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5章 夜の街、ブラックタウンに潜む闇

第83話 自分に勝つ

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 セルティスは、ラグナロクをアミに振る。

 その動きは一瞬だった。アミが躱そうとして身を捻ったときに、ラグナロクは炎を纏い、アミを切り裂いていく。

「……さっきとは全然違う動きをしてきた。何がそうさせているの?」

 アミは、セルティスをじっと見る。変わったところは何もない。

 アミの実感として、特に強さを感じない。

 いや、むしろ弱い。

 だが、急に動きが速くなっていた。

 アミには、どうしてもわからなかった。

「まさか……あの男を助けたい一心で……?」

 アミは、セルティスを睨み付けた。

 セルティスは、アミにラグナロクを向けて、弧を描くように斬っていく。

「あっ」

 アミは、少し反応が遅れた。

 ただ、今回は、反応が遅れてもすぐに動けたため、ラグナロクからはダメージを受けなかった。

 しかし、動きは今までとは、全く違っていたため、アミは驚愕した。

 やはり、あの男を助けたいという気持ちだけで動いている。

 何故、助けたい気持ちだけで、こんなにも動きが変わるのか。

 アミは、セルティスの動きを見ながら、どう出るのか見極めようとした。


 セルティスは、アミの動きがゆっくりになったのを見て、疑問を抱いた。

 おかしい。

 さっきまで、目に見えないほどの速さで攻撃していた。

 だけど、急に動きが鈍くなった。

 何が起こったのだろうか。

 大きいダメージは与えられていないが、それでも動きが遅くなったことで、セルティスにもチャンスが生まれたということだ。

それとも、ただ単に体力が消耗しただけか。

  ラグナロクを構えながら、慎重にアミの様子を見る。

この調子なら、互角に戦えている。

 そう確信した。

 ラグナロクを振り下ろすと見せかけて、セルティスは、アミに足払いをして、態勢を崩す。

「なにっ?!」

 アミは、足払いされるとは思っていなかったようで、素早く攻撃態勢に入ることはできなかった。

 態勢が崩れたところを狙い、セルティスは、走りながら、ラグナロクで斬っていく。

「きゃっ!」

 アミは、受身の態勢を取れずに仰向けに倒れる。

 いける! セルティスはそう感じた。

 アミが起き上がってくる前に、ラグナロクで十字に斬る。

 炎がアミを苦しめた。

 アミは、激しく咳き込み、跪いたまま息を整えた。

 アミは、まだ、息が荒いまま、ゆっくりと立ち上がった。

「なんなの、あんた、弱いくせに、しぶとさはあるのね」

 ニヤリと笑った、アミの笑顔は不気味だった。

 アミは、素早くセルティスの背後に回ると、マスカレードをセルティスの首に突きつけた。

「もう、そろそろ死になさい」

 そう言って、アミはマスカレードを刺そうとしたとき、セルティスは、アミのお腹を蹴って、アミから距離を置いた。

 このとき、今までとは違う気持ちに、セルティスは、初めて気がついた。

(今までは、こういう状況で、意志が弱くなって、やっぱりダメだと思ってたけど、今は違う。自分と戦って、弱い自分に勝てと、もう1人の自分が言ってる)

 今までは、諦めのようなものがあったように思う。

 セルティスは言い聞かせた。自分の気持ちに負けるなと。

 気持ちで負けていた。

 その理由は、恐怖だ。

恐怖心のほうが勝っていて、どうしても戦うことができなかった。

 自分の恐怖に打ち勝つことができない。

 でも、今は恐怖心に勝てる気がする。

 それは、どうしてなのか。

 ホークがついていてくれるからだ。

 ひとりではないと実感できるようになってきたからだと、セルティスは気がついた。


 アミは、お腹を蹴られて咳き込んだ。

 攻撃力は対して強くないくせに、何故、こんなに苦戦するのだとイライラしている。

 セルティスという女剣士を見ていると早く殺したくなると、四天王のエバンが言っていたことが、よくわかる。

「あんた見ていると、本当にイライラするわ。今度は殺す」

 アミは、マスカレードでセルティスを刺そうと飛びかかった。

 セルティスは、フーッと一息をついた。五感を鋭くしようと精神統一した。

 このとき、上半身を脱力させる。

脱力させたとき、今までなかった感覚があった。

 丹田に気持ちや五感を集中させるようにすると、アミの動きがスローモーションに見えた。

 いわゆるゾーンというものだ。

 緊張とリラックスのバランスがとれたときに、極限の集中力を発揮する。

 それがゾーン。

 ゾーンというものに入ると、相手の動きが止まって見えたり、スローモーションに見えたり、あるいは、光の筋が見えて動きを読むことができることがある。

 今のセルティスは、まさにゾーン状態に入っていると言っていいだろう。

「見える! ゆっくりな動きだ」

 セルティスは、マスカレードをラグナロクで振り払い、すぐに縦に斬る。

 アミは、咄嗟にマスカレードでラグナロクを受け止めようとしたが、すでに遅し。

 ラグナロクから発生する炎のせいで、身体が熱くなる。

「何故、急に動きが変わった……」

 アミは、思わず呟いた。

 アミの呟きを聞いたセルティスは、再び息をフーッと吐く。

「あたしには、大切な仲間がいる。ひとりじゃないって気がついたとき、きっと強くなるんだ」
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