女剣士セルティス

10章 極寒の町 コールドクール

第159話 戦い再び

　セルティスたちは、人々の叫び声に駆け寄ってみると、残酷な光景を目の当たりにした。

「なんだこれは」

　レビーは体を震わせていた。

　たくさんの遺体が転がって、中には凍結されて動けない人々もいた。

　この光景を見て、すぐに察する。

「やったのは、あいつらか」

　ホークは悲しげな表情で遺体と凍結された人々を見つめる。

　コールドクールに初めて来たときと同じ光景。こんなことをしたのは。

「イネスとハリー」

　セルティスは静かに答えると、遺体の手をそっと握り、優しく声をかけた。

「もう少し、早く気づいていれば……ごめんね」

　セルティスが手を握った遺体は、4歳くらいの少年だ。

　未来ある子供の命まで奪う残酷な現実。心が痛い。

　「へぇ、よくわかったね。やったのは私たちよ」

　イネスがニヤリと笑った。

「まさか生きているとは思わなかったな」

　ハリーもイネスに続く。

「あっ、でも、2人がいないってことは、その2人は死んだかな？　確か、キーファーとヴィンセントっていう名前だったかなぁ」

ハリーは拳を振り上げ、セルティスを狙った。

「！」

　セルティスは、咄嗟に後退し、身体を反らしてハリーのパンチをかわした。

「意外と回復が早いじゃん」

　ハリーはセルティスの背後に回って、耳元で呟くと、首を蹴った。

　セルティスは、ハリーのキックを避けることはできなかった。

　それでも、咄嗟に受け身をとったおかげで、ダメージは少ない。

「やっぱり、お前たちがやったんだな」

　セルティスは、ハリーとイネスを睨みつけると、ラグナロクを横なぎに振った。

　炎がハリーとイネスを囲む。

　その炎は、まるで噛みつこうとしている獣のように、ハリーとイネスを容赦なく燃やした。

　同時に炎をガードしようと、イネスは雷を作り出し、ホークは氷を発生させて、炎をかき消す。

「あら、前より怖いねー、女剣士さん」

　イネスは、わざとらしく言って笑みを浮かべている。

「でもね、俺たちには勝てないよ」

　ハリーはそう言うと、セルティスの鳩尾にアッパーのパンチをする。

　その動きは一瞬でセルティスには見えなかった。

　そこに氷の刃が突き刺さる。

　セルティスは血を吐き出した。

　今のセルティスのレベルでは、完全に敵わないと感じる。

「ゴホッ」

　更にイネスが短剣で脇腹を刺すと、雷光が体をビリビリと走り、セルティスの傷が深くなっていこうかというときだった。

　イネスは地面に叩きつけられた。

「きゃぁぁー！！」

　甲高い声が響く。

　イネスを叩きつけたのは、ホークだった。

　ホークが押し倒して、ダガーでイネスの鎖骨を切っていた。

「ふざけんなよ！」

　ホークは、今にも殺す勢いで、鎖骨を抉ろうとしている。

　そのとき、ホークの背後から、ハリーが拳で叩きつけた。

　氷がホークを突き刺す。

　素早く振り返り、腕でガードしたものの、氷が牙を剥いて、腕からはダラダラと血が流れた。

「俺達には勝てないってわかっているのに、挑んでくるんだね」

　ハリーが拳を突きつけると、再び、氷を作った。

　その氷は、ホークを凍結させようとしている。

　ハリーはワクワクした。人間は簡単に死ぬ。

　そう思うと、たまらなく楽しい。

　氷が、ホークの身体を伝って凍結しかけたとき、レビーの拳が、ハリーの顔に飛んでくる。

　同時に鋭い光が、ハリーの身体を通り抜けていく。

「うわぁぁっ！」

　ハリーは地面に手を突いた。

「人々の凍結を解け！」

　レビーは、ハリーの胸ぐらをつかんだ。

　すると、イネスがレビーの目の前にやってくる。

「うるさいわね、私たちがいる限り、人間は死ぬのよ」

　イネスが、レビーの腹を短剣で刺した。同時に雷が身体中に走る。

「っの野郎！！」

　レビーは、イネスの鳩尾を蹴って、光を放つ。

　その光はイネスの身体を貫いていく。

　イネスは、すぐに立ち上がって、レビーの背後に回り込むと、首を絞める。

　レビーを逃げられない状態にして、短剣を腰にくいこませた。

「うぅぅぅっ！！」

　レビーは、腰を押さえる。

　血液がポタポタと地面を赤く染めていく。

「あなた達も馬鹿ね。一度、負けてるのに、また、挑んでこようとするなんて、本当に馬鹿としか言いようがないわ」

　イネスは、セルティスたちを小馬鹿にして笑った。