上 下
45 / 239
2章 四天王の手下

第45話 妖精と人間との間に生まれたハーフ エース

しおりを挟む
 セルティスはようやく元気を取り戻した。

 肩の荷が下りたようで、表情がスッキリしている。

 ホークはセルティスを見るなり、かなり動揺した。

「あっ……」

 ガッシャーン

 ホークの持っていたコーヒーカップが手から滑り、コーヒーカップが割れて、コーヒーがこぼれた。

「何やってんだよ、ホーク」

 アランはすぐに雑巾を持ってきて、こぼれたコーヒーを拭きとる。

「セルティスに見惚れて動揺したな」

 アランは悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 セルティスは目をぱちくりさせながら、割れたコーヒーカップの始末をしている。

「どうしたんだ?」

 ホークの様子を見ながら、不思議そうな顔をしている。

 ホークは顔が真っ赤になっているため、セルティスから顔を伏せて心を落ち着かせようとした。

「な…なんでもない…」

 そんな様子を見ていたメルはクスクスと笑う。

「誤魔化してるし。素直に言いなさいよ」

メルはホークの背中を強く叩いた。ホークはあまりの衝撃に驚愕した。

「いってぇ……!」

 ホークは涙目でメルを見ている。相当、痛かったらしい。

 メルはじっとホークを見ながら笑みを浮かべている。

「じゃ、私が代弁してあげようか」

 ホークは大慌てでメルの口を塞ぐ。

「ま……まて!」

 メルはホークの手を払いのけながら、横目で見ている。

「もう……なら、素直に言ってあげなよ。セルティスも女の子なんだから、嬉しいはずよ。ちゃんと言えば」

 ホークが動揺している理由は、セルティスの髪型だ。金のウェーブのかかったロングヘア―を後ろで一つにまとめ、ポニーテールにしている。

 前髪が邪魔にならないようにしていたヘッドバンドを外している。

 ポニーテールにするだけで、全く印象が変わってしまい、美しく可愛くなる。

 女の子って不思議だ。

 髪型だけでこんなに雰囲気が変わるものなのかとホークはセルティスに見惚れて動揺した。
 
 ポニーテールのセルティスは、美しく綺麗だ。

 そして、少女のような可愛さも持ち合わせている。

 ホークだけでなく、アランも綺麗だと感じていた。
 
「セルティス、綺麗だな」

 アランは素直に口にする。

 「そうか? ありがとう」

 セルティスは笑顔で感謝した。

 綺麗と言われて、セルティスは少し照れていたようで、顔が赤く染まっていた。

 セルティスのポニーテール姿は、メルも見惚れてしまうくらい綺麗だ。

 同性でも見惚れてしまうほど綺麗だ。

「セルティス、可愛い」

 メルはじっとセルティスを見つめている。

 セルティスは可愛いと言われて嬉しかったが、困惑してしまった。

 ただ、髪をまとめたほうが邪魔にならないと思ってやっただけのこと。

 ちょっと恥ずかしくなって顔を伏せた。

 そして、淡々と割れたコーヒーカップを片づけていた。

「さて、そろそろ行こう」

 アランが声をかける。

 カフェでのんびりしてしまったらしい。

 気がつけば、3時間以上経っていた。

「メル、お世話になったな。ありがとう」

 セルティスが言うと、メルは頷きながら、笑顔を見せた。

「あまり無理しないで、ホークを頼ってね。ホークはセルティスに頼られたいんだから」

「え……?」

 セルティスはメルの言葉に疑問符が頭に浮かんだ。

「あっ、ここにも素直じゃなくて、鈍感な人がいたわ」

 メルは呆れた様子で、両手を広げていた。

「鈍感って……」

 セルティスは更に疑問符を浮かべた。

「まぁ、いいわ。それと私も一緒に行くわ。それと、セルティスはもっと仲間を頼ること! いいわね