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10章 極寒の町 コールドクール

第146話 コールドクールの夜

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 セルティスたちは、今日は休むことにする。

 気がつけば、日が落ちている。コールドクールの夜は、人々が凍結していて不気味だ。

 休むにしても、休む場所がない。

 もし、休める場所があったとしたら、ヴィンセントが所有する海賊船だけだ。

 セルティスたちは、海賊船に戻ることにした。

 そこなら、とりあえずは休めるだろう。

 海賊船に戻ってきたセルティスたちは、各自で休む。

 不気味なくらい静かな夜だ。

 ただ、波の音が穏やかに聞こえてくるのみ。

 波の音が心を落ち着かせてくれる。

 セルティスは、しばらく波の音を聞いていた。

 心地が良い。

 心が浄化されていくようだ。

 セルティスが波の音を聞いていると、背後で声がする。

「波の音が心地いいな」

 ホークの声だ。

 セルティスはホークに微笑みながら、頷いた。

 しばらく、セルティスとホークは、静かに波の音を聞いていた。

 静かな夜に優しく聞こえてくる波。

 心地良くて、そのうち、ホークは眠ってしまった。

 「ホーク?」

 セルティスが呼びかけたときには、完全に夢の中だったようだ。

 そのうち、ホークはセルティスにもたれかかる。

(いつも、あたしのこと、お世話してくれているから、疲れるよな)

 セルティスは、ホークの寝顔を見て微笑み、指でそっと額に触れた。

 また笑みが溢れる。

 日が増すごとにホークがかっこよく見えるのは、気のせいだろうか。

 それとも愛しているから、かっこよく見えてしまうのか。

「いつも、ありがとう」

 セルティスは、ホークの髪を撫でた。



 レビーは砂浜で、パンチやキックをして、動きを確認している。

もっと、強力なパンチやキックができるようになりたいようだ。

 パンチするときは相手に当たる瞬間だけ力を込める。

 そうすることでもっと強力なパンチができると頭ではわかっている。

「……フッ!」

なかなか、力の加減がわからず、脱力ができないものだ。

 相手に当たる瞬間以外は、脱力。

 これが簡単なようで一番難しい。

「どうしたら、脱力して、当たる瞬間だけ力が込められるんだ!」

 レビーは、できない自分に苛立ちを感じている。

「何をそんなに悩んでいるの?」

 レビーは思わず振り返った。

 今、仲の良かったフィアという女性の声が聞こえた気がした。

「そんなわけないか」

 フィアは、レビーが仲良くしていた女性だ。

 恋仲というよりは女友達だった……と思う。

 自分でもフィアのことが好きなのか、気持ちがわからないまま、失ってしまったから。

「脱力って肩を下げて、全身の力を抜くだけじゃダメなんだよ。目に力がはいりすぎてない?」

「!?」

 レビーは周囲を見回した。

 フィアがいるのだろうか。

 フィアがいるなら、会いたい。

 だが、周囲を見てもフィアの姿はない。

 空耳なのか、それとも、どこかで見ているのか。

「フィア、いるなら返事してくれ」

レビーが呟いた。

――――「あら、私はいつでも、あなたの心の中にいるわよ」

 レビーは、目の前の姿に目を丸くした。

「フィア……?」

 夢なのか現実なのか、わからない。

「あなたは、私を助けられなかったって、ずっと後悔してるのよね。その後悔が迷いを生むのよ」

 黒くストレートの長い髪を持つフィア。風で髪がなびいている。

「迷いがある……?」

 レビーは首を傾げた。

「そう、また助けられなかったらという迷い。それがあるから、どんなに脱力しても、強力なパンチやキックはできないわよ」

 フィアは、にっこりと笑って、レビーの目の前で人差し指を立てた。

「心の脱力ができていないのよ。私を助けられなかったって後悔してくれるのは、嬉しいよ。私のこと考えてくれているから。でも、もう、自分を許してあげてよ。私は、レビーのこと怒ってないよ。いつも、助けようとしてくれてたんだから。ありがとう。レビーが私のことで迷っているなら、もう大丈夫よ。レビーがずっと迷っていたら、私は安心できないわよ。レビー、いつまでも、過去に縛られてないで、新たな幸せを見つけなさい。幸せになるために、四天王を止めて」――――

 「フィア!!」

 レビーは、何度も周囲を見るが、フィアの姿はなかった。

 いったい何だったのだろう。

 レビーにはわからない。

 でも、フィアの言う通り、過去に縛られていたのは事実だ。

 ずっと、フィアを助けられなかったという後悔があって、引きずっていた。

「ありがとう、フィア。おかげで目が覚めた」

 レビーは、何故、フィアが出てきたのか、不思議だったが、フィアが出てきたおかげで、吹っ切れることができた。



 キーファーは、海賊船に備え付けてあった毛布にくるまって、横になっていたが、なかなか寝付けなかった。

 不気味なくらい静かな夜だ。

 恐怖心や不安も出てくる。

 フーッと息を吐いて、懐からお守りを取り出した。

 そのお守りの中には1枚の写真が入っている。

 4歳くらいと2歳くらいの男の子、その後ろには笑顔の女性がいた。

 その写真をじっと見つめた。

 写真に写る男の子2人と女性は、キーファーの妻子だ。

 10年前、キーファーは、兵士をしていて、ある城を守るように命令されていた。

 しかし、その城の王は、四天王の奴隷になってしまい、王と戦うことになってしまった。

 その王は、モンスター化してしまい、苦戦を強いられていた。同時に四天王は、キーファーの妻子を殺した。

 写真を見ながら、過去を思い出して、悔しさと悲しさが入り混じった感情が出てきて、涙が出てきた。

「あのとき、助けに行ってれば……」

 キーファーは、写真を抱きしめるようにして、何度も謝った。

「本当にごめん。もっと、一緒にいたかった。ごめん、助けられなくて」




 ヴィンセントは、海賊船に対して感謝した。

「ありがとうな、また、動かす日が来るとは思わなかった」

 海賊船に声をかけながら、海賊たちのことを思い出した。

9歳のとき、両親が殺されてから、海賊たちに育てられて、凄く楽しかった。

 皆で騒いで、笑顔が絶えなかった日々だった。

それなのに、突然、海賊たちはモンスター化した。

 何故、モンスター化したのか、わからなかった。

 理由はわからなくても、無差別に人々を殺していく以上、戦わなくてはいけなくなってしまった。

 あのとき、助けることができたら、今も海賊仲間と楽しく暮らせてたのだろうか。

 ヴィンセントは、そんなことを考えながら、海を眺めていた。

 海賊仲間も失って、モンスター化したのは何故か、調べるようになってから、キーファーと会った。

 ヴィンセントにとって、キーファーと会ったことは、心の支えだった。

 キーファーが助けてくれなかったら、自ら命を絶っていたかもしれない。

 照れくさくて面と向かっては言えないけれど、キーファーに対しても、とても感謝している。

「ありがとう、キーファー」
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