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8章 刑務所のような倉庫

第124話 守る!

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 キメラの爪が、ヴィンセントの胸に突き刺さる寸前。咄嗟の思いつきで、キメラの腕を蹴り、爪から逃れる。

 ヴィンセントはすぐにキメラから離れた。


 至近距離での攻撃は、鋭い爪がある限り難しいかもしれないと感じたヴィンセントは、距離を置いたまま、攻撃できる方法を考えた。

(となれば、雷を起こすしかないということか……)

ブラッドソードを地面に向けて振り下ろす。

 雷鳴が響く。

 稲妻が強い光を放って、キメラを突き刺す。
 

 キメラは膝をつき、血液をまき散らしていた。

 血液は一気に床を真っ赤に染めていく。

 流石に、これだけの出血をすれば、回復するのも止血するのも遅くなるはず。
 

 その間に、ヴィンセントも止血をしようとしたが、手が止まる。

 ヴィンセントの目が見開く。

 どこまで、キメラの回復力は早いのか。

 止血も終わっていて、息も整っている。

「なぜ、そこまで……」

 ヴィンセントは、身体が動かなかった。

 どうすれば、キメラに勝てるか。回復力が早過ぎる。

「動けなくなったか?」

 キメラは、ヴィンセントの目の前にやってきて、額に爪を当てている。

 ゆっくりと深く突き刺さろうとしている。

 そのときだった。

 キメラが突然、血を吐き出した。

 更に、身体からも血が噴き出る。

「!?」

 ヴィンセントが見ると、そこにはキーファーがいた。

 キーファーは、ケガは回復薬で少し治って、体力も回復した。

「キーファー!」

「気にするな。それよりも、奴の回復力はかなり早い。なら、心臓を狙うしかない。本当は殺すまではしたくない。だけど、方法はそれしかない。殺したくないから、心臓は狙えない。そんな気持ちは、今は捨てろ」

 キーファーはそう言うと、ラプターソードで一気に心臓をめがけて、刺そうとした。
 
 キメラは心臓を隠して、キーファーに爪を立てる。

 キーファーは、腕を掴んで、キックをしてキメラのバランスを崩す。

 崩した瞬間を狙って、心臓に深く抉ろうとした。

 キメラはすぐに、キーファーのラプターソードを振り払い、爪を向ける。

 キーファーに爪が食い込もうとする瞬間に、ヴィンセントのブラッドソードがキメラを襲う。

 キメラはブラッドソードの攻撃で、身体を大きく反らした。

 チャンスだ。

 キーファーは、心臓を突き刺す。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 キメラは雄叫びを上げた。

 痛みに耐えられないのか、大暴れしている。
 

 キーファーとヴィンセントは、暴れているキメラを見て、これ以上は戦わなくていいと判断する。
 

 キメラは、だんだん身体の動きが鈍くなっていた。

 次第に身体が動かなくなっていき、姿も消えていった。

「終わった……」

 キーファーは床に大の字に寝転がった。

 本当のところ、ここまで苦戦するとは思っていなくて、体力も限界だった。

 いくら、20代のように動けるといっても、40代になれば、体力も動きも衰えてきて、かなりきつい。

 「お疲れ、キーファー」

ヴィンセントは、キーファーに軽く微笑んだ。

 「セルティスとホークは大丈夫か?」

 しばらく大の字で休憩した後、起き上がって、セルティスとホークの様子を見る。

「セルティスとホークは大丈夫だ。負けない」

 ヴィンセントはそう言うと、キーファーを休ませた。

 その後で、ヴィンセント自身も回復薬を投与し、少し休む。






 エイナはキメラの姿がなくなって、舌打ちをした。

「キメラも役立たずね!」

手から炎を作り、セルティス投げ捨てる。

 セルティスは、ラグナロクを振って受け止め、炎をかき消した。

「役立たず? 自分の仲間だろ」

 セルティスは、エイナの動きを慎重に見ている。

「仲間ね……」

 エイナはチラッとホークを見て、炎を投げた。

 ホークは、後方へと下がって炎を避ける。

 エイナの隙を狙って接近し、ダガーで突き刺し、氷がエイナの身体を一瞬、固めた。


 エイナは素早く身を捻った。頬を掠った傷口から血が滲んだ。

 ただ、かすり傷を作られただけで、終わらせなかったエイナは、わずかな隙を見て、セルティスとホークを炎で包んだ。

「!?」

「セルティス!!」

ホークがダガーで、氷を作ってガードし、炎を消化した。

 それでも、セルティスとホークの身体から、血液が落ちる。

「あらっ、どうしたのかしら?」

 エイナは何事もなかったかのように、セルティスとホークの血液を見て呟く。

「大丈夫か?」

 セルティスはホークに声をかける。

「あぁ、大丈夫だ」

 ホークはエイナを睨みつけたまま言った。


 エイナは、炎を手から作り出しては、セルティスとホークに投げてくる。

 その度、セルティスとホークは、炎を避けるために、後方へとバック転をしたり、横へ転がったりした。


 セルティスは、ラグナロクを振って炎を発生させた。

 その炎は、エイナを焼き尽くそうとしていた。

 だが、セルティスが放った炎は、エイナの作る炎によって、消される。


 エイナは、セルティスに接近する。

「あなたの炎は、たいした威力はないわね」

 指をセルティスの喉元に当てると、炎が喉を燃やす。

「うあぁっ!」

 セルティスは膝をついて、咳き込んだ。

「セルティス!」

 ホークが、セルティスの方へと駆け寄ろうとしたとき、背後からエイナの気配がする。

 ホークは、ダガーをエイナに投げる。


 エイナは、ダガーをキャッチすると、その場にポイッと捨てて、ホークに手の平を向けて、炎を放つ。

 その炎の動きが読めず、ホークは火傷を負う。


 セルティスは、ホークの方へ駆け寄り、ケガの具合を確認する。

 そして、素早く回復薬を飲ませる。

「ありがとう、セルティス」

 ホークは、セルティスの手を借りて起き上がると、エイナを睨みつけた。


 エイナはムッとした。

「へぇ、そんなに大切なの? なら、あたしがもっと遊んであげるよ。あの男のようにね」

 エイナが指差す方向はリックだ。

「まぁ、その男は死んだみたいだけど」

 エイナは不敵な笑みを浮かべて、セルティスの方に近づく。

「どう? あなたの大切な男もあんなふうにするのは。美しくなって、見惚れるでしょう?」


 セルティスは、ラグナロクを握り直した。

「ホークをそんなふうには、させない! ホークは必ず、あたしが守る!!」

 近づいてきたエイナから、一時的に離れる。

 エイナがもう一度、近づく様子はないと踏んだセルティスは、ラグナロクを振り下ろす。
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