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9章 騎士の村

第128話 1人の人間として

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 森の中で一晩過ごしたセルティスとホークは、完全に体力が回復したわけではなかったが、少しは回復できた。

 ケガも回復薬のおかげで、だいぶ良くなった。

 ただ、どこかで回復薬を調達したい。

 そのため、アイテム屋を探す。

 長い森だ。しばらく森が続いている。

 森の中にもわずかだが、一軒家があったり、もう使用していないような小屋がある。

 もう少し歩けば、小屋で休めたのかとホークは後悔する。

 セルティスを野宿させてしまったから。

「セルティス、ごめん、もう少し進めば、この小屋で休むことができたかも。野宿させて悪かったな」

 ホークは真面目に答えたから、セルティスは、一瞬、言葉が出なかったが、深呼吸をすると優しい声で答える。

「大丈夫だよ、野宿も慣れてるし。剣士をやってれば、そんなこと、しょっちゅう、あることだし」

「いや、野宿に慣れるっていうのも良くないだろ……剣士の前に、セルティスは女の子なんだぞ。襲われたりしたらどうするんだよ」

 ホークの言葉に、セルティスは笑った。最近、セルティスは笑顔が増えている。

「心配してくれるんだ。ありがとう」

「……そりゃ、そうだろ……俺にとってセルティスは大切な人だから」

 ホークは少し照れていた。

 顔が紅く染まっている。

「ありがとう。ホーク。あたし、惚れ直したよ。ホークのこと。いつも心配してくれて、一緒に泣いて笑って、良いことも悪いことも全て受け止めてくれてさ。あたしにとって、ホークはヒーローだよ」

 セルティスは、とびっきりの笑顔をホークに見せた。

 ホークはセルティスに顔を見られたくなくて、伏せる。

  セルティスは、そっと、ホークの手を握った。

「ホークは、剣士としてではなくて、ひとりの人間として見てくれている。ありがとう」

 ホークはセルティスの手を握り返す。

 甘えてくるときのセルティスも可愛い。

「きっと、今まで戦ってきたモンスター化した人間たちも、1人の人間としてしっかり見て欲しかったんだと思う。人間って肩書で見てしまうこと多いから」

 セルティスは悲しげな表情を見せる。

 そんなセルティスに、ホークは疑問をぶつける。

「セルティスもそういう経験があるのか?」

「あるよ。剣士になったときから。剣士だから助けてくれると期待して、助けることができないと、凄く責められた。なんでも、剣士だから強い、絶対に助けられる。そんなイメージがあるみたいで。ずっと、なんで剣士としてしか見てくれないんだろうって思った。皆と同じ、人間だから、自分も苦しい、悲しい、弱いところだってある。剣士だから強いってことはない」

 ホークはセルティスの手が震えているのを感じとった。

「唯一、人間として見てくれていたのは、レナルドだった。レナルドは誰からも頼られる存在で、英雄だった。だから、皆が助けを求めて、必ず助けていた。レナルドは、誰1人として命を落とすことなく、人々を守れる強い剣士だった。だけど、あたしのミスで、レナルドは犠牲になってしまった。だから、人々から責められた。おまえは、剣士だろうって。剣士なら、人を助けるのが仕事だろう。何故、レナルドを殺した! って、ずっと言われてたんだ。だから、剣士としてしか見てくれなくて、結果が出なければ、責められる。それが辛かった」

 セルティスはフーッと息を吐いてから、続ける。

「きっと、モンスター化した人たちも、人間として見ているのではなくて、肩書で見ていて、結果が出なくて責められて、モンスター化するしかなかったのかもしれない」

「そっか、セルティスの優しさは、そこから来るんだな」

 ホークは、セルティスを抱きしめずにはいられなかった。

「ホーク……?」

 セルティスは目を丸くした。

「俺は一度も剣士が特別だなんて思ったことはない。普通の人より戦闘能力が高いかもしれないけれど、それは特別ではない。結局、人間なんだから、誰でも鍛錬をしっかりやれば、剣士にもなれる。劣っているところもあるし、誰よりも優れているところもある」

 ホークは、セルティスの頭を撫でた。

「ありがとう、あれ? あたし……本当に泣き虫だ……」

 セルティスの目には涙が溢れている。

「いいんだよ、セルティスはセルティスのままで。剣士としてじゃなく、ありのままのセルティスでいい。俺は、ありのままのセルティスが好きだ」

 ホークは、セルティスの涙を拭ってやると、ニッと笑う。

「たまに、ドジったり、天然のところもあるセルティスも可愛いけどな」

「へっ?」

 セルティスは急に顔が赤くなった。

 と、そのときだ。

 ぐぅー

 セルティスは耳まで赤くなった。

 お腹がなってしまった。

「ん?」

 ホークは吹き出す。

 しっかりと、お腹がなった音が聞こえていた。

「……」

 セルティスは何も言えなくなって、シュンとしている。

 こんな恥ずかしいことはない。

 何故、こういうときにお腹がなるのか。

「可愛い」

 ホークは、セルティスの頭を子供のようになでなでする。

「……もう……恥ずかしいからっ!」

 セルティスの顔は真っ赤だ。

 顔から湯気が出そうなくらい。

 ホークは笑いが止まらなかった。

「……うぅぅ……」

 セルティスは何か仕返ししてやろうと思ったが、何も浮かばずに唸るだけだった。

「はい、これ」

 ホークは笑ながら、セルティスにビスケットを渡した。

「腹の足しにはならないと思うけど、とりあえずな」

「ありがとう……」

 セルティスはビスケットを受け取った。

 ちょっとした食べ物を準備しているホークに驚いた。

「食べ物、準備してるんだ」

 セルティスが訊くと、ホークは自分の分も、ビスケットを取り出した。

「あぁ、俺、トレージャーハンターだから、いろんな場所に行くから、なかなか、食べられなくなることもあるからな」

「そっか、いただきます」

 セルティスとホークは、ビスケットを頬張りながら、アイテム屋を目指して歩いた。
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