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3章 修行

第54話 唯一の生き残り

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 セルティスたちは、ある場所へ向かっていた。

 お世話になったミサの家で得た情報で、場所はヤーマ街。

 コールズという元剣士の家がある。

 コールズは10年前に、四天王を封じ込めたひとりで、唯一の生き残りらしい。

 コールズなら何か聞けるかもしれない。

 さりげなくアランがミサから聞き出したようだ。


 今から15時間前。


 アランは目を覚ました。

 熱が高く強引にミサに寝かされていた。

 ミサに看病されながら涙を流す。

 その様子を見て、ミサは黙ったまま、優しく手を握る。

「何があったかは聞かない。だけど、私が受け止めるよ。辛さも悲しさも」

 アランは思わず手を引っ込めた。

 こんなに優しくされたことがなかったから、戸惑ってしまったのだ。

 家族や友達に優しくされた記憶はある。

 それも7歳までの記憶だ。

 8歳になったとき、四天王に家族や友達をなくして忍者として生きることになったとき。

 アランはその頃から優しくされた記憶が全くないのだ。

 ミサはアランに手を引っ込まれても、笑顔で接した。

「あんたは何故、四天王のことを知りたいの?」

 笑顔から真剣な顔になった。

「四天王に家族が殺された。何故、家族が殺されなきゃいけなかったのか、真相を知りたい」

 アランが悔しそうに言うと、ミサが教えてくれた。

「ヤーマ街にコールズの家がある。四天王を封じ込めたときの唯一の生き残りよ。だから、何か知っているかもしれない」


 ということで現在、セルティスたちはヤーマ街でコールズの家を探しているのだった。

 セルティスはアランの背中を見て、フッと笑った。

 アランは強くなった。

 強い気持ちがそうさせたのかもしれない。

(あたしは弱いままだな)

 その様子を見ていたホークは、笑顔の中に悲しさを含んでいるように思えた。

「セルティス、どうしたんだ?」

 セルティスはホークに声をかけられて、ニコッとした。

「アランは強くなっているんだなって」

 ホークはセルティスの頭をポンっと叩いた。

「弱いままだなって考えてたんだろ?」

 セルティスは図星をつかれて、ドキッとした。

「なんで、わかるんだ?」

 ホークはセルティスの髪を撫でた。

「セルティス、強くなることよりも弱さを認めて、向き合うことのほうが大事だぜ。そこから強くなるんじないか。人間って」

 セルティスはホーク言葉に涙が出そうだった。

「泣き虫なところも、俺は可愛いと思うぜ」

 ホークはセルティスの頬に触れてニヤリと笑う。

「か、可愛いって、な、何言ってんだっ」

 セルティスの顔が赤くなっている。

 数時間歩いて、ようやくヤーマ街に着いた。

といっても、コールズの家がどこにあるのか不明だ。

 街の人の姿もあまりないように思う。

 まだ、昼間だから外に出てもいいはず。

 いないのは、最近モンスターが増えて逃げているのだろうか。

 それとも襲われたのか。

 ネガティブなことを考えてしまう。

セルティスは思考を振り払った。

(ダメだ、あたしが後ろ向きになってどうする。あたしが引っ張らないといけないのに)

 ホークは呆れてため息をついた。

「セルティス、また、ひとりでなんとかしようとしてるだろ」

 セルティスの肩を強く掴んでビシッと強い口調で言った。

「おまえはひとりじゃない。俺がいるだろ。アランもいる。ちゃんと助けて欲しい時は言わないと」

 セルティスは少し体を震わせた。

 まさか、ホークがこんなにも強く肩を掴むとは思っていなかった。

 心強さを感じたと同時に恐怖心もあった。

理由はわからない。

 ホークはセルティスを離した。

「ごめん、強く掴みすぎた」

 セルティスは首を横に振った。

「ごめん、違うんだ。あたし、わからなくて。人に甘えたいって思うこともある。でも、どこかで甘えることができないんだ」


 ホークはギューッと抱きしめる。

「ホーク?」

 セルティスは目を丸くした。

「俺が甘えさせてやる」

 ホークに言われて、セルティスはそっと腰に手を回す。

「ありがとう。ホーク」

 セルティスは何故だか涙が溢れていた。

 アランは考え込んだ。

 あんなに雰囲気も仲も良い。

 なのに何故、2人とも鈍感なんだとガッカリしてしまう。

 お互いに好きなんだろうけどと思いながら、セルティスとホークを見ていた。

「なに、じっと見てるの?」

 アランの目に少女の姿が飛び込んできた。

「うわっ!」

 アランは思わず、後方へと跳ぶ。ところが、バランスを崩して、背中を強打した。

「いってぇー!!」

 アランは大きな声を上げる。

 クスクスと笑う少女。

「あらあら、大丈夫? アラン」

 少女は手を伸ばす。

「お、おう!」

 アランは少女の手を借りて立ち上がった。

「どうしたんだよ、ミサ」

 アランは照れながら聞く。

 ミサと名乗った少女はにっこりと笑う。

「修行しに行くのよ」

「修行?」

 アランは首を傾げた。

「あっ、ごめん、言わなかったね。コールズに修行をしてもらってるの」

 ミサは笑いながら答える。

「えっ? どういうことだ?」

 アランは呆然としている。


 10年前、四天王を封じ込めた時の唯一の生き残りであるコールズは、復活を聞いて魔石を持つ者たちを招集しているらしい。

 魔石を持つ者たちが何故、必要なのか。

 その理由は魔石を操ることができなかったら、四天王を封じ込めることはできないからだ。魔石は人を選ぶ。

 魔石が相応しいと思った人を。

 ただし、使い方によっては魔石は人の命を脅かす存在にもなる。

 セルティスは、メルが言ってたことを思い出した。

「確か魔石は人を選んで、死ぬまでついていく。一度離れても生きている限り、魔石はその人のところに行く」

 ミサは頷いた。

 その後で、付け加える。

「魔石はその人の性格によって威力も使い方も変わる。魔石をコントロールするための修行よ」

 四天王も魔石を巧みに操る。

だからこそ、セルティスたちも魔石をちゃんとコントロールできるようにならなければ倒せない。

 セルティスたちは、コールズに聞きたいこともあるため、ミサに案内してもらうことにした。
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