上 下
52 / 239
2章 四天王の手下

第52話 心の弱さを認める

しおりを挟む
 フレックはブラックソードを向けると、一気に振り下ろす。

「っの野郎っ!!」

 ホークは、サッと後方へ跳んで、ブラックソードをよける。

 大きく息を吸うと、ダガーで腿の付け根を刺そうとする。

 フレックは動きを読んでいた。

 すぐに身体を捻って横へと跳ぶ。

 グサッ

 ダガーは床を刺す。

「チッ」

 ホークはダガーを抜き取ると、背後へ回った。

 フレックは背後の気配に気がついていない。

 チャンスだと思ってダガーで深く抉ろうとしたとき。

 フレックの姿が消えた。

 ホークは目を丸くしている。

「あぁっ!!」

 地面に頬を叩きつけられた。

 背中から大量の血が流れている。

 確かに背後に回ったはず。

 それなのにフレックの姿が見えなかった。

(動きが速い)

 ホークは肌で感じながら、動きが読めなかった原因を考えていた。

 だんだん意識が薄れていくホーク。

 目が開かない。

(俺、死ぬのか……)

 ホークの様子を見て、フレックは不敵な笑みを浮かべていた。

「この世の中は弱肉強食。強い奴だけが生き延びる。弱い奴は死ぬしかないんだよ」

 ブラックソードを振り下ろして、雷を起こす。



ビューッ


 雷はホークを狙ったはずだった。突然、光が雷とぶつかる。

 風が吹いているかのような音が聞こえる。

 フレックは叫んだ。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 肩に手裏剣が刺さっていたのだ。

 いつ、手裏剣が投げられたのか。

 フレックには全く手裏剣が見えなかった。

 息を切らしながら、フレックの前に立ち上がったのはアランだ。

「確かにな。この世の中は弱肉強食だよ。弱い者は強い奴に食われていく。だけどな」

 一息置いて構えた。

「強くなっても、弱い奴を助けねぇなら強さなんていらねぇー!!」

狼が雄叫びを上げているような声だ。

 「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 拳を振り上げて飛びかかった。

 フレックは思いがけない動きに対応できない。

 おもいっきりパンチを受けて、吹き飛ばされた。

「ゴホッ、ゴホッ」

 咳き込みながら、ゆっくりと立ち上がる。

 アランはフレックに歩み寄って、キックした。

 フレックはハアハアしながら、ホークを睨みつける。

 なんとか立ち上がろうとしたとき、血を吐き出した。

「ガハッ」

 アランが見つめる目は悲しげだ。

「強さは弱い人を助けるためにあるんだよ。人の命を奪うために強さはあるんじゃない」

 フレックはブラックソードを叩きつける。

 雷がアランを狙っている。

 アランはかわそうとしたが、身体がいうことをきかない。

 肩から胸にかけて斜めに斬られて雷を受けた。

 フレックは連続で攻撃を仕掛けてくる。

ブラックソードがアランを斬ろうとした。


 シュッー


 光の筋となった手裏剣が、ブラックソードを止めた。

 床を見れば、赤い液体で染まっている。

 アランは片目でフレックの様子を見た。

「本当に悪かった。あのとき、俺は狙われたエマを助けようとした」

 語りかけるような口調だった。

「お前からは見えなかったから、俺が殺したように思えたかもしれない。でも」

 ここで、話を一度切った。息を整えたアランは、再び話し始めた。

「エマは助けようとモンスターに攻撃した。そのとき、あのモンスターは何をしたと思う?」

 アランの問いにフレックは答えなかった。

 静かに言葉を待つ。

 アランは目を鋭くした。

 今にも怒りが爆発してしまいそうだった。

「あのモンスターはエマを盾にした」


ーーーーー少年2人はモンスターと対峙していた。

 アランとフレック。

 まだ8歳になったばかりだ。

「なんで、殺したの!?」

 フレックは震えた手で、剣をモンスターに振り下ろした。

モンスターはフレックを見ると、腕で軽く吹き飛ばした。

 アランはフレックに歩み寄った。

「フレック!」

 周囲を見回せば、大人の騎士や戦士が血だらけになって倒れている。

 フレックは立ち上がって、強引にもモンスターを倒そうと剣を振り上げた。

 アランはフレックを止めようと腰をつかんだ。

「無理だ! 今の俺たちじゃ倒せない!」

 フレックはアランを突き飛ばした。

 ドカッ

 アランは建物に突っ込んだ。

「フレック!」

 アランはすぐに立ち上がってフレックを止めようとした。

 アランは勢いよく飛び出したが、動きが止まった。

 目の前で、少女がモンスターに狙われている。

 フレックも少女が狙われていることに気がついた。

「エマッ!!」

エマと名乗った少女はモンスターに気がついていない。

フレックはエマを助けようと、モンスターに飛びついた。

「エマを離せ!!!!」

 モンスターはモンスターは飛びついてきた、フレックの首を掴んでギュッと締めた。

 フレックはモンスターの腕を掴む。

 腕から逃れようと掴む手に力を込める。

 モンスターはピクッともしない。

 つまらないと思ったか、モンスターは、フレックを放り投げた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 フレックは地面に背中を強打する。

 モンスターは再び、エマを狙おうとした。

 モンスターの腕がエマに振り下ろされる。

「エマ!!」

 アランはモンスターを短剣で突き刺そうとした。

 そのときだった。

 モンスターはエマを差し出した。

「えっ!?」

 アランは唖然とする。

 フレックは立ち上がってアランの方へ駆け寄ろうとして、目を大きくした。

「おまえ、まさか……」

 アランは固まってしまった。

 短剣がエマの胸を貫いていた。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 アランは膝をついて拳を握りしめた。

