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8章 刑務所のような倉庫

第123話 驚異の回復力

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 セルティスは、ホークに言われて、キーファーとヴィンセントに声をかけた。

「キーファー、ヴィンセント、そっちは任せた!」

 キーファーとヴィンセントは、セルティスの声に頷く。

「こっちは、任せておけ。そっちも死ぬなよ」

 キーファーは、セルティスを安心させるように、力強く言った。

 キメラは、ストレッチをするかのように首を回した。

「お前らも死ぬけどな」

 ボソッと言って、キーファーの胸に爪を突き立てた。

 爪は金属でできているのか、キーンという音を立てる。

 その音が出るということは、剣と爪がぶつかり合ったときだ。

 キメラはキーファーを刺せなかったことに舌打ちした。

 キーファーは、キメラの爪を1本のラプターソードで受け止めると、もう1本のラプターソードで、キメラの鳩尾を斜めの直線に描いた。

 ヒュッと空しい音がする。

 空振りだ。

 キメラは軽く身体を反らしていた。

 身体の柔軟性があって、クネクネと動いている。

「クネクネしてるな」

 キーファーが呟く。

 これだけの柔軟性があると厄介だ。

「死ね」

 キメラがキーファーの背後から、爪をグッと首に押し込んだ。

「おおっっ!?」

 キーファーは、ラプターソードを咄嗟に振って、爪を受け止めた。

 ただ、完全ではなく、首から血液がポタポタと落ちる。

パリーン

 ラプターソードの一部が床に落ちる。1本のラプターソードが折れた。

「お気に入りの剣をやってくれたなぁ……」

 キーファーは折れたラプターソードを見て、悲しそうにしている。

 相当、お気に入りだったようだ。

 キメラはそんなこと知るかと、爪で十字に引っ搔く。

 キーファーは素早く爪をよけて、低い態勢から脇腹をラプターソードで叩く。

 キメラは、低い態勢になっていたキーファーの動きが見えず、膝をついて脇腹を押さえた。

 キーファーは息を切らしながら、キメラの様子を見る。

 キメラが膝をついて息を整えている。

 わずか10秒くらいだ。この短時間で、息を完全に整え、止血もしている。

 これはキメラがモンスターだから、回復が早いのだろうか。

 一方で、キーファーは息を整えるのに時間がかかる。

 止血もなかなかできない状態だ。

 そんなキーファーを、キメラは本気で殺そうと爪を立ててくる。

「キーファー!」

 ヴィンセントは、ブラッドソードを振り下ろそうと、キメラに飛びかかった。

 キメラは、すぐにヴィンセントに気がついて、一瞬で姿を消した。

 キメラはヴィンセントの背後に回ると、爪で背中を狙う。

 ヴィンセントはブラッドソードで弧を描いて、キメラの胴体を斬る。

 同時に雷鳴が鳴り響いた。

 キメラは、床に身体を叩きつけられた。

 ただ、キメラは、すぐに立ち上がると、ヴィンセントへと爪を振り上げる。

キーン

 甲高い剣と爪の重なり合う音。

 ブラッドソードで爪を受けたとき、ヴィンセントは、この音が耳に響いて、一時的にめまいがする。

「そんなに、あいつを助けたいか?」

 キメラは爪をヴィンセントの首に当てる。

「お前には関係ないだろ」

 ヴィンセントはサッとブラッドソードをキメラの首に突きつけた。

「そんな思いは必要ない。どうせ、死ぬんだからなぁ」

 キメラは爪を引き、ブラッドソードを払った。

 その反動で、キメラもヴィンセントも一度、距離を置いた。

「お前にはわからないだろうな、仲間という存在がどれだけ大事か」

 ヴィンセントはキメラの尻尾を刺す。

 雷が突き抜けた。

 尻尾を刺したブラッドソードを抜くと、さらに∞の字を描くようにして斬る。

 キメラは扉を突き抜けて倒れる。

 おもいっきり背中を強打した。

 ゆっくりと立ち上がって、1秒経ったか、経たないかで息を整える。

 先ほどよりも回復が早いように見える。

 ヴィンセントは回復力がだんだん早くなていることに驚愕する。

「何故、回復力がどんどん早くなっている……? 普通は遅くなるはず……」

 ヴィンセントの独り言に、キメラはフッと笑う。

「お前もモンスター化するか? 人間では不可能な能力が手に入る」

「嫌だね、俺は人間では不可能な能力が手に入らなくてもいい。それよりもハートが大事だからな」

 ヴィンセントはそう言うと、ビュンッと音を立てながら、キメラに近づき、ブラッドソードで肩を貫いた。

 キメラは肩から流れる血液を見ても、平然としている。

「この程度の斬り方で、倒せると思ったか?」

 ヴィンセントの頬に、目には見えない速さで爪を立てる。

 ヴィンセントの頬には、血が滲んでいる。

 ヴィンセントは、ブラッドソードを振り下ろして、キメラの背中を斬ろうと十文字に描く。

 ブラッドソードはヒュッと音がして、空を斬った。

 キメラは無造作に腕を振り回して、ヴィンセントを爪で攻撃する。

 ヴィンセントはブラッドソードで、爪をガードして隙があれば、攻めようとしている。

 その様子を見ながら、しばらく休んで回復させたキーファーが、キメラの背後からラプターソードを食い込ませた。

 水がキメラを流し込む。

「ちっ……」

 キメラは爪で、キーファーの腹を突き刺し、雷が落ちる。

「ふんっっ!!」

 ヴィンセントは、キメラがキーファーに目を向けていたところを逃さず、キメラを斬る。

 ブラッドソードからの雷が、キメラの爪が放った雷とぶつかり、ジリジリと音が響く。

 キメラは、キーファーとヴィンセントを同時に攻撃を仕掛ける。

 爪がキーファーとヴィンセントの胸を引っかく。

 キメラの動きが見えずに、キーファーとヴィンセントはまともに食らってしまった。

 キーファーはラプターソードを、ヴィンセントはブレッドソードをそれぞれ、キメラに向かって振るった。雷と水がキメラに襲いかかる。

 キメラは、爪で雷と水の軌道を断ち切って防ぐ。

「戦うたびに回復力は早くなるし、スピードもある。この状態でどのように戦うか……」

 キーファーは、ラプターソードでキメラの攻撃を受け止めては、キメラに攻撃することを繰り返しながら、考える。

 その間にキメラの爪がキーファーを直撃する。

「っっ……」

 キーファーは額からも血が流れている。

 ヴィンセントは、キーファーの血を見て、声をかける。

「大丈夫か? しばらく時間を稼ぐ。止血しろ」

 キメラにブラッドソードを振りながら、キーファーにも気を配っていた。

「あぁ、サンキュー」

 キーファーはすぐに止血を始め、回復薬を投与する。

 その間、ヴィンセントはキメラの爪とブラッドソードが重なる音だけが聞えてくる。

 そのうち、音が変わった。

 ボキッ

 再び、ヴィンセントは骨を折ったことを感じた。

 今度は、左腕の骨だ。

 それでも、回復薬を使いながら、キメラへとブラッドソードを振り続ける。

「っっっ!!!!」

 キメラに押し倒され、背中を強打する。

また、窓ガラスが割れ、背中を切ってしまう。

 ヴィンセントのブラッドソードは、キメラを捉えることができず、逆にヴィンセントは、キメラの攻撃を躱すことができない。
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