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10章 極寒の町 コールドクール

第142話 船酔い

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 コールドクールの町までは、かなり遠い。

 街の人に、コールドクールの道を聞くが、街の人も知らないらしい。

 地図で位置を確認すると、海を越えないといけないらしい。

 どうやって行くか、セルティスは頭を悩ませた。

 すると、普段はあまり話さないヴィンセントが口を開く。

「船で行くか。もう少し行くと俺の故郷がある。そこに船があるはずだ」

 ヴィンセントは、海賊なので船の扱いには慣れているし、故郷に行けば、船が残っているはずだと考えた。

 セルティスは、フーとため息をついた。

 できれば、船は乗りたくないが仕方ない。

 船は嫌いではないのだが、船酔いしやすいから心配だった。

「わかった、とりあえず、故郷に行こう」

 セルティスは承諾した。

 まだ、この時、誰もセルティスが船酔いすることなど、知らなかった。

 セルティスたちは、ヴィンセントの故郷へと向かった。

 といっても、ヴィンセントの故郷に行くのも、少し時間がかかる。

 それでも、コールドクールの町に行くには、船が必要だ。

 2時間くらいかかって、ヴィンセントの故郷へとやってきた。

 ヴィンセントの故郷は、人々がいなければ、建物もない。

 セルティスは目を丸くする。

「これは……」

 驚いていたのは、セルティスだけではない。

 ヴィンセント以外の全員が驚愕した。

 ヴィンセントは、淡々と答える。

「壊されたからな、故郷も仲間も」

 もう、枯れ果てたような表情をするヴィンセント。

 本当は悲しく辛いと思うけれど、それを見せないようにしている。

「壊されてから、そのままになっている。だから、何もない」

 ヴィンセントは静かに言いながら、船のある場所へ向かう。

「あった」

 ヴィンセントの声に、セルティスは船を見つめる。

 豪華な海賊船だ。

 ただ、街や仲間が壊されてから、手入れもしていないのか、古くなっている。

「ちょっと古びてるけど、大丈夫だ。問題ない」

 ヴィンセントは、船を隅々までチェックした。

 セルティスは、淡々としているヴィンセントを見て、心配になる。

 本当は過去の悲しい出来事を思い出すから、ここに来たくなかったのではないかと思った。

 そんなセルティスの様子を察したか、ヴィンセントは一言。

「気にするな」

 セルティスは頷いた。

 ヴィンセントに悟られたかと思いつつ、心配はしなくても大丈夫かとも感じた。

 「よし、行くか」

 キーファーが声をかける。

 キーファーの声で、セルティスたちは船に乗り込む。

 セルティスたちが乗ったのを確認して、ヴィンセントは舵を切る。

 ずっと、船に乗っていたのか、船の動かし方はスムーズだ。

 船はゆっくりと進んでいく。

 船がウォーミングアップしているようだ。

 その船は、だんだんと速くなっていった。

 船の中で、ヴィンセントの過去を知ることになった。

 ヴィンセント本人は、舵を切っているので、ヴィンセントには聞こえないようだが、キーファーが教えてくれた。

「本当は、来るの嫌だっただろうな。故郷に」

 キーファーはため息をついた。

「正確には、街や人を壊されたというより、ヴィンセントの海賊仲間が、モンスター化して戦わざるを得なくなってしまった」

「モンスター化した?」

 レビーが目を丸くした。

「ただでさえ、10年前に、まだ、ヴィンセントが9歳だったころに、四天王に両親を殺された。ヴィンセントを助けるために犠牲になったんだ。たまたま、ひとりになったヴィンセントを海賊たちが引き取って、育ててくれた。でも、まさか、四天王が復活するとは思わなかっただろうな」

 キーファーは一息ついた。

「育ててくれた海賊たちが、モンスター化して戦うことになった。その時は理由がわからなかったから、何故、モンスター化したのか調べていたらしい。俺が、ヴィンセントに出会ったのもその頃だ。その頃から、行動を共にするようになった。ヴィンセントは淡々としているけど、本当は傷ついていると思うぞ。仲間を殺したという苦しい思いをずっと背負ってるしな」

 キーファーの話を聞いて、セルティスたちは、呆然とした。

 ヴィンセントは、セルティスたちには見せないようにしているけれど、ずっと仲間を殺したという罪を背負っている。

 「まぁ、本人もそんなに言わないしな」

 キーファーはそう言うと、風に当たりに行く。

 風が気持ちいい。

 このままうたた寝でもしたいくらいだ。

 ホークやレビーも、ちょうどいい風に心地よさを感じていた。

 疲れや戦いのことなど忘れてしまいそうだ。

 ところが、セルティスは口を押えている。

「気持ち悪い……」

 セルティスは完全に船酔いしてしまった。

 船に這いつくばる格好となっている。

 ホークは、セルティスの気分が悪くなっていることに気が付いて、駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

「……」

 どうやら、セルティスは話すこともできないくらい気分が悪くなったようだ。

「船酔いしてるのか……」

 ホークは、セルティスの背中を優しくさする。

「酔い止め薬、あったかな……」

 ホークは、酔い止め薬を探し始めた。

「あった!」

 酔い止め薬を出すと、セルティスに飲ませる。

「うぅぅ……」

 セルティスは、苦しそうな声を上げる。

 セルティスは、あまりに気分が悪くなって、ホークの胸に倒れこむ。

「セルティス……?」

 胸に倒れたと思ったら、完全に横になって、ホークは膝枕をする形になった。

 レビーとキーファーは、大変だと思うけれど、ちょっと可笑しかった。

「ホーク、頼られてるなぁ」

 レビーは、ホークの膝で倒れこんでいるセルティスを見て、からかっている。

「あのなぁ……」

 ホークは、レビーの言葉に呆れながら、セルティスの背中をさすっている。
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