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11章 ノワール王国

第176話 自分には何ができる?

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 ライドとレンは、目の前にいるキーファーたちを見ながら、ニヤリとする。

「おまえ、どっちを殺したい?」

 レンが訊くと、ライドは嬉しいそうに答える。

「こっちは、俺が相手するよ」

 ライドの視線は、ヴィンセントとジュンを捉えていた。

 ヴィンセントは、ため息をついた。本来なら戦いたくはない。

 だが、罪のない人々の命が奪われていき、城の中には、王子と王妃がいるとなれば、避けることはできない。

「ジュン、戦えるか?」

 ジュンに声をかける。

 ジュンは一瞬、何故、そんなことを訊くのか疑問に思ったが、ヴィンセントに言われて、勇気が出てきた。

「大丈夫だよ。あたしも戦いには慣れてる」

 ジュンはそう言って、戦闘態勢に入った。

 力強い声に、ヴィンセントはひと安心した。

「わかった、でも、危なくなったら無理するな。何かあったら、俺が守ってやる」

「えっ?」

 ヴィンセントの言葉に、ジュンはキョトンとした。

(今、守ってやるって言った……? な……何を……)

 ジュンは胸がキュンキュンしている。

(えっ……? なんで、キュンキュンしてるんだ……こんなこと……)

 明らかに動揺してしまい、ライドに隙を見せてしまった。

 目の前にはライドの拳が鳩尾を打つ寸前だった。

 ヴィンセントは素早く、ライドの拳を掴む。

 そして、片手でブラッドソードを振って、腹を叩いた。

「大丈夫か? 無理に戦えとは言わない。まだ、落ち着かないだろ?」

 淡々と答えるヴィンセントだが、でも、その言葉の奥には、ジュンへの優しさが感じられる。

「ありがとう、ごめん。でも、あたしも戦うよ!」

 ジュンは、再度、構え直した。

 ヴィンセントを信じようと心の中で言い聞かせる。

 仲間を信じようと決めたのだ。

 フーッと長く息を吐く。

 ライドは、ジュンの行動を見て目を細めた。

「ふーん、そういうことか。ならば……」

 ライドは、何かをひらめいたようだった。

 拳を地面に突きつけると、土が浮き上がってきて、ヴィンセントを狙う。

 ヴィンセントは、瞬時にブラッドソードで、土を斬るようにして躱していく。

 軽やかな動きで、ライドに攻撃できるときがあればと窺っている。

 だが、ライドもヴィンセントの隙を狙っている。

 ヴィンセントとライドが同時に動く。

 ブラッドソードが先かライドの拳が先か。

 その瞬間をジュンは見逃さなかった。

「ヴィンセント!」

 ヴィンセントは大量の血を吐き出していた。

 急いで、ジュンは駆け寄ろうとした。

 そのときだった。

 ライトが拳で作り出した土が、ヴィンセントを鋭く突き刺していく。

 血液が舞う。

「ヴィンセント……!」

 ジュンは、どうしていいか、わからなかった。

 今まで感じたことがない何かがジュンの中に生まれた。

(なんだろう? この感情は。まだ、会って間もない。だけど、凄くヴィンセントのことを心配している自分がいる。このまま、死なせたくない! ヴィンセントが目の前から消えたら、不安や恐怖が襲ってきそうだと感じるのは何故?)


 そんなことを考えているうちに、ヴィンセントは立てない状態にまでなっていた。

 ジュンの気持ちを理解したのか、していないのか、わからない。

 ヴィンセントは膝をつきながら、ゆっくりと呼吸をしながら、回復薬を使った。

 その間にも、ライドはヴィンセントに蹴りを入れようとする。

 ヴィンセントは、立てない状況の中で、素早くその場から逃げた。

「ヴィンセント、大丈夫なのか?」

 ジュンは、ヴィンセントに声をかける。

 ヴィンセントは、ライドのほうを見ながら、ジュンを安心させるために口角を上げた。

 普段、あまり笑うことがないので、顔が引きつっている。

 それはジュンにもわかった。

「笑ってるのに、顔が引きつってる」

 ジュンに言われ、ヴィンセントは困った顔をした。

 そんなに引きつった顔をしていたのか。

 ライドは、大きく息を吐いた。

「もっと、楽しませてくれよ。こんなんじゃないだろ? 今まで四天王の手下を倒してきたんだろ?」

 ライドは拳を振り上げ、ジュンを狙う。

 ヴィンセントは、ジュンを素早く抱き、ライドから距離を置く。

 だが、次の瞬間、動きが見えないほどの速さで、ヴィンセントの鳩尾をパンチした。

 また、土が動きを鈍らせた。

 ジュンは、倒れそうになるヴィンセントの身体を支える。

 そのとき、何もできない自分が悔しくなってきていた。

 会ってすぐに何度もヴィンセントは助けてくれた。

 それなのに、自分は助けていない。

 このまま助けられてばかりでいいのだろうか。

 そんな思いがジュンの中で芽生えていた。

(何やってるんだ! あたし! ヴィンセントは何度も助けてくれただろ! あたしはこのままでいいのか……? あたしには何ができるんだ?)

 ライドはつまらなさそうに、ヴィンセントを睨みつけた。

「おかしいなぁ、今まで倒してきたのに、この程度の強さなわけないだろ!」

 ライドが足を振り上げたとき、ジュンは咄嗟にヴィンセントを押して、ブレードソードで光を放ちながら、ライドの横腹を斬る。

 ヴィンセントは、いきなり、ジュンに驚愕した。

 意外と強く押されたので、バランスを崩し、倒れそうになる。

「おっ……」

 思わず声が出た。

「おわっ!? ごめん……」

 ジュンは、バランスを崩しそうなヴィンセントを見て、慌てて腕を掴んで、倒れないようにした。
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