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10章 極寒の町 コールドクール

第162話 優越感

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 ブラッドソードで、ハリーの背中を斬ったヴィンセントは、冷たく言い放った。

 それは、命の重みを考えろということだ。

 ハリーにとっては、命の重みなどわからないかもしれない。

 人を殺すために造られた人間だから。

 でも、造られた人間とはいえ、今、ハリーも生きている。

 生きているということがどういうことなのか、命とはどういうことなのか、戦いの中で、ヴィンセントは、ハリーに気付いてほしい、そんな思いがあった。

 ハリーは、ヴィンセントに回し蹴りをする。

「命の重みなんか知るか! 人間が死ねば、それでいい!!」

 ヴィンセントは、ハリーの回し蹴りを、低い体勢になって躱すと、ブラッドソードをハリーに叩きつける。

「おまえだって、わかってるだろ。それだけ傷を負えば、痛みや苦しみがある。それでも、命を軽く考えるのか?」

 ヴィンセントのブラッドソードを、真剣白刃取りのように受け止めたハリーは、ブラッドソードを払いのけた。

「わからないな、人間っていうのは」

 ハリーは、首辺りをキックをしようと足を振り上げる。

 ヴィンセントの視線が、ハリーの足に向いたとき、キックと見せかけて、アッパーのパンチで、ヴィンセントの鳩尾を打つ。

 ヴィンセントは身体が丸くなり、血を吐き出した。

 ハリーは、ヴィンセントのそばへゆっくりと近づいてくると、ヴィンセントの足首を蹴る。

「苦しい? 痛い? 人間はそんなこと感じるんだ」

 ハリーは、ニヤニヤとしながら、ヴィンセントの背中を踏みつける。

「もっと、もがけば? 痛いんだよね? 苦しいんだよね?」

 ハリーは、ヴィンセントを見て優越感を覚えた。

 セルティスたちが生きていたことが悔しくて仕方がなかった。

 負けたと感じたからだ。

 だが、結局、この戦いで強いのは自分だと確信しているようで、そう思ったら、嬉しくてたまらない。

 こんなに自分が強いということが嬉しいとは。

 そんな気分になっていた。

「やっぱり、あんたたち弱いじゃん。それなのに、また、立ち向かってこようとするなんて、おかしい。負けることがわかっているのにさ」

 調子に乗っているハリーに、刃が背中から貫かれた。

 水がハリーに押し寄せてくる。

 ハリーを貫いたのは、ラプターソードだ。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 キーファーがラプターソードをハリーに向けて、鋭い形相で睨みつけている。

「負けるなんて、俺は思ってないぜ」

 ハリーは、ふっと笑うと、自分に向けられている剣先を掴む。

「もう、負けたようなもんじゃないか。しつこい奴らだな」

 ハリーの拳が、キーファーの顎を狙った。

 ため息をついてから、キーファーは、ハリーの拳を掴むと、腕を動かせないように固定した。

「くっ……」

 ハリーは、咄嗟に、キーファーの膝裏を蹴る。

 腕を掴まれて、思ったように動けなかったハリーのキックは、全くキーファーには効かなかった。

「離せ」

ハリーは、キーファーから、何とか逃れようと暴れている。

「静かにしてろ」

 キーファーは、手刀でハリーの首の後ろを叩く。

「あっ……!」

 ハリーは、一瞬、意識が飛ぶのを感じた。

「調子に乗ってるんじゃねぇよ」

 キーファーが、ラプターソードを振り下ろそうとしたとき、ハリーは素早く、キーファーの目の前から姿を消す。

「速い」

 キーファーは、目の前から一瞬で消えたハリーに感心した。

 背後から気配がしたキーファーは振り返って、ハリーの攻撃に備えた。

 ところが、ハリーはまた姿を消していた。

「死ね」

 ハリーがキーファーの首を蹴るが速いか、キーファーの反応が速いか、ほぼ同時だったような気がする。

 ドサッ

大きな音を立てて倒れたのは、キーファーだった。

 ハリーは、何事もなかったかのように、にっこりと笑っている。

「だから、言ったじゃん、どうせ、勝てないんだからさ、さっさと死んでほしいんだけど」

 ハリーは、ヴィンセントと同じように、キーファーを踏みつけた。
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