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3章 修行

そばにいたい

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 コールズは制御できないラグナロクを見てニッと笑った。

「その珠玉は魔石ってことは知っているだろう?」

 セルティスは頷いた。

 メルが説明してくれていた。

 その魔石が自分の気持ち次第ということも。

 ただ、あまり理解は出来ていなかったように思う。

「これが怒りを爆発させて起こったこと。一度、怒りを爆発させて魔石を発動させるとセルティス自身が剣を振らなくても、ずっと制御できずに発動し続ける」

 コールズは指をパチンと鳴らして言った。

「制御するには?」

 ホークが聞くと、コールズは人差し指を立てた。

「気持ち次第と言っただろ? どうやったら制御できると思う?」

 セルティスは思い出した。

 アルサと戦った時、怒りが爆発して魔石から炎を発動させた。

 でも、あのとき、レナルドを何とか助けようと必至だったから気がつかなかったけれど、今のようにずっと発動していなかった。

 その時の気持ちはどうだったのだろう。

「……過去に初めて発動したときは、確かに怒りが爆発したときだった。でも、その後、すぐに大切な仲間を助けようとしていた。その時は発動していなかった」

 セルティスがゆっくりとした口調で言う。

「おっ、その時、どんな気持ちだった?」

 コールズが聞き返す。

 セルティスはその後、どんな気持ちだったのか全く覚えていない。それだけ必至だった。

「……あの時、多分、大切な仲間を失いたくなくて……」

 コールズはセルティスの代わりに説明する。

「きっと、その時にセルティスの中にあったのは愛だ。セルティスは大事な仲間を助けようと必至だったと言った。それは、生きて欲しいからだよな。セルティスは何故、その仲間に生きて欲しいと思った? 何故、その仲間が大事なんだ?」

 セルティスは少し考えこんだ。

 何故、その仲間が大切なのか、

 何故、生きて欲しいと思ったのか。

「なんで……だろ……」

 セルティスは数分、黙っていたがボソッと答えた。

「こんなあたしでも優しくしてくれたからかな……全部、受け止めてくて……
だから、今度は、あたしかどうにかしなきゃって思って……」

 コールズは少し呆れているように見えた。

「それが愛なんだよ。セルティス。愛がなければ、仲間も大切にできないし、
助けようとも思わないよ」

 セルティスはちょっと恥ずかしくなって、顔を伏せた。

「照れることはないだろ。愛っていうのは一番大切なんだよ」

 コールズはセルティスの背中を叩いた。

「えっ?」

 セルティスは思いのほか強く叩かれて、倒れそうになる。

「……あっ……」

咄嗟にホークが受け止めた。

「……」

 セルティスはホークの腕に抱かれて、なんだか力が抜けてしまう。

 コールズは確信したようにニッコリした。

「ほら、魔石を見てみろ。振らなくても発動していた炎が発動しなくなっただろ?」

 ホークは、気持ち次第で魔石の発動威力が、変わるというのが、なんとなく、わかった気がする。

「そっか、その魔石をコントロールって、ミサは感情コントロールのトレーニングをしていたのか」

 アランはようやく、魔石をコントロールするという意味がわかったようだ。

「今、魔石を制御できたのは、セルティスが仲間のことを考えたからだよ。爆発するほどの怒りが過去にあって思い出したかもしれない。でも、その後は何を考えた?」

 コールズがセルティスを見て聞く。セルティスは長く息を吐いた。

「……それは……過去の大切な仲間のことを考えた時、ホークを思い出した。昔の仲間みたいに、あたしのことを全て受け止めてくれる。昔の仲間と同じことを言われて、優しくしてくれて、だから、あの時のように失いたくない。
守りたいって考えた。あたしは……ホークが必要なんだ……って思った」

 コールズはにっこりと笑った。

「そうだ。その思いが魔石を制御したんだ。威力が増して暴走させるのも、強い威力でも暴走させずに制御させるのも気持ち次第。悲しさや恐怖があれば威力は弱まる」

 セルティスはコールズに言われて、気持ち次第だということはわかったが、初めてホークに対して本気で守りたいという想いがあったということに気がついた。

 それから、3時間くらい修行をしていた。感情をコントロールして魔石の扱い方を練習をした。


 その日の夜、セルティスは頭の整理が出来ず、ボーっとしていた。

(結局、あたしは変わってない……レナルドが傍にいないとダメだった。それは今もだ。ホークが傍にいないとダメなんだ。あたし……これじゃ……)

 セルティスは頭がぐちゃぐちゃになって、ベッドの上に大の字になった。

(愛……か)

 セルティスは落ち着かなくて気がついたら、ホークのいる部屋の前にいた。

 だけど、そこで止まってしまい、ノックもできなかった。

(本当は何がしたいんだ……)

 セルティスは、結局、ホークに会わないまま、去って行こうとしたとき、扉が開いた。

 ホークはセルティスの姿を見て、声をかけた。

「セルティス?」

 セルティスは振り返った。

 その顔を見たホークは、また恐怖心でも出てきたのか、と思った。

「怖いこと思い出したか?」

 セルティスは首を横に振る。

 いてもたってもいられなくなって、その場を去ろうとした時だった。

 ホークが腕を掴んだ。

「何もないってことはないだろ」

 セルティスは聞こえるか、聞こえないか、微妙な声で答える。

「……そばにいてほしい……」

 ホークは、セルティスの声をしっかり聞きとって、部屋の中へ入るように促す。

 「まだ、やっぱり恐怖を思い出すのか?」

 ホークの声は優しかった。

「違う……でも……ホークに傍にいて欲しい。あたし、気づいた……ひとりになるのが怖い。大切な仲間や家族を失って……いつもひとりになる……ひとりになると、どうしようもなく怖い。不安になる。本当は……助けてほしくて……」

 セルティスは何を言っているのか、自分でもわからなかった。

「バカだな、いつでも傍にいてやる。俺が必ずついてる」

 ホークはセルティスを抱きしめた。

「……メルやエースを失ったとき、このまま、アランやホークもいなくなっちゃうんじゃないかって……あたし……仲間がいないと何もできない……」

 セルティスはホークの胸の中で、正直に心の内を明かした。

「おまえをひとりにさせない」

 ホークは子供をあやすように背中を撫でる。

「ホークといると安心する。一緒に寝てもいい?」

 ホークは驚いた。

 セルティスから、そんな言葉が出るとは、思っていなかったからだ。

「あぁ……」

 セルティスはホークをギューっと抱きしめていた。

「セルティス……襲っちゃうかもしれないぞ」

 ホークはセルティスの心を和らげようと冗談を言ってみた。

 でも、セルティスの反応は、なかった。

「セルティス……?」

 ホークの胸の中で、セルティスは眠ってしまった。

「子供みたいだな……」

 ホークはフッと笑った。

 安心しているような顔でよかったと思った。

セルティスをベッドに寝かせてしばらく寝顔を見つめる。
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