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9章 騎士の村

第136話 守る!

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 セルティスは、ラグナロクで長刀を受け止めると、鳩尾に蹴りを入れて、ボールドのバランスを崩した。

 ホークはセルティスの戦いぶりに感心していた。

 確実に格闘の技術も上がっている。

 ボールドは、想像以上に戦闘能力が高いセルティスに苛立ち始めている。

「やるなぁ」

 長刀を振って水を起こし、その水が長刀の代わりにセルティスの肩を貫く。

 セルティスは、水の動きが読めなかった。

 それでも、一瞬のうちに体の向きを変えて、完全に貫かれることを防いだ。

 ただ、肩から血が滲む。

 ボールドは今の攻撃を咄嗟の判断で、体の向きを変えて防御しようとしたセルティスに感心した。

 水は自由気ままに動いていたため、読むことはできないと自信があったために、掠った程度で済んだことは、セルティス以外には見たことがなかった。

 セルティスは、ボールドの動きを見て、次の攻撃を見極めようとしている。

 間が空く。

 ボールドもセルティスの動きを観察して、次の一手を考えている。

 その間がチャンスと思ったホークは、背後から気配を消して、ゆっくりとボールドに忍び寄った。

 セルティスは、ホークの動きに気が付いたが、気づいていないフリをして、ボールドの気を引く。

 ホークは一瞬でボールドに近づき、ダガーで深く突く。

 氷がホークを固めていく。

 「なに?!」

 ボールドは、全く、ホークの気配に気づかず、ダガーで突かれてから、初めて、存在に気がついた。

 おまけにホークは、ボールドからアイテムを盗んだ。

「銃まで持ってたんだ」

 ホークは銃をクルクル回している。

 ボールドは、ホークに対して長刀を振り下ろす。

 水がホークに巻きつくかのように、周りをウロウロとしている。

 ホークは水から離れようと、銃を撃ちながら、左右に動く。

 タイミングがズレる。水がホークを飲み込んだ。

「うぅぅ」

 ホークは膝をついて息を激しく切らした。

 腕から血液がポタポタと地面に落ちる。

「ホーク!」

 セルティスがホークの方へと近づこうとした瞬間、水がセルティスを深い闇へと引きずっていく。

「……っっっ!!」

 うつ伏せに倒れてしまった。

 セルティスは、ゆっくりと呼吸を整える。

 このとき、思い出した。

 アンディがトレーニング中に言っていたこと。

 それは、呼吸についてだ。

 ゆっくりと呼吸をして整えるとき、普段は腹式呼吸を使っている。

 腹式呼吸でも十分効果はあるが、腹式呼吸をマスターしているなら、逆腹式呼吸を使うと、さらに効果がある。

 また、五感をフルに使うことも、相手の力を利用することもできる。

 武道ではよく知られていることで、基本だ。

 セルティスは、逆腹式呼吸をする。

 フーッとゆっくり吐くとき、お腹を膨らませるが、膨らませるとき、力が入りがちになるので、お腹を膨らませても、お腹をガチガチに力を入れないことがポイントだ。

 ボールドは、セルティスとホークが大きなダメージを受けたことが快感だった。気持ちよさそうに大笑いしている。

「所詮、その程度なんだよ。人間は」

 ボールドがいい気になっていたそのときだった。

 ダガーが飛んできた。

 ボールドはダガーに素早く反応したつもりが、ダガーは急に方向を変えた。

「なっ……」

 ボールドは急に方向を変えたダガーに対応できず、背中を刺された。

 ホークはダガーを抜き取ると、ボールドにストレートのパンチをする。

「おぅっっ!!」

 ボールドは顔を地面に叩きつけられた。

「いい気になるなよ」

 ホークは冷たく言い放つ。

 セルティスは、調子に乗っているボールドにイラッとしていたため、ホークの言葉にスッキリした。

「かっこいい」

 セルティスはボソッと呟く。

 その声がホークに届いたか、どうかはわからない。

 ボールドは、ホークの攻撃にムッとして、強引に長刀を振り下ろした。

 ホークは軽快な足取りでステップし、長刀を躱すと、ボールドの首を蹴った。

「いろんな奴がいたけど、おまえほど調子のいい奴はいなかったな」

 ホークは吐き捨てると、瞬時にボールドに近づき、ダガーを突き刺す。

 ボールドはダガーを持つ手を掴み、ホークから姿を消す。

 ホークは五感をフルに使って、ボールドの気配に集中するが、どこにも気配がない。

 気配がしないことに緊張が走る。

「どこにいる?」

 ホークは周辺を見回しながら、ボールドの姿を探す。

 「ここだ!」

 ボールドがホークの目の前にやってきて、長刀を腹に突き刺した。

 ホークは躱せる態勢が整わず、腹を押さえながら息を整える。

 大量出血している。

 セルティスはホークのほうへと駆け寄り、回復薬を投与しようとしたときだった。

 ボールドの長刀がセルティスの脇腹を斬った。水が鋭く突き刺さってきた。

「っっっっ!!」

 セルティスは、すぐに動くことができなかった。

 ホークに回復薬を飲ませようとして気を取られ、ボールドの攻撃に気が付かなかったのも悪かったと後悔する。

 ホークは、セルティス、わき腹を刺されたことを知って、重い足取りでセルティスのそばに行こうとする。

 ボールドはセルティスを助けようとするホークを阻止する。

 ホークの目の前に姿を現して、長刀で行く先を止める。

「庇い合いをしても、どうせ死ぬんだぜ。だったら、わざわざ助ける必要もないだろ」

 挑発するかのように言うボールドに、ホークは一言放つ。

「どけ」

 ボールドは、にやりと笑って、ホークの肩を長刀でゆっくりと切り刻んだ。

「うっ……」

 ホークは痛みをこらえながら、ボールドの隙を見て、太ももにダガーを突き刺して、ボールドの長刀を払いのける。

「セルティス!」

 ホークはセルティスのほうへ歩み寄り、セルティスに回復薬を投与した。

 そのあとで、ホーク自身にも回復薬を飲み込んだ。

「大丈夫か? 奴は、強いんだか弱いんだかわからないけれど、明らかにセルティスを狙っている」

 ホークは静かに言うと、セルティスはグッと拳を握り締めた。

「なら、あたしだけを狙えばいい。でも、ホークも狙われている」

「それは俺が邪魔だからだろう。きっと、奴はセルティスを自分のものにしようとしている」

 ホークは、ボールドを睨みつけながら言った。

「セルティス、ゆっくり休んでろ。奴は俺が倒す。セルティスを守れないようじゃ、男がすた廃る!」

 ホークの力強い言葉に、セルティスは安心感と不安とが入り混じった。

「大丈夫。俺は死なないから」

 ホークはそう言って、ポンっとセルティスの頭を叩いた。

「わかった、信じるよ。ホークのこと」

 セルティスは心配な気持ちもありつつも、ホークが言うならと任せてみることにする。

「必ず、セルティスを守る!!」

 ホークはそう言って、ボールドへと向かっていった。
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