女剣士セルティス

綴玲央（つづりれお）

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7章　操られた街　ブレイス

110話　小柄な男

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　キーファーは、警戒しながら歩く。

　先ほどの男性のように、突然、モンスター化して襲ってくる可能性がある。
　
その隣で、普段は無口なヴィンセントが、何かの気配を感じた。

　咄嗟に長剣、ブラッドソードを横なぎに振る。

　ギィィィィィィィ

　と、嫌な音を立てて倒れたのは、やはりモンスター化した人間だ。

　ヴィンセントが倒したモンスター化した人間は、まだ、4歳くらいの女の子だ。

「……」

　ヴィンセントは4歳くらいの女の子の頭を撫でた。

　言葉にはしなかったが、悲しいという気持ちが十分に伝わる。

　4歳の女の子に辛かったなと声をかけているようにも見えた。

「こんな小さな子までモンスター化しちまうとは」

　キーファーは呆然とした。

　セルティスたちは警戒しながら、進んでいく。

　この街の住人は本当にいないのかもしれない。

　モンスター化している住人がほとんどだ。

　人間だと思っても、突然、モンスター化してしまうこともある。

　そんなセルティスたちの様子を、影で見ている者がいる。

　セルティスたちは気がついていない。

「あんな奴らに、今まで負けてきたのか？」

　その者は小柄な男だ。男は空を見上げる。

「まぁ、あいつらが負けてるんだから、油断は禁物だな」

　男はそう言うと一瞬で姿を消した。

ザァー

　突然、風が吹いた。

　その風は、これから何かが起こることを予測しているかのようだ。

「なんか、嫌な予感がする」

　セルティスは、ゾッとした。

「大丈夫か？」

　ホークは、セルティスの様子がおかしかったから、声をかける。

「なにか、嫌なことが起こりそうな気がする」

　セルティスは、ホークの手を強く握った。

　ホークは、何も言わずに握り返した。

　こういうときは、セルティスが恐怖を感じているときだ。

「おぉ、そういう関係かぁ」

　キーファーは、セルティスとホークのやりとりに、微笑んだ。

　こういう世の中だからこそ、ほっこりする。

　ザァー

　また、風の音がする。

　今日は無風のはずだが、何故、風が吹くのか。

　その風はヴィンセントも違和感を感じだようで。

「セルティスの言う通り、なんか、嫌な予感がする」

　ヴィンセントは周囲を見回すが、気配はない。

　おかしい。

　風が吹いたときの違和感。

　あのときは、気配がしたような感じがした。

　だけど、今は感じない。

「手を握ってやろうか？」

　不安になっているヴィンセントに、キーファーはニヤリと笑った。

「アホか」

　ヴィンセントは、冗談を言っているキーファーを睨みつけた。

　やはり気のせいだったのか。風が吹いたことに違和感があったものの、人影もない。

　ヴィンセントは首を傾げた。

「本当に気のせいだったのか？」

　セルティスは考え込んだ。

　そのときだった。

　セルティスの背中を誰かが押した。

「わっ！」

　セルティスはバランスを崩して倒れそうになる。

「セルティス！」

　ホークは、素早くセルティスの身体を支えた。

「さっきの違和感は、誰かに見られていたんだ」

ホークに感謝すると、セルティスは後ろを振り返った。

　誰もいない。

　でも、確かに背中を押された。

「誰かいる。誰かが背中を押した」

　セルティスは、ラグナロク鞘から取り出そうとしたとき。声がした。

「気づくのが遅いな」

　男の声だ。

　声がする方へ目を向けると、そこには小柄な男がいた。

「いつから見ていた？」

　男の姿を確認したヴィンセントが訊いた。

「まぁ、あんたは気配を感じないだろうな。ただの海賊だからな」

　男はニヤリと笑う。

「チッ」

　ヴィンセントは、舌打ちした。

　見下したような態度が気に食わない。

　海賊だから気配を感じないとかあるものか。

「まぁ、女剣士や兵士でさえ気配に気がつかないとはなぁ」

　兵士に反応して、ムッとしたのはキーファーだ。

キーファーは兵士。だが、男に馬鹿にされるほど、無能な兵士ではない。

「トレジャーハンターも気配には疎いか」

　男は、セルティスたちを小馬鹿にしたような、笑みを浮かべている。

　セルティスは、男の言葉に反応しない。反応したら、相手の思うツボだ。

　ホークもわかっていたから、グッと堪えて無視した。

　男はセルティスとホークの反応に、つまらなそうな顔をした。

「つまんねぇなぁ」

　男の口調が急に変わった。

　男は、セルティスとホークに一瞬で近づいて、動きが読めないほどの速さで、ホークには蹴りを、セルティスにはパンチをした。

「ぐあっ！」

　ホークは、鳩尾を蹴られて咳き込む。

「ホーク！」

　顎を殴られたセルティスは、痛みを落ち着かせるために深呼吸して、ホークのほうに歩み寄る。

「何もかもが一瞬だった」

　ホークは、男にやられたときの感覚に驚いた。

　一瞬すぎて、何が起こったのかわからないほどだ。

　男はヒューッと風のように、キーファーとヴィンセントの目の前に姿を現し、気がついたときには、ヴィンセントは、背中を強打していた。

「ヴィンセント！」

　キーファーが、2本の細剣、ラプターソードで男に振り下ろそうと駆けていく。

シユッ

　また、男が姿を消したかと思うと、キーファーのお腹に男の足が食い込んでいた。

「なに？！」

　かなりのスピードだ。

　読む前に攻撃されている。

　セルティスたちは、男を睨みつける。

　この男についていけるのだろうか。

　誰もが思うほどの速さだ。

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