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11章 ノワール王国

第179話 心の変化

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 シャロルは、レンに蹴られてうずくまっていた。

「いたたたっ……」

 シャロルは、咄嗟に受け身の姿勢をとったので、ダメージを最小限に抑えた。

 キーファーは、ケロッとしているシャロルに呆然とするも、すぐに回復薬を渡した。

「これ、使え」

 シャロルは、キーファーに回復薬をもらって、ウインクした。

「え……」

 シャロルのウインクは、ありがとうという意味だろうが、キーファーは戸惑った。

 可愛く思えて、ドキッとする。

 シャロルは、回復薬を飲み込んだ。

 今さらだが、セルティスたち全員が持っている回復薬は便利で、水なしで飲むことができる。

 そして、すぐに効くとはいわないが、通常の薬と比べれば、効くのも早い。

 レンは、シャロルの背後から、ひっそりと狙おうとする。

「死ね!」

 レンの気配に、シャロルは振り返る。

 振り返ったら、既に拳が顎に当たる寸前だった。

 ラプターソードから繰り出される水が、レンを襲う。

 キーファーがレンを斬ると、水が押し寄せてきた。

 レンは、ゆっくりと倒れていく。

 それでも、まだ、戦おうと立ち上がろうとするが、身体がふらつき、膝をつく。

「今、おまえの状況がどんな状態なのかわかってるか?」

 レンは、フッと笑う。

 理由はレンにしかわからない。

 何が可笑しかったのだろうか。

「今の状況ね……」

 レンは呟く。

 キーファーは、呆れ返った。

「お前の今の状況と同じだったんだぞ。ここで命を落とした者たちは」


 レンは、キーファーに言われても、そんなことは知らないと目で答える。

 余裕をかましていたレンだが、次第に意識が薄れていくのを感じた。

 だんだんと目も開かなくなってくる。

 キーファーとシャロルは、レンの瞼が閉じるまで、見届けると、ヴィンセントとジュンに視線をむけた。

 ジュンが、かなりの傷を負っていることを見て、シャロルは駆け寄ろうとする。

 すると、その様子を見ていたジュンは、手で待ったと合図をする。

「ヴィンセントを助ける!!」

 ジュンの口調は、はっきりしていた。

 シャロルは驚いていた。ジュンが自ら戦おうとしている。

 今まで、自分の危機を感じたときに、本能的に戦うスタイルだった。

 だから、人を助けようとする姿勢に感動と驚きを覚えた。

「ジュン……人に興味持ったのね」

 ジュンは、シャロルの声が聞こえていたようで、ムスッとした顔をした。

「うるさいよっ! 助けられてばかりは嫌だからだよ!!」

 何故、シャロルに強く言ってしまったのか、ジュンにもわからなかった。

 そして、ヴィンセントを助けたいと思ったときの感情もよくわかっていない。

 シャロルは苦笑いした。

「はい、はい。いつもとは違う心に、自分でもよくわかっていないみたいね」

 ジュンは、シャロルをジーッと見つめる。

「なんだよっ」

 頬を膨らませて、まるで、子供のような表情を見せると、ライドにブレードソードを振り下ろした。

 すると、光がライドを包む。

 光と同時に斬る。

 ライドは舌打ちして、拳で地面を突き、大地を揺らした。

 そして、竜巻を起こし、ジュンに向けて放つ。

 光と竜巻が絡み合う。

 ジュンとライドの姿は見えなかった。

「ジュン!!」

 ヴィンセントは、ジュンの安否が気になって近づく。

 光と竜巻が消えると、ゆっくりとジュンとライドの姿が見えてくる。

 姿が見えてくると、ヴィンセントは目を丸くした。

 膝をついて、息を激しくしているジュンの姿がある。

「弱いねぇ、そこの女は」

 ライドは、ケラケラと笑って、ジュンの顔を蹴ろうとする。

 ヴィンセントは素早く、ジュンに覆いかぶさるようにして庇った。

「……っ!!」

 ヴィンセントは咳込みながら、ジュンに回復薬を飲ませた。

「……ヴィンセントは大丈夫なのか……?」

 ジュンは荒々しい息をしながら、口を開いた。

「俺は大丈夫だ。あまり喋るな」

 ヴィンセントは、静かに立ち上がると、ライドを睨みつけた。
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