女剣士セルティス

8章 刑務所のような倉庫

第125話 油断は禁物

　セルティスは、エイナにラグナロクを振り下ろした。

　感覚がない。

　エイナは、ラグナロクから逃れていた。

　同時に炎を放ち、セルティスの身体を燃やしていた。

　セルティスは、長く息を吐くと、五感を研ぎ澄ます。

（考えるな、感じろ）

　ひとつの光の筋が見えたような気がした。

　今がチャンス。

　エイナにラグナロクを振って、炎を発生させた。

　エイナは、手から炎を作って、セルティスのラグナロクから、放たれた炎を消す。

「残念。五感を研ぎ澄ましたところで、動きがバレバレなのよ」

　エイナは指をセルティスに向けた。

　セルティスは、再び、長く息を吐いた。

「そうでもないかもしれないよ」

　セルティスが言った後、エイナは、目を見開いた。

　エイナの肩からは血が流れていた。

「いつの間に……」

　エイナはこの状況に、何故だか大笑いした。

「アーハハハハッ！！！！」

「何が可笑しいんだ？」

　セルティスは眉をピクッと動かした。

「よくやったわね、あんたの攻撃は全て躱したと思っていたけれど、知らぬ間に受けていたとは……」

　エイナは、セルティスにパンチを食らわす。

「！？」

　唐突にパンチをしてきたので、セルティスは躱すことができなかった。

　鳩尾を強く打たれ、血を吐き出した。

「痛いでしょう？　あなたから、あの男のようにしてあげるわ」

　エイナは手の平から炎を出して、セルティスめがけて投げつける。

　セルティスは炎から遠ざかろうとしたが、先ほどのパンチがかなりのダメージですぐに動けなかった。

「うぅっ」

「セルティス！！」

　ホークが素早くセルティスを抱き上げ、炎から逃げた。

「大丈夫か？」

「ごめん、ありがとう。守られてばかりだな、あたし」

　セルティスは、ホークに立たせてもらう。

「俺だって、セルティスに結構、守られてるぜ」

　ホークはそう言って、エイナにダガーを突きつけた。

　エイナはダガーを避けて、炎をホークに向けて放つ。

　ホークは、その炎を素早い動きで避けると、エイナの背後に回る。

「あらっ、速い動きするじゃない」

　エイナはニヤリと笑うと、一瞬でホークの背後から、首を絞めようとする。

「っ！」

　ホークは、肘でエイナの鳩尾を叩くと、エイナから距離を置く。

「なんか、むかつくわ」

　エイナは吐き捨てるように言って、炎を作って、ホークめがけて投げる。

　高くジャンプして、エイナの炎を躱すと、ホークは真上からダガーで肩を刺す。

　エイナはその動きを読むことができなくて、肩を抑えた。

　ハァハァと息を激しくしている。

　エイナは指で炎を作って、すぐにホークを攻撃する。

　ホークは、素早く躱そうとしたが、炎のほうが早かった。

　炎はホークの身体を傷めていった。

「ホーク！」

　セルティスは、ホークが怪我したのを見て、ラグナロクをエイナに振り下ろそうと駆け出した。

　ラグナロクはエイナの脇腹を捉えた。

「うっ」

　エイナは脇腹を抑えながら、炎をセルティスに放つ。

　セルティスは、炎をラグナロクが起こした炎でかき消す。

ゴォォォォォ

　炎の音だけが響いていた。

　セルティスは、ホークのほうに歩み寄り、回復薬を飲ませた。

「大丈夫か？」

　ホークはセルティスの心配そうな顔を見て、笑顔を向けた。

「あぁ。ありがとな」

　ホークはそう言うと、エイナを睨みつける。

「セルティスを傷つける奴は、俺が許さない」

　ホークのダガーがエイナの首を斬ろうとした。

　エイナは瞬時に身体を反らして、ダガーを避けたはずだった。

　首からは血が滲み出ている。

「動きが見えなかった」

　エイナは目を丸くした。

　完全に躱したはずだったのに、いつ、斬られたのだろう。

　ホークは、エイナにダガーの先をエイナの首に当てた。

「自信過剰になっているから、動きが見えなかったんじゃないのか？」

　エイナは、ダガーを振り払って、ホークに拳を突きつけると同時に炎を発生させた。

「！？」

　ホークは、鳩尾におもいっきりパンチをくらい、炎が身体を包む。

「ゲホッ」

　咳き込んで血を吐き出した。

　エイナは、倒れるホークを踏みつけた。

「あんたこそ、油断しているんじゃないの？」

　笑いながらエイナは、ホークの顔を蹴る。

　ホークを踏みつけて楽しんでいる。

　普通なら、人を踏んで楽しむなんて考えられない。

　セルティスは、エイナの背中をラグナロクで炎を創り出して斬った。

　炎が音を立てて、エイナを焼く。

「ホークに手を出すな！」

　エイナにラグナロクを向けて睨み付ける。

　エイナは舌打ちする。

「あんたも、あの男もしつこいわね。負けるのがわかってるのに」

　手で作り出した炎を、セルティスとホークを同時に狙う。

セルティスとホークは、横に転がって炎を避けると、同じタイミングで、エイナに攻撃を仕掛ける。

　セルティスがラグナロクを振り下ろすとフェイントをかけて、ホークがダガーで肩を叩きつけた。

　エイナは、セルティスのフェイントにも対応して、ホークのダガーも腕で受け止める。

「甘いっ！！」

　エイナの炎がセルティスとホークを襲う。

「うわぁ！！」

「うあぁぁぁ！！」

　セルティスとホークは、膝をついて荒い息をしている。

　セルティスは、ゆっくりと立ち上がると、エイナの頬をフックでパンチした。

　そのパンチは強烈で、エイナは吹き飛ばされた。

「ふざけんな！　おまえには心ってものがないのか！」

　セルティスは、さらに、ラグナロクでエイナの脇腹を叩いた。

「きゃっ」

　エイナは甲高い声を上げて、脇腹を押さえながら起き上がる。

「やってくれたわね……」

　エイナは、先ほどよりも強烈な炎を発生させて、セルティスに投げつけた。

　セルティスは、避けられるほどの素早い動きができず、まともに食らってしまう。

「セルティス！」

　倒れてくるセルティスをホークは抱きとめる。

　すぐに回復薬を投与し、セルティスの様子を見る。

「相当、体力奪われてたのね」

　エイナは大笑いしながら、手の平で炎を作った。

　その炎はホークを狙っている。

　ホークはセルティスを抱きながら炎を躱すと、ダガーを投げつける。

　そのダガーは、エイナの腿にしっかりと突き刺さる。

　氷がエイナの身体を凍らせる。

「きゃぁぁぁ！！」

　エイナは、ダガーだけでなく氷にも突き刺されたような感覚を覚えた。

「お前は悪魔だよ。人を傷つけても平気でいられるんだからな」