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8章 刑務所のような倉庫

第121話 好みの男

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 キーファーは、2本のラプターソードを振ると、水がモンスター化した人間たちを巻き込んだ。

 モンスター化した人間たちには悪いと思うが、こうでもしないと、罪もない人たちが犠牲になる。

 モンスター化したとはいえ、やはり、人間だったのだ。

 心が痛む。

 ヴィンセントも、こんなことはしたくないと思いながら、ブラッドソードを振る。

 雷鳴がなって、雷がモンスター化した人間たちに落ちる。

「悪いな。だけど、俺らが二度とモンスター化させられて、こんなことにならないようにする。だから、もう少し待ってろ」

 ヴィンセントは、倒れたモンスター化した人間たちと同じ目線になって、声をかけた。

 セルティスは、キーファーとヴィンセントも苦しく悲しい思いをしながら、戦っていることがわかって、感動した。

「キーファー、ヴィンセント……」

 ホークはそんなセルティスを見て、ニッと笑いながら、ダガーを刺しながら駆け抜けて、モンスター化した人間たちを氷で固めていく。

「俺たちはセルティスのおかげで、敵に対しても優しい接し方ができるようになったんだよ。ありがとう」

「えっ……」

 セルティスは、モンスター化した人間たちをラグナロクで斬りながら、ホークの言葉にドキッとしてしまった。

「おーい、何、顔赤くしてるんだよ。こいつら片付けるぞ」

 ホークは呆れながら、目の前のモンスター化した人間を倒す。

「な、なんでもないよっ」

 セルティスはラグナロクを振る。

 炎がモンスター化した人間たちを焼き尽くす。

「ごめん、必ず、この世界を終わらせるから、生まれ変わったら、平和な世界で、幸せになれるといいな」

 セルティスは、モンスター化した人間たちに優しく声をかけた。

 モンスター化した人間たちは、セルティスの優しく包まれる声に、安心したような表情や、今までの溜まっていた感情が溢れ出てきて泣いていた。

 モンスター化した人間たちは、セルティスの優しさに包まれて姿を消す。

 その姿はまるで浄化されていくようだった。





 セルティスも苦しい。

 本当ならば、戦いがなければいい。

 この手で殺さなければならないなんて、たとえモンスターでも辛い。

 これが、セルティスの苦手な昆虫でも、殺そうとは思わない。

 昆虫は昆虫で必死に命を全うしているからだ。

「セルティスのそういうところ、見習わないとな」

 ホークはにっこり笑う。

「あたしは、まだまだだよ」

 セルティスは、そう言いつつも嬉しかった。

 成長しているという実感ができたからだ。

「もっと自信持っていいと思うけどな」

 ホークは、セルティスを子供のように、頭をポンポンと叩く。

「あたしは子供か」

 セルティスは、ホークにツッコミを入れていたが、笑顔だった。

 最近、こんな厳しい世の中だけど、セルティスの笑顔は増えている。

 ホーク、キーファー、ヴィンセントは、更に奥へと進もうと一歩踏み出そうとしたとき、セルティスがホークを呼び止めた。

「ホーク、いつも、ありがと」

 セルティスは照れていて、顔を少し赤く染めている。

「何、言ってんだよ。約束しただろ。俺はセルティスを守るって」

ホークは、セルティスに背を向けたままだったが、顔を見られたくなかった。

 ホークもまた照れているようだ。

「行こう」

 ホークは、セルティスの手を強く握った。

 これで、少しは恐怖も不安も和らぐだろう。

 セルティスは頷いて、奥へと向かう。

 倉庫自体は1階しかなさそうだが、ものすごく広い。

 この倉庫は何に使われていたのだろうか。

 倉庫の奥には、扉がいくつかある。

かつては休憩室やロッカーとかで使っていたのだろうか。

 ひとつずつ扉を開いていく。

 何もない。

 ただ、鎖が置かれている。

 これは、監禁する道具。

 ここで、監禁して拷問を受ける場所だと容易に想像できる。

 セルティスは、別の扉を開ける。すると、そこには。

「リック!」

 リックは血だらけで、グターッとしている。

 どれだけ拷問を受けたのだろうか。

 鎖で手首を繋がれたままだ。

「リック、しっかりしろ!」

 セルティスは脈を確かめる。

「嘘だ……」

 セルティスは何度も脈を確認する。

 何度確かめても脈がない。

 一時的に止まっているだけかもしれないと、鎖を解いて、心臓マッサージを始める。

「戻って来い! リック!!」

 セルティスの行動に察しがついたホークたちは、交代しながらリックの心臓マッサージをする。

 しかし、リックの意識は戻らない。

 セルティスは心臓の音を聞こうと、リックの胸に耳を近づけた。

「……」

 心臓の音は聞こえない。

セルティスの目からは涙が出てきた。

 その時だった。

 セルティスたちの背後で女性の声がする。

「やっと死んだのね。あんたたち、触らないでよ。こいつの死に顔は綺麗だからそのまま保存しておくから」

 髪の長いウェーブのかかったエメラルドの髪をポニーテールの女性が、セルティスたちの前に姿を現した。

「あんた、誰だ? 死に顔が綺麗? ふざけんなよ。なんで、こんなことしたんだ!?」

 セルティスは拳を握りしめて、立ち上がった。

 語尾には怒りが込められている。

「私好みの男だからよ。こういう男はね、たっぷりと、いたぶってやるのがいいのよ」

「そんなの、理由にならねぇだろ」

 キーファーは今にも女性に襲い掛かりそうだ。

「あっ、そうそう、あたしは、あんたじゃなくて、ちゃんとエイナっていう名前があるのよ。あんたって呼ばないで!」

 エイナという女性は指先で、炎を作って弧を描くようになぞっていく。

 すると、炎が大きくなってセルティスたちに向かってきた。

 セルティスたちは咄嗟に炎から逃れようと、後方へと下がる。

「キメラ! こいつら殺すわよ」

 エイナが言うと、キメラと呼ばれた人間の手足と背中に大きな羽、竜のような尻尾があるモンスターが姿を現した。
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