 目からは涙が溢れ出てくる。

 モンスターはエマを投げ捨ててアランを突き飛ばした。

 フレックはエマをのほうに駆け寄った。

「エマ!!」

必死で声をかけるが、反応がない。

「だめだよっ!! ずっと一緒にいようって言ったじゃん!!」

 フレックはアランを睨みつけた。

「なんで、エマを殺したの?」

 フレックは剣を振り下ろした。

 アランは何も言えず、ただ、フレックの攻撃を受けた。

 反抗しないアランを見て、フレックは何度も殴る。

「おまえのせいで、エマは!!!!」

 何度も殴られ、アランは意識を失ったーーーー


 アランは涙を堪えながら、フレックに謝った。

「本当にごめんよ。エマのこと好きだったんだよな。大好きな女の子の命を俺は……」

 フレックはブラックソードで横なぎに斬っていく。

「今さら、おせぇんだよ!!」

 フレックの手は震えている。アランは腕を掴んだ。

「でも、おまえは間違ってる。強さを手に入れて人の命を奪うなんて、あのとき襲ったモンスターと変わらねぇ」

 ブラックソードを振り払ったアランは、弱々しい声で話しかけた。

「人間の本当の強さって、ちゃんと弱さも受け入れられることなんじゃないか?」

 フレックの顔の筋肉が初めて動いた。

「何が言いたい?」

 アランを見る目は冷たさを感じさせる。

 アランは静かに口を開いた。

「人間って必ず弱い部分がある。セルティスもホークもメルもエースも。
それぞれ弱さを抱えている。いいんだよ、弱くて。強くなろうと思わなくても」

 フレックのクールな顔が崩れていく。

 きっと弱さを認めたくなかったのだ。

 弱さを認めれば負けるのと同じ。負ければ、生きることもできない。アランは続けた。
「強くなることよりも、弱さとしっかり向き合うことのほうが大事なんじゃないか?」

一息おいて、また問いかける。

「おまえは自分の弱さとしっかりと向き合うことが出来なかった。だから、肉体的に強くなっても精神的には強くなれなかった。違うか?」

 フレックは激しく動揺した。

 ブラックソードが手から滑り落ちる。

 アランの目には涙が溢れている。

「人の命を奪おうとするなんて、心の弱い奴がやることだよ。もう、こんなことやめてくれよ」

 涙を拭って膝をついた。

「四天王に上手いこと乗せられただけたろ?それとも、このまま四天王の手下になるのか?」

 フレックは沈黙したまま、アランを見つめる。

 アランは声を震わせながら答える。

「大好きだったエマを奪われて、悔しくて悲しくて、どうしようもなくなったんだよな。本当にごめん。俺を恨むのも無理はない」

 フレックは膝をついて呆然としていた。

 何故だろうか、抱えていたもの全てが解放されたような感覚を覚えた。

「アラン、ありがとう」

 自然と出てきた言葉だった。

 フレックは、今、気づいた。

 本当は暴走する自分をアランに止めて欲しかった。

 エマが死んだときから、辛かった心をどうすることもできなかった。

「暴走を止めてくれてありがとう」

 フレックはそう言って倒れる。その顔は、穏やかだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

捨てられた第四王女は母国には戻らない

風見ゆうみ
恋愛
フラル王国には一人の王子と四人の王女がいた。第四王女は王家にとって災厄か幸運のどちらかだと古くから伝えられていた。 災厄とみなされた第四王女のミーリルは、七歳の時に国境近くの森の中で置き去りにされてしまう。 何とか隣国にたどり着き、警備兵によって保護されたミーリルは、彼女の境遇を気の毒に思ったジャルヌ辺境伯家に、ミリルとして迎え入れられる。 そんな中、ミーリルを捨てた王家には不幸なことばかり起こるようになる。ミーリルが幸運をもたらす娘だったと気づいた王家は、秘密裏にミーリルを捜し始めるが見つけることはできなかった。 それから八年後、フラル王国の第三王女がジャルヌ辺境伯家の嫡男のリディアスに、ミーリルの婚約者である公爵令息が第三王女に恋をする。 リディアスに大事にされているミーリルを憎く思った第三王女は、実の妹とは知らずにミーリルに接触しようとするのだが……。

