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8章 刑務所のような倉庫

第116話 ゆっくりとした時間

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 セルティスたちは、しばらく戦いが続いて休んだ気がしなかった。

 だから、今だけはゆっくりしようと、カフェでゆっくりとコーヒーを飲んでいた。

 相変わらず、おひとり様が好きなセルティスは、窓際に座って景色を眺めている。

 ここは、緑に囲まれている街だ。

 緑は目の保養にもなって癒しをくれる。

 ホッとできる瞬間だ。

「本当に好きだな、おひとり様時間」

 ホークが声をかけた。

「ホークか」

 セルティスは微笑むと、座るように目で合図した。

 ホークは、セルティスが座って良いと言うなんて珍しく驚いていた。

「何?」

 セルティスは、不思議そうにホークを見ている。

「いや、いいのか? セルティス、1人の時間が欲しいんじゃないのか?」

 ホークが訊くと、セルティスは優しく笑顔を見せる。

「いいよ、ホークだから。ホーク、緑を見ているとホッとしてこないか?」

 ホークはセルティスの笑顔にドキッとする。

 やっぱり、セルティスの笑顔は可愛い。

「そっか、確かに緑を見ていると落ち着くな。セルティスは景色を見ながら、コーヒーを飲むのが好きなんだな」

 ホークは笑みを返す。

ホークの笑みに、セルティスの顔が少し紅潮している。

「顔が赤いぞ」

 ホークが悪戯っぽく言うと、セルティスは更に顔が赤くなっていた。

 コーヒーを飲んで誤魔化そうとするセルティス。

 それもまた、可愛くて愛おしい。

 ホークは思わず抱きしめたくなる。

 セルティスは、景色をずっと眺めている。

 日差しがセルティスを照らして、さらに綺麗だ。

 ホークはそんなセルティスに見惚れてしまう。

 もう、かなり愛しているが、まだ、愛が膨らむ。

 どのくらいセルティスを愛することができるだろう。
「あつっ……」

 突然、セルティスの声がする。

「どうしたんだ?」

 ホークは、セルティスの声に我に返り、見てみると。

「何、やってるんだ……」

 セルティスは動揺して、コーヒーをこぼしてしまったらしい。

「ホークがじっと見てるからだよっ」

 セルティスは恥ずかしそうにしながら、こぼしたコーヒーをサッと片づける。

「えっ? 俺のせいか?」

 ホークは目を見開いた。

 セルティスの片づけを手伝いながら、ニヤッとした。

「さては、惚れ直したか、セルティス」
 
 ゴツッ

「いったぁぁ!!」

 セルティスは頭をテーブルにぶつけて、声を上げた。

「うそっ、セルティス、そんなに動揺することないだろ……」

 ホークは驚きすぎて、呆れてしまった。

「もう、恥ずかしいからそれ以上言うなよ!!」

 セルティスは耳まで赤くなっている。

「可愛いな、セルティスは」
 
 ガバッ

 突然、セルティスは抱きしめられて言葉を失った。

「やっぱり、ダメだ。抱きしめたくなった」

 ホークは力強くセルティスを抱きしめた。

「バカ、今、ここでは恥ずかしいって」

 セルティスはもう身体中が熱すぎてどうすればいいかわからない。

「いいじゃないか。俺らしかいないんだからさ」

ホークに抱きしめられると、セルティスは力が入らなくなる。

 身体がとろけてしまうようだ。

「もう……」

 セルティスは抵抗をやめる。

 ホークに抵抗しても、最後は包み込まれてしまう。

 そんなに強く抱きしめられると、どうでもよくなる。

 何もかも忘れて泣きたい。

 セルティスの目からは涙が出てきた。

「なんで、泣いてるんだよ……」

 ホークは目をパチクリさせている。

「何でもないっ! ホークが悪い!」

 セルティスは素直になれず、ホークの胸をポンッと叩く。

「俺のせいか?」

 ホークは困惑した。

 ただ、抱きしめただけでホークのせいにされても、困るだけだ。

「ホークはなんでも包んでくれちゃうから、溜まっているものが全部出てくる」

 セルティスは泣き止むと笑顔を見せた。

 その笑顔を見ると、ホークも安心する。

「あたし、ひとりでいること好きだけど、ホークと一緒にのんびりと過ごすのも好きだよ」

 セルティスに言われて、ホークは胸の高鳴りを感じた。

 素直に一緒にのんびり過ごすことが好きと言われたら、嬉しくなる。

「平和が戻ってきたら、一緒にのんびり過ごせるかな?」

 セルティスは恥ずかしくて、最後のほうは小声になっていたようだが、ホークには、はっきり聞こえた。

「戦いが終わったら、一緒に過ごそう」

 ホークはニヤリと笑った。

 その笑みは何かを企んでいるようだ。

 こういう時間が増えるのはいつになるのだろう。

 まだ、先が見えない。

 それでも、その先には幸せがあると信じていないと、やっていけない。



 セルティスとホークが2人の時間を楽しんでいたら、キーファーとヴィンセントがやって来た。

 キーファーとヴィンセントも、コーヒーを飲んで、ゆっくりしたいらしい。

「あっ、邪魔だったか」

 キーファーは気を利かせて去って行こうとしたが、セルティスが呼び止めた。

「邪魔じゃないよ」

 キーファーは、バツが悪そうな顔をしたが、セルティスが良いというので、ちょっと離れた席に座って、コーヒーを頼んだ。

 ヴィンセントは既に静かにコーヒーを飲んでいる。

 いつの間に頼んだのか、キーファーは不思議だった。

 こういう時間は大切だ。

 いつもピリピリしているから、たまには、こうやってリラックスする時間を作って、現実逃避する。

 セルティスたちは、しばらく静かにコーヒーを堪能した。

 カフェから流れるクラシックの音楽が心地いい。

 たまに、こうやってリラックスするのもいいのだ。

 いつか、こういう時間が増えることを願って、セルティスたちは、この時間を大事に過ごしていた。
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