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5章 夜の街、ブラックタウンに潜む闇

第88話 砕ける

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 セルティスとホークは、レビーとリックの助けに入ろうと、駆け寄ってきた。

 レビーとリックは、ダウトと対峙している。

 ダウトは、アミだけでなく、リィもられたことを確認する。

「チッ……アミもリィも役立たずだな」

 首を回しながら、ポキポキと指を鳴らす。

 指から刃物が飛び出す。

 長い爪だ。

 この爪で、何人もの人の命を奪ってきたのだろう。

 爪をリックに向けて飛び掛かる。

 リックは、大剣、アルテマで大きな弧を描くように振っていく。

 土が持ち上がり、ダウトを吹き飛ばした。

 ダウトは、背中を打つと、その反動で弾かれ、うつ伏せになった。

 ものすごい威力だった。

 しかし、ダウトは余裕だった。この程度のものかと。

「たいしたことないなぁ」

 ダウトは、リックに近づくと、爪を立てた。

 その爪は、リックの首に血を滲ませる。

 リックは滲む血を感じながら、ダウトに視線を向けた。

 近づいた時点で爪が見えず、動きを読むことができなかった。

 動きは鈍くないということだ。

  ダウトはリックの首を切ったと思ったが、うまく外されて、眉をピクリとさせる。

 思ったより機敏に動く。

 セルティスとホークに関しては、調べさせてもらっていたが、リックについては全く調べていなかったため、どのくらいの実力があるのか、ダウトにはわからなかった。

 だから、今、動きを見極めるしかない。

 ダウトは、どんな動きをしてくるか、リックの様子を見ている。

 リックもまた、動きを見極めようと、ダウトの行動を確認する。

 お互いに様子を見ていることに、気がついて、リックとダウトは、同時に動いた。

 カーン、カーン、カーン

 アルテマと爪が響き渡る。ダウトが攻撃すれば、爪をアルテマで受け止め、リックが反撃すれば、アルテマを爪が受け止める。

 この動作は素早かった。

 少なくとも、セルティスには見えなかった。

 だだ、光が動いているだけのように見える。

 リックの動きはこんなに早かったのだろうか。


 ダウトは、アルテマを払いのけると、爪を剣のように扱い、リックの胸を突き刺す。

「‼︎」

 リックの反応が遅れた。

 体を少し捻って、爪を外そうとしたができない。

「リック!」

 セルティスが叫び、ラグナロクを構えて、飛びかかろうとしたときだった。

ビリビリ

 光をグローブから発して、ダウトを吹き飛ばしたのは、レビーだった。

 レビーは、ダウトに連続でジャブを繰り出していた。

 フーッ息を吐くと、ダウトの目の前にやってきた。

「たいしたことない……か。そっくりそのまま返してやる」

 レビーは、ボクシングの構えを見せて、ダウトが起き上がる瞬間を狙って、ストレートパンチをする。

 ダウトは、ストレートパンチが見えて、手でガードをしようとした。

 ところが、レビーは瞬時に切り替えて、回し蹴りをする。

 まさか、回し蹴りをされるとは、思っていなかったダウトは、仰向けに倒れる。

 ダウトは、ゆっくりと手をつきながら、立ち上がり、ダウトを睨みつけた。

 レビーは、この中で一番、スピードがある。

 スピードについていけていたと思っていたが、フェイントをかけてくるとは。

「スピードはありそうだな」

 ダウトはニヤリと笑う。

 その笑みは何を企んでいるのか。

 ダウトは、爪をレビーに向けて、襲いかかる。

 レビーはダウトの動きをギリギリまで見極めた。

 そして、爪を躱せると確信したときだった。爪が消える。

「爪が消えた!?」

 ダウトは爪を見失い、周囲を見回す。

「ぐあっ!!!!」

 レビーの背中に、何かが食い込む。

 爪だ。

 レビーは目を見開く。

 なんとか、耐えようと立ったまま、心を落ち着かせようとしたが、膝をついてしまった。

血が流れてくるのを感じる。それに、思うように、身体が動かなくなった。

 背中を動かそうとすると、ゴキっと骨が鳴る。

「っっっ!!」

「レビー大丈夫か?」

 セルティスが、レビーに駆け寄ってくる。

「動けないよね? そりゃ、そうだよ。背骨を折ったんだから」

 ダウトは妙な笑みを浮かべている。

 目は怒っているが、口角は上がっている。作り笑いだ。

「っっ」

 セルティスは、ラグナロクを振って、炎を発生させた。

 ダウトを斬ると同時に、炎がダウトを燃やす。

「ちっ」

 ダウトは舌打ちをしながら、後方へと跳び、ラグナロクを避けた。

「急に、何? 僕、この2人の相手してるんだけど」

 ダウトは、爪をセルティスに向けた。

 上から目線で、生意気な子供だ。

 だが、戦闘能力は高い。油断したら、命を簡単に奪われてしまう。

 セルティスは、直感的にそう思った。

 ダウトは、ターゲットをセルティスに変えたのか、飛び掛かってくる。

 セルティスは、呼吸を整えて、丹田を意識する。

 ダウトの爪が突き刺さる寸前、ラグナロクで受け止めると、首にキックをして、吹っ飛ばした。

 ダウトは、思いがけない攻撃に受け身をとることができず、顔を強打して倒れる。

「へぇ、やってくれるじゃん」

 ダウトはすぐに起き上がると、セルティスに突進してくる。

 まるで、猪のようだ。

 負けるわけがない。

 確かにダメージを受けた。

 でも、最後に勝つのはセルティスではない。

 ダウトは猛スピードで、セルティスに向かっていった。

 セルティスは、ダウトの速さを観察した。

 さっき、リックと戦っていたときは、スピードが速すぎて見てなかった。

 しかし、今は、精神統一をし、丹田に集中させている。

 だから、見えるはず。

 目を大きく開けた。

 そのとき、猛突進してくるダウトの速さが、ゆっくりに見えた。

 高く跳び、セルティスは、真上からラグナロクを振り降ろした。

「なっ」

 ダウトは、目の前にいたはずのセルティスの姿が、見えなくなって、動きが止まった。

 何故だ。セルティスの動きが見えなかった。いつ、上に跳んだのか。

「うわぁっ!」

 ラグナロクが炎と化して、ダウトを叩き落とした。

 セルティスは、軽やかに着地をすると、ダウトを睨みつけた。

「仲間を馬鹿にしてただろ?」

 セルティスの言葉に、ダウトはフッと笑った。

 何がおかしいのか、セルティスには理解できない。

「仲間? 仲間って何? 随分と大切にしているようだけど」

 ダウトは、セルティスに顔を近づけて、ジロジロと見ている。

 セルティスからしてみれば、気味が悪い。

 ストーカーされているような気分だ。

「仲間もわからないのか、かわいそうだな。あの2人は仲間じゃないのか?」

 セルティスは、少し、ダウトから距離を置いて聞く。

「あの2人? あぁ、アミとリィのことか。一緒に行動してるけど、別に仲間ってわけじゃないなぁ。ただ、観察していただけ。アミとリィが、どのくらいの実力か。まぁ、君たちより弱かっただけのこと」

 ダウトは、にっこりした。そして、セルティスに爪を引っかこうとした。

 セルティスは、もう一度、精神統一をして、爪の動きを確認する。

 見える。

 どんなに速くても、セルティスにはわかる。ラグナロクで爪を叩く。

 キーンという高い音が響いた。

「くっ……なんで、躱すの?」

 ムッとしたダウトは、雄叫びのような声を上げて、セルティスに勢いよく、爪を立てる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 苛立ちが、ダウトを奮い立たせたようで、更にスピードが増していた。

 流石にセルティスは、読むことができなかった。

 なんとか躱そうと身構えたが、その前にホークのダガーが、ダウトに突き刺さり、更に、リックが、アルテマを振って、土を浮かび上がらせた。

 その土が、ダウトを斬ると同時に牙を向いた。

「なっ……なんでっ!!」

 ダウトは、うつ伏せに倒れたまま、動けない。

 ショックが大きい。

 セルティス達は、それほど戦闘能力が高くないと思っていた。

 アミやリィ、ダウトのようなモンスターのほうが人間よりも強いと信じて、モンスターとなることを選んだ。

 それなのに、何故、生身の人間に負けるのだろう。

 ただ、強くなりたかっただけ。

 人間のほうが強いってどういうことなのか、ダウトは思考を巡らせていた。

「……人間よりもモンスターになったほうが、強いはず!」

 ダウトは、ボソボソと言った。

 その声は悲しそうだ。

「もっと、強くなりたかった……いつも、弱くて。ボコボコにされて……そんな人間を殺してやりたくて、強くなりたいと思ったのに……全然、強くなってない!!」

 セルティスは、ダウトの言葉を聞いて、傍に駆け寄り、優しく声をかけた。

「いろいろと傷つけられてきたんだな」

 ダウトの気持ちは、ダウトにしかわからない。

 だけど、辛く悲しいということは、セルティスにも伝わってくる。

「もっと強くなりたいって思うよ。きっと、あたしもそう思う。でも、本当の強さって、どんなことがあっても、相手のことを想うことだよ。ただ、殺したい、復讐したいっていう気持ちだけじゃ強くなれない。相手に対する優しさや、相手を想う気持ちがなけければ、強くなれないんだよ」

 セルティスは、仲間と出会って、ようやく気づけた。

 最初は、過去に仲間を失ったことから、自分では守れない。

 一緒にいれば、巻き込んでしまう。そんな思いから、ひとりで行動するようになった。

 本当は恐怖があって不安だったけれど、巻き込むのは嫌だと仲間は作らなかった。

 しかし、ホークをはじめとして、仲間と出会って、仲間を想うようになって変わった。仲間を想う気持ちが心を強くする。

「悔しいよ……いつも、勝てなかった……なにが足りないのかな……」

 ダウトは、泣きながら言って目を閉じた。
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