異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ
ファンタジー
 異世界に来たかと思ったら、体がコアラになっていた。  しかもレベルはたったの2。持ち物はユーカリの葉だけときたもんだ。  更には、俺を呼び出した偉そうな大臣に「奇怪な生物め」と追い出され、丸裸で生きていくことになってしまった。    夜に活動できることを生かし、モンスターの寝込みを襲うコアラ。  不親切にもまるで説明がないスキル群に辟易しつつも、修行を続けるコアラ。  街で買い物をするために、初心者回復術師にテイムされたふりをしたりして……。  モンスターがユーカリの葉を落とす謎世界で、コアラは気ままに生きて行く。 ※森でほのぼのユーカリをもしゃるお話。

#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN
恋愛
恋人同士まで、秒読みだと思っていたのに―― 思いを伝え合った悠里と剛士。 2人の間に立ち塞がったのは、剛士の元カノ・エリカ――ではなかった。 悠里に激しい敵意をぶつけてくるのは、エリカの親友・カンナ。 カンナは何故、悠里と剛士の仲を引き裂こうとするのか。 なぜ、悠里を追い詰めようとするのか―― 心を試される、悠里と剛士。 2人の辛くて長い恋の試練が、始まる。 ★こちらは、シリーズもの恋愛小説4作目になります。 ・悠里と剛士は、ストーカー事件をきっかけに知り合い、友だち以上恋人未満な仲 ・2人の親友、彩奈と拓真を含めた仲良し4人組 ・剛士には元カノに浮気された経験があり、心に傷を抱えている ★1作目 『私の恋はドキドキと、貴方への恋を刻む』 ストーカーに襲われた女子高の生徒を救う男子高のバスケ部イケメンの話 ★2作目 『2人の日常を積み重ねて。恋のトラウマ、一緒に乗り越えましょう』 剛士と元彼女とのトラウマの話 ★3作目 『友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを』 剛士の誕生日を、悠里と親友2人でサプライズお祝いする話 ラブコメ要素強めの甘い甘いお話です ★番外編 R18 『オトナの#秒恋 心が満たされる甘い甘いエッチ♡〜貴方と刻む幸せなミライ〜』 本編#秒恋シリーズの少し未来のお話 悠里と剛士が恋人同士になった後の、激甘イチャラブHな短篇集♡ こちらもぜひ、よろしくお願いします!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界悪霊譚 ~無能な兄に殺され悪霊になってしまったけど、『吸収』で魔力とスキルを集めていたら世界が畏怖しているようです~

テツみン
ファンタジー
**救国編完結!** 『鑑定——』  エリオット・ラングレー  種族 悪霊  HP 測定不能  MP 測定不能  スキル 「鑑定」、「無限収納」、「全属性魔法」、「思念伝達」、「幻影」、「念動力」……他、多数  アビリティ 「吸収」、「咆哮」、「誘眠」、「脱兎」、「猪突」、「貪食」……他、多数 次々と襲ってくる悪霊を『吸収』し、魔力とスキルを獲得した結果、エリオットは各国が恐れるほどの強大なチカラを持つ存在となっていた! だけど、ステータス表をよーーーーっく見てほしい! そう、種族のところを! 彼も悪霊――つまり「死んでいた」のだ! これは、無念の死を遂げたエリオット少年が悪霊となり、復讐を果たす――つもりが、なぜか王国の大惨事に巻き込まれ、救国の英雄となる話………悪霊なんだけどね。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

処理中です...