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7章 操られた街 ブレイス

第114話 許せなかった過去

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 ――――真っ青な空の下。幼い男の子が母親に抱かれて、太陽を浴びている。

「マセイル、綺麗な空だね」

 と母親はマセイルと呼ばれた男の子に声をかける。穏やかで優しい笑顔だ。

「……」

 マセイルは言葉が出てこなくて、黙っていると、母親は優しい笑顔から、突然、険しい顔になる。

「なに、その態度は!」

 母親はマセイルに罵声を飛ばすと、抱っこしていたマセイルを、いきなり、クローゼットに閉じ込めた。

「ごめんなさい」

 マセイルは母親に謝るが感情がない。

 こんなことは日常茶飯事だ。

 マセイルにとっては、よくわからないけれど、母親の気分で感情が変わる。

 ただ、悔しくて仕方がなかった。

 だから、母親が喜ぶようなことをしようと、いろんなことをする。

 例えば、食器を綺麗に洗ったり、家中をピカピカにして母親に褒めてもらおうとする。

「ママ、食器洗ったよ!」

 普通の母親なら、喜ぶところだろう。

 ところが、マセイルの母親は、マセイルを睨みつける。

「あんたは、余計なことしなくていい! 生きているだけで邪魔なんだよっ」

 怒鳴りつけて暴行をする。

「ごめんなさい……」

 マセイルは泣きながら、母親に謝る。

 それでも、孤児院に入ってなんとか、生きてきて、社会に出ることもできるようになった。

 普通に仕事して普通に生活ができれば良いと思っていた。

 ところが、普通に仕事をしているし、失敗もしていないのに、上司に怒られるばかりだった。

「お前も一緒にやってたんだから、連帯責任だぞ」

「待ってください! お客様を怒らせたのは、あなたですよね?」

 マセイルは上司に迫った。納得がいかない。

 マセイルは営業の仕事をしていた。

 営業のことを学ぶため、上司と同行することになった。

「御社の商品を使用すれば、きっと、あなたもダイエットできます」

 マセイルの営業は、脂肪を燃焼しやすくするサプリを宣伝する営業だ。

 そのまま、購入してくれたらラッキーなのだが、お客様は気難しい顔をしている。お客様は、ぽっちゃり系の中年の女性だ。

「わかりましたよ。脂肪燃焼しやすくなれば、ダイエットもできるしね。だけど、結構ですと何度も言っているはずですが」

 お客様はそう言って、さっさと帰ろうとしていた。そこを上司が引き止めた。

「あなたにはピッタリだと思うんですよね。ダイエットしたいですよね? もっと綺麗になりたいですよね?」

 上司の言葉にお客様は眉をピクッとさせた。

「何度、言ったら、わかるの!? 私が太ってるからダイエットしなさいって言ってるみたいに聞こえるのよ! 知らない営業マンにそんなこと言われたら、腹が立つわ!」

 お客様は上司を睨み付けた。

 大きな声が響き渡る。

「あの、すみません。失礼なことを申しました。怒るのも無理ないと思います。本当に申しわけございませんでした」

 マセイルは、深々と頭を下げて謝った。

「いや、あなたのせいじゃないわよ。あの人、しつこいのよね。あなたが来る前からずっと言われているのよ。営業の仕事だから仕方ないと思うんだけどね、でも、怒っても謝らない人なのよ、あの人。あなたは、ちゃんと謝ってくれるのね。ありがとう」

 お客様はマセイルに笑顔を見せて、去って行く。

 その後で、上司は不思議そうにマセイルを見た。

「おまえ、何してたんだ?」

 上司が聞くと、マセイルは正直に答える。すると、上司はムッとした顔をする。

「ふざけんな! 今日、成立しなかったのは、おまえのせいだぞ。俺は悪くない」

「はぁ?」

 上司に言われて、マセイルは思わず、敬語を使うのを忘れていた。

「どんな手を使ってでも、おまえが成立させて来い!」

上司はマセイルに怒鳴った。

「……」

 マセイルは沈黙した。

 マセイルのせいにするとは、なんてひどい上司だ。

 しかし、こういうことは慣れているためか、何も言わずに、ぽっちゃり系の中年の女性のお客様を訪れる。

「度々、もうしわけございません」

 マセイルは、頭を下げてから、軽く談笑を交えて話を進める。お客様は、マセイルの話に納得したのか、購入してくれることになった。

「ありがとうございます。そして、本当に申し訳ございませんでした」

 最後に、再び謝って、マセイルはお客様にお辞儀をした。

 会社に戻って、上司に成立したことを報告する。

 喜んでくれるのかと思いきや、上司は不機嫌な顔をした。

「ふーん、成立させたんだ。なんで、おまえが成立させることができるんだ?  これは、俺の案件だ。おまえの業績ではないからな」

 上司の言葉に、マセイルは呆れてしまった。

 なんと矛盾しているんだろう。

 マセイルに成立させて来いと言ったから、やったことなのに、成立したら成立したで、上司の業績に反映するという。

 そんな中でもマセイルは、業績を上げていった。

 業績をあげることによって、上司は更に不機嫌になっていく。

「おまえさ、業績が良いからって調子に乗るなよ。おまえがいると、俺の業績が上がらないんだよ。本当に邪魔。この仕事、辞めてくれないかな? 本当にうざいんだよ」

 上司は、言葉でマセイルの心を少しずつ傷つけていった。

 幼い時のことを思い出す。

 まるで、母親に虐待されているかのようだ。

「いつも、いつも、俺は認めてくれない。何もしていないのにいつも、俺のせいにする。許せない……!! なんでなんだ!!」

 マセイルは拳を握りしめる。

 もう怒りも限界だ。

 我慢してきたけれど、とうとう、怒りが爆発していまい、上司を殺してしまった。

 それから、気に入らないことがあると、人を殺すようになった。

 自分が支配すればいい。

 支配できるほど強くなりたい。

 そう思うようになった。

 その時に、四天王と出会った。

「良い、殺しっぷりだね」

 四天王は、マセイルに話しかける。

「身体を改造をすれば、もっと強くなれる。おまえのその能力を発揮できるぞ。おまえは殺しの素質がある。もっと強くなってみないか?」

 マセイルは驚愕した。

 初めて認められた気がした。

 どんなことをしてでも強くなりたい。

 そう思ったマセイルは、四天王についていくことに決めた――――
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