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11章 ノワール王国
第172話 壮絶な過去
しおりを挟むヴィンセントに身体を支えられたジュンは、意識を失ってしまった。
額から血が流れ出ていることから、ヴィンセントは、ジュンの傷口を優しく手当てした。その後で、セルティスたちに同意を求める。
「休める場所、探そう」
ヴィンセントの意見に、頷いたセルティスたちは、休める場所を探すことにした。
ジュンを、ヴィンセントが背負っている。
その姿は、キーファーも初めて見た。
女の子に対して、優しく対応しているヴィンセントを見ると、ほっこりする。
「よかったよ、おまえに優しい心があって」
キーファーは、フッと笑みをこぼす。
ヴィンセントも悪い人ではないことは知っているが、いつもクールだし、優しさはあっても、ちゃんと表現できないというところもあるだけに、今回はちゃんと目で見てわかる。
ヴィンセントは、キーファーのいたずらな視線を感じて、睨みつける。
「なんだよ……そんなに意外なことしてるか? 俺」
「別に。なんか、セルティスたちと会って、心が穏やかになったなと」
キーファーは笑みを浮かべる。
セルティスは、キーファーに呼ばれて首をかしげる。
だが、キーファーは、何でもないという合図をするので、そのままスルーした。
セルティスたちは、ようやく山を抜けてたどり着いたところは、都心のような賑やかな街だった。
看板にはノワール王国と書いてある。
この街には城もあるようで、兵士たちが見張っている。
部外者が入りにくい雰囲気だ。セルティスたちは、何があるかわからないため、警戒しながら、ゆっくりと足を踏み入れた。
街の人たちは、セルティスたちを見ても、恐れたりはしなかった。
むしろ、ヴィンセントが背負っているジュンの姿を見て驚いている。
「ジュン様! 何があったのですか?」
若い男性兵士が駆け寄ってきた。
セルティスたちは事情を説明すると、ある場所へ迎え入れた。
セルティスたちが案内された場所は、女騎士の家だった。
「ジュンが迷惑をかけたようで、申し訳ないです」
丁寧に女騎士が謝る。
その女騎士は、ウェーブのかかった、ロングでグリーンの髪に銀色の瞳を持つ。
騎士なので、鍛えているだろうが、案外細身だ。
年齢は30代後半、キーファーと年齢が近いだろうか。
「私は、シャロル・フォールと申します。あなたたちは?」
女騎士、シャロルは丁寧に挨拶する。
セルティスは仲間のことを紹介した後で、ジュンのことを聞く。
「あの……ジュンは……」
シャロルは挨拶が終わると、敬語から、もっと親しみやすい言い方に変える。
「保護した子よ」
「保護?」
セルティスたちは口をそろえて聞き返した。
「この子、いろいろあってね、少し、心を開けるようになったけれど、まだ、人間を信じられないところもあるんじゃないかな」
今は、ベッドで眠っているジュンを見ながら、ため息をついた。
セルティスは、少し、間をおいてから、ジュンから聞いた話をする。
「えぇ、ジュンの両親が、10年前、四天王を造り出したことに関わっていたことは確かよ。そのことがあって、両親は、ジュンのことより四天王に愛情を注いでいて、虐待を受けていたのよ。まだ、幼いながらに必死で逃げていたのよね。この街で発見されて保護した」
「虐待……」
セルティスは心が痛んだ。
境遇は違うけれど、ジュンを自分自身と重ねていた。
「でもね、四天王を造り出した両親の娘だからといって、人々も、あまりいい顔しなかった。だから、孤独だったのよね。10年前……ジュンが、9歳になったとき、悲劇は起こったわ」
シャロルは大きく深呼吸をしてから、続きを話す。
「両親がこの街に現れた。でも、目的は、ジュンに会いに来たわけではなかった。四天王を使って、この街を襲うため。ジュンにとっては、両親には恐怖心しかない。虐待されていたんだから。自分の命の危険を感じたのか、本能的に戦おうと思ったのかもしれない。両親を殺してしまった。それから、人々からの嫌がらせもエスカレートしていった。四天王を造った両親の娘ということと、両親を殺してしまったという罪を背負っていかなければならなくなって、完全にジュンの心は崩壊した。こんな重いこと、ひとりで背負いきれるはずがないのに、ひとりで背負い込んでしまって……」
シャロルは、ジュンの力になれなかったことを悔しそうにしている。
「四天王が復活して、また、元を造りだしたのは、両親だからと、どんどん罪を背負っているのよ。あの子。両親が造らなければ、四天王が復活することもなかったと思ってる」
セルティスたちは、ジュンの過去を聞いて、何も言えなかった。
セルティスたちもそれぞれ、悲しい過去を抱えているが、幼いころから、両親の罪を背負わされているジュンのことを考えたら……
セルティスたちは、ジュンの辛い過去を聞き、ジュンの心をなんとか支えることはできないかという思いを強くした。
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