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3章 修行

第56話 無理な元気さ

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「ミサを守ってやってくれないか?」

 コールズに言われて、アランは大きく目を見開いて驚愕している。

「俺が?」

 コールズはアランを見て笑った。

「あぁ、そうだ。お前と同じだ。両親は四天王に殺された。ミサの両親はお前たちの両親のような戦士や騎士ではない。お前の両親はミサの両親とミサを守った」

 アランはフーッと息を吐いた。

 コールズの話を切って質問した。

「なぁ、なんで、俺の両親は国の人たちを守って犠牲になったのに、悪い噂が流れているんだ?」

 コールズは心を落ち着けてから、アランの質問に答えた。

「アランの両親は四天王にはめられて、人を殺すことになってしまったからな」

 アランは拳を握りしめた。

「だから、あの時、両親のことを恨んで馬鹿にされていろいろと言われて凄く
悔しかった」

 コールズは今にも殴ってきそうなくらい、怒りをむき出しにしているアランを制した。

「そうだな。善悪の区別もできないような世の中になっちまったな」

 コールズはしばらく休憩しようと話を止めた。

 だが、アランはすぐに聞きたそうだ。

 困り果てたコールズはセルティスのことも考え、提案をした。

「セルティスを休ませてから、また、話そう」

  気がつけば、セルティスはホークの胸で過呼吸を起こしている。

「セルティス、ごめん」

 アランはセルティスに異変が起きていることに気がつかなかった。

「アランのせいじゃない。休ませれば大丈夫だ」

 ホークはセルティスを寝室に運ぶ。

 コールズは完全にホークが部屋から出たことを確認して、アランのほうに
向き直る。

「さて、アラン、話を続ける。お前の両親が必死にミサもミサの両親も守って
いた。でも、守りきれずミサの両親は命を落とした」

 アランは沈黙している。

口を挟まないと思ったコールズは話を再開した。

「それからは俺がミサを育てた。だけど、両親のことや四天王のことを話したら、仇を取るっていって聞かなくて、剣術を教えた」

 コールズは本日、何度目かのため息をつく。

「元気で活発だけど、本当は寂しいんだと思う」

「寂しい?」

 アランは聞き返す。

「あぁ、ミサには同い年の子も友達もいないからな。きっと、アランがいて
嬉しいんだと思う」

コールズは話の最後のほうで、フッと笑った。
 
「友達か」

 アランは考え込んでいるような顔をした。

「アランは両親のことについて馬鹿にされて、散々な目にあって悔しかったと思う」

 コールズの言葉にアランは頷いた。

「ミサは、貧しい暮らしだったんだ。同い年の子や人々から、乱暴を受けたり言葉で責められて、貧しいからってゴミ扱いされた。だから、本当は明るくて活発なのも誤魔化しているんだと思う」

 コールズの声が少し震えている。

 アランは道場に向かうミサの背中を思い出す。

「あの違和感は、これだったんだ」

 違和感の正体が理解できて、アランはポキポキと指を鳴らした。

「貧しいからって、なんなんだよ! 普通なら困っている人を助けなきゃいけないだろ!! 困っている人は放っておくっていうのか!!」

 その時、ミサが戻ってきた。

「コールズ、余計なこと言わなくていいよ。もう、私、子供じゃない」

 ミサは強気で言っていたが、その奥にはいろんなものが溜まっていて、しんどそうに見える。


 ミサは水分補給をすると、自分の部屋へ早々戻った。

「ミサ!」

 アランは呼び止めたが、ミサには聞こえなかったようだ。

 アランは、このままではダメだと思って、ミサの部屋へと行く。

 ミサはベッドの上にドサっとうつ伏せに飛び込んだ。

 しばらく何も考えずにボーッとしていた。

 そこに声がする。

「ミサ! ミサ!!」

 アランの声だった。

 ミサは起き上がってドアを開ける。

「どうしたの?」

 ミサは少し元気がなさそうな感じだった。

「あっ、いや、えっと」

 アランはどうすればいいか、わからなくなって頭をポリポリとかく。

「とりあえず入りなよ」

 ミサはアランを部屋に入れてドアを閉める。

 しばらくアランとミサは黙っていた。

 かなり気まずい雰囲気だ。

 そんな空気を変えたのはミサだった。

「何が話したいことでもあったんじゃないの?」

 アランは心を落ち着けてから口を開く。

「おまえさ、ずっと耐えてたんだな。ボロボロにされても」

 ミサは体をビクッと震わせた。

「助けてくれたのにちゃんとお礼言ってなかったな。ありがとう。今度は俺が
助けるから」

 アランはちゃんと言うのが、恥ずかしくてサッと伝えてしまった。

 ミサはキョトンとしている。

 何があったのだろうといった感じだ。

「無理に元気でいようとしなくていい」

 アランは静かに答える。

 その言葉は静かだが、強さを感じる。

「何かあったら、俺がお前を守る」

 アランは頭の整理ができず、結局、シンプルに答えると、ミサに背を向けた。恥ずかしくなってきて、ドアを開けようとしたとき、ミサが腕を掴んだ。

「ミサ?」

 アランは振り返った。

「ありがとう。アラン」

ミサは腕を離さなかった。

「ねぇ、もう少しそばにいて」

 アランは頷いた。

 気がつくと、ミサが手を握っている。

 その手から、寂しさだったり辛さだったりが伝わってくる。

 アランはそっと握り返した。
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