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10章 極寒の町 コールドクール

第164話 冷酷

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 イネスは、ハリーの様子を見て、舌打ちをした。

「何? あいつ、死んだの? 弱すぎ」

 冷たく言い放ったイネスは、セルティスとホークを睨みつけた。

「仲間が死んだのに悲しいとも思わないのか」

 ホークが問うと、イネスは鼻で笑う。

 「そんな感情、私にはないからね。ただ、人間が死んでくれればいい。それだけよ」

「可哀そうだな、造られたとはいえ、心のない人間だから」

 セルティスは、ラグナロクを構えながら、イネスの様子を見ている。

「可哀そう? 私が?」

 イネスは、短剣を投げた。

 セルティスは、短剣をラグナロクで振り払いと、炎を巻き起こした。

 炎がイネスの服を燃やす。

 イネスは、燃えた服を見て、短剣を素早く拾って、セルティスの首を刺そうと、背後から狙った。

 しかし、ホークの動きの方が早かった。

 ホークが先にイネスの腿に、ダガーを突き刺していた。

 同時に氷が弾ける。イネスの血液が飛び散る。

「少し動揺したな」

 ホークは、イネスを睨む。

「動揺? するわけないでしょ! 死ねぇ!!」

 イネスは、ホークに短剣を突き刺す。雷がホークに落ちる。

「うっ!」

 ホークは咄嗟に躱そうと、身を捻って横に飛ぼうとしたが、間に合わなかった。

 膝をつくホークに、イネスは、容赦なく次の攻撃を仕掛けてくる。

 短剣が喉めがけて刺さる寸前だった。

 ラグナロクから、放たれた炎が、イネスを襲撃した。

 炎がイネスの身体を貫いてくる。

「本当に悲しい。人を殺すだけに造るって、何のために生まれたんだか、わからないよな」

 セルティスは、ゆっくりとイネスに近づいてきた。

「普通の人間のように生きられれば、きっと、イネスも幸せになれたかもしれない」

 イネスは野生の動物が威嚇をするように、鋭い形相だった。

「幸せ? 私は人間を殺す。それができなかったら、死を意味する」

 イネスは、セルティスに短剣を腰に刺す。

「っっ!」

 短剣を隠しておいて、ゆっくり近づき、気づかれないように腰に刺したため、セルティスは反応ができなかった。

 セルティスは、腰を押さえながら、片手だけでラグナロクを振り下ろす。

 普段なら両手で持ちながら振るので、なかなか力が入りにくい。

 それでも、丹田を意識すれば、あまり力を入れなくても、攻撃はできると思って、片手で振った。

「何よ!」

 ラグナロクから出た炎が暴れ出していて、イネスにしつこくついてくる。


 イネスは、短剣で雷を起こし、炎にぶつけた。

 雷と炎は重なり合うと、ゴォォォォと大きな音を立てて、消えていった。

「あんた達、意外としぶといのね」

 イネスは、短剣を地面に刺す。雷の音が響く。

 その雷は、セルティスとホークに剣で心臓を抉られたような感覚を覚えさせた。

「うわあっ!」

「うぁぁぁ!」

 セルティスとホークは膝をつくだけでは、身体を支えきれず、倒れてしまう。

 セルティスはホークのほうを見て、声をかける。

「大丈夫か?」

 セルティス自身、意識が遠のくのを感じた。

「セルティスこそ、大丈夫か?」

 ホークは、ぼやけている視界の中で、セルティスの姿を見る。

 セルティスは丹田を意識して、完全呼吸をした。

(落ち着け、まだ、ここで死ぬわけにはいかない!)

 薄れていく呼吸の中でも、負けまいと、胸とお腹を膨らまして、大きく息を吸った。

 ゆっくり吐いて、胸とお腹が凹むのを感じる。

 このとき、丹田にまで新鮮な空気を吸うイメージを持った。

 横隔膜を動かすように、呼吸をする。

(私に足りないのは、メンタル! 大丈夫、あたしなら、仲間を、ホークを守れる。大丈夫だ! 守るって決めたんだろ! 今まで、どれだけ、仲間やホークに守られた? 今度はあたしが守る番! イネスを倒す!)

「ここで……」

 セルティスは、ゆっくりと息を吐いた。

 弱いかもしれないけれど、それなりに、ちゃんとトレーニングを積んできている。

 そう言い聞かせて、セルティスはラグナロクに力を込めた。

(イネスにはかわいそうだけど、倒すしかない! あの世で幸せに過ごしていることを願う!)

 もう一度、長く息を吐くと、目が鋭くなった。

「負けてたまるかー!!!!」

 ラグナロクを思いっきり振ると、炎が放たれた。

 その炎は、大きく激しく燃えている。

 その炎が、イネスを囲み、逃れられないようにした。

「きゃぁぁぁぁ!!」

 イネスの悲鳴が響く。

 セルティスには、悲しい悲鳴に聞こえた。
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