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11章 ノワール王国

第173話 過去を乗り越えよ!

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 セルティスたちは、シャロルの家で、ジュンの悲惨な過去を聞いて、何も言えなくなっていた。

 シャロルは、一息ついてから話題を変えた。

「今日は、ここ、好きに使っていいから泊まっていって。私は、普段、お城を守らないといけないから、滅多にこの家使っていないのよ。これから、また、任務をしないといけないから」

 シャロルはそう言うと、仕事へと出かけて行った。

 セルティスは、シャロルを呼び止めようとしたが、その前に、シャロルは家を出てしまった。

「……ジュンのこともあるし、お言葉に甘えよう」

 ホークはセルティスの肩をポンッと叩いて言った。

「そうだな……」

 セルティスは嫌な予感がする。

 そんなセルティスの様子に、キーファーも心配そうに声をかけた。

「どうした?」

「なんか、胸騒ぎがする。ノワール王国には、何かあるかもしれない」

 セルティスが打ち明けると、ヴィンセントも頷いた。

「シャロルっていったか、何もなければいいが……俺も嫌な予感がする」

 ヴィンセントも不安そうな表情をしている。

 ホークは、不安そうにしているセルティスの肩をポンっと叩く。

「大丈夫だ。俺がついている。今日は休もう」

「ありがとう」

 セルティスは、ホークの温もりにホッとした。

 キーファーも、ヴィンセントに声をかける。

「俺は、もう休むぞ」

「あぁ……」

 ヴィンセントは一言だけ答える。

「おまえ、その子のこと心配なんだな」

 キーファーは、ジュンのことを見つめていることから、ヴィンセントの心に何かが芽生えたのだと感じた。

 仲間がモンスター化して、殺してしまったヴィンセントにとって、状況は違うと思うが、両親を殺した罪を背負っている、ジュンの気持ちが痛いほど理解できた。

 だからこそ、ジュンのことが心配になるのだ。

 しばらくして、ジュンが目を覚ます。

「んっ……」

 ジュンは、ゆっくりと起き上がる。

「シャロルの家……」

 ジュンは周囲を見回す。

「えっ? あっ……」

 ジュンは、ヴィンセントの存在に気がついて、ドタバタしてしまった。

(なんで、シャロルの家に……? 確か、名前は……ヴィンセントって……)

 整理しようと心を落ち着かせた。

 ヴィンセントは、壁に寄りかかって眠っていたが、ジュンの気配に目を覚ました。

「目が覚めたか」

 ジュンに声をかける。

「あたしは、なんでここに……」

 ジュンは、ヴィンセントに訊く。

 ヴィンセントは、ここまでのことを説明する。

「あ……ありがとう、2度も助けてくれたんだ」

 ジュンは呟いた。

 ヴィンセントは一息ついた。

「シャロルから聞いた。辛かったな、今まで」

「えっ?」

 ジュンは、急に涙が出てきた。

「なんで、そんなこと……ずっと、我慢してたのに……そうやって優しい言葉をかけられたら、我慢できなくなる」

「……罪を背負うって辛いよな。俺は大切な仲間を殺した。その罪は重い」

 ヴィンセントは淡々と答えているが、重みのある言葉だった。

「ジュンと同じように、殺さなきゃ、命の危険が迫ってたし、他人に迷惑をかけて、罪のない命を奪っていくと思ったから、仲間を殺した。その罪を背負っていくのも嫌になる。でも、乗り越えていかないといけないと思う。まだ、俺も乗り越えられないけどな」

 ヴィンセントは一度、深呼吸をしてから再び語った。

「あんなことがあったら、人を信じることもできない。俺も正直、人を信じられるかと言ったら、まだ、完全に人を信じられていないかもしれない。でも、俺だけじゃなくて、セルティス、ホーク、キーファーも、罪を背負っている。辛くて、しんどくて、ひとりでは抱えきれなくなることもある」

「もう……これ以上、言われたら、本当に……」

 ジュンは拳を握って、泣くことを我慢していた。

「ひとりで抱えきれなくなったら、我慢しなくていい。俺たちは、ひとりで抱えきれなくなったものを仲間に受け止めてもらって、過去を乗り越えようとしている。だから、ジュンも我慢しなくていい。俺が受け止める」

 ヴィンセントの言葉は、ジュンの涙腺を崩壊させた。

「なんで……? あたしを助けてくれるんだ? もういいよ……」

 ジュンの目から大粒の涙が溢れていた。

「バカッ、我慢できなくな……ううぅぅぅぅぅ!!!」

 ジュンは、ヴィンセントの胸を掴んで、文句を言おうとしたが、いつの間にか頭を預けて泣いていた。

 ヴィンセントはどうしていいか、わからず、ただ、ひたすら、ジュンが泣き止むのを待った。
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