上 下
174 / 239
11章 ノワール王国

第174話 女子トーク

しおりを挟む
 セルティスは、朝からラウンジスクワットをしている。

「フォームが崩れる……」

 ラウンジスクワットとは、足を前後に開いて行うスクワットで、主にふくらはぎとヒップを鍛える。

 ホークは、セルティスの姿を見て、ちょっかいを出してくる。

「おっ、明日、雪でも降るかもな」

 ニヤニヤしているホークを見て、セルティスは、ムスッと頬を膨らませた。

「なんだよ……」

「かわいい。珍しいもんな、セルティスが朝早くから行動してるの」

 ホークは、膨らませているセルティスの頬を指で押す。

「あたしだって、本当は早起きなんだよっ」

 セルティスは、子供扱いしてくるホークの胸をポカッと叩いた。

 なんだかんだいっても、この時間が幸せだ。

 しばらく、ホークもセルティスのトレーニングに付き合い、2時間くらいやっていた。

 そんな様子を見ていたキーファーも、セルティスが既に起きていることに驚いた。

「珍しく早いな」

「なんで、キーファーまで言うかなぁ」

 セルティスはムッとしている。

 セルティスとキーファーが会話をしていると、ジュンが姿を現した。

「おはよう、ジュン」

 セルティスは笑顔で挨拶する。

「お、おはよう……」

 ジュンは戸惑いながらも挨拶した。

「あの……」

 ジュンは何か言いたげだったが、黙ってしまった。

「いいよ、言いたくなかったら」

 セルティスは、優しく声をかける。

 ジュンは過去のことがあって、あまり人と接することをしてこなかったので、どうしたらいいかわからなかった。

 ジュンの様子を見て、キーファーは、初めてヴィンセントと出会ったときのことを思い出した。

 ジュンに話しかける。

「まぁ、安心しろ。初めは人との接し方、わからないのはジュンだけじゃないから。こいつも初めて会ったときは、そんな感じだったしな」

 ヴィンセントに視線を送る。

「そうなのか……?」

 ジュンは、ヴィンセントの姿を見て、ドキッとしてしまった。

 助けてくれただけでなく、頭を預けて大泣きして、それでも嫌な顔をせずに、じっと泣きやむまで待っていてくれたのだ。

 そのときの温もりが忘れられず、安心感を覚えて、胸が熱くなった。

 顔が赤くなるのを感じて、ヴィンセントから目を逸らす。

 ヴィンセントもまた、ジュンから視線を外していた。

 そのため、キーファーは疑問符が頭に浮かんでいる。

「あの2人、何かあったのか?」

 ひそひそ声でホークに尋ねる。

「俺に聞かれても、わからん」

 ホークは、突然のことに困惑してしまった。

 セルティスは、ひそひそと話している、ホークとキーファーに呆れた。

「女心、わかってないなぁ」

 セルティスに言われた、ホークとキーファーは、また、小さな声で話し合っている。

「女心ってなんだ……?」

 セルティスは、ホークとキーファーを無視して、ジュンに声をかける。

「ヴィンセントは、きっと、ジュンの気持ちがわかるんだよ。真っ先に助けたのはヴィンセントだし」

「うん。ヴィンセントも仲間を殺さないと、命の危機と罪のない人々が犠牲になるから、殺さるを得なかったって言ってた。状況は違うけれど、あたしの両親のように殺さなかったら、もっと犠牲者が増えるから、殺すしかなかったんだよな。ヴィンセントも。殺したあとの何とも言えない恐怖を味わった。罪を背負うことになるけど、それよりも、殺したあとの……なんて言ったらいいか、わからないけれど、でも、凄く怖かった。ヴィンセントもそんな気持ちだったのかな」

 ジュンはボソッと答える。

「そうかもしれないよ。だから、ジュンのことが心配なんだよ。ヴィンセントは。でも、あんなに優しくされたらドキッとするよね」

 セルティスは苦笑いしながら、言った。

「え……へっ?」

 ジュンは目を丸くして、セルティスを見ている。

「あたしもね、人を信じられなくなっていたときがあったんだ。でも、そんなとき、いつも、優しくしてくれたのが、ホークなんだ。最初は、ドキッとして、なんか、変な気持ちだった。どうして、この人はこんなに優しくしてくれるんだろうって思ったよ。いつも、あたしの気持ちを受け止めてくれる」

 セルティスは、ちょっと恥ずかしそうにしている。

「ホークも辛い過去を背負っているにも関わらず、いつも笑顔でさ。どうしてだろうって考えてた。答えはわからなかったけど、だんだん、信じられるようになってきて……いつの間にかホークを好きになってた」

 ジュンは黙って聞いている。

 セルティスは続けた。

「ジュン、少しずつでいいから、ヴィンセントを頼ってみてもいいんじゃないかな。あたしも、信じることもできなかったし、頼ることもできなかった。でも、今は、信じることも頼ることもできる。きっと、ホークがあたしのことを信じて頼ってくれたから、あたしも信じて頼ることができるようになったんだと思う」

「……本当は、助けてほしかった。だから、ヴィンセントに助けられたとき、嬉しかった。でも、胸が熱くなるのを感じて、なんだか、おかしくなりそうなんだ。どうしちゃったんだろう?」

 ジュンは、今の気持ちを素直に打ち明けた。

「人に興味を持ったんだよ。そのうち、自分でもわかるようになるよ。だから、今は、ヴィンセントを頼ってもいいんじゃないかな。仲間を凄く大事にする人だから、どんなことがあっても放っておかないよ」

 セルティスに言われて、ジュンは、セルティスたちを信じてみようと思えた。

「それにさ、頼られること、嬉しいみたいだよ。男子は」

「えっ、そうなのか?」

 セルティスがニヤッと笑っている。

 ジュンは目を丸くした。

「少しずつでいいから、頼ってね。それに、あたしたちもいるし」

「ありがとう」

 セルティスに力強く言われて、ジュンは心強かった。

 セルティスとジュンが笑っている。

 その光景に、ホークはホッとした。

 セルティスもようやく前を向けるようになったのだ。

 また、ジュンも前を向こうとしている。

 ヴィンセントも、セルティスとジュンの笑顔を見て安堵した。

 同時に、ジュンの笑顔を初めて見て動揺した。

 魅力的に感じたのか、何故かじっと見つめてしまう。

 キーファーは、ヴィンセントの顔を見て、完全に確信した。

 ジュンに惚れたと。

 あまり、女の子に興味を示さなかったヴィンセントが、ここまで、ジュンのことを気にかけるとは、この先が楽しみだ。

「ちゃんと、大事にしろよ」

 キーファーは、ヴィンセントを小突いた。

 ヴィンセントはキーファーを睨みつける。

「おまえなぁ……」

 とはいうものの、ヴィンセントは、ジュンが気になっている自分を信じられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル

初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。 義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……! 『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527 の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。 ※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。 ※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...