのプライドなのか、弱みを見せたくないシャロルは、凛として、キーファーを心配させないように努めた。
キーファーは呆れた。
「おまえはジュンを守ろうと、自分のことを後回しにしてたんだろ。それだけジュンが心配だったから。でも、ヴィンセントにジュンを任せられると思って、安心したんだろ。なら、今度は自分のことを考えるべきなんじゃないのか?」
シャロルは、キーファーに言われて、頭が追いつかなくなっていた。
「私は、騎士よ。どんなときでも強くいなきゃいけないのよ」
そうは言うものの、実際、図星だったので、正直、自分の心がわからなくなっていた。
何故だか、心がモヤモヤする。
キーファーはため息をついた。
「おまえなぁ、強くいるってことは、我慢することじゃねぇぞ。弱音を吐けることも強さだ」
シャロルの反応を見て、話を続ける。
「弱音を吐くことは、逃げることでもない。人間は弱さをずっと心に秘めておくなんて無理だ。心が壊れてしまう。何故か、弱音を吐くなという風潮があるけどよ、弱音を吐けなくて自ら命落とす人もいる。そうなる前に弱音を吐き出して、仲間で分け合って、助け合わなきゃいけないんだよ」
シャロルはキーファーの話を聞いて、次第に力が抜けていく。
「……なんで……」
身体がよろめいてしまう。
キーファーは、咄嗟にシャロルを抱きとめた。
「だから、我慢し過ぎだって……」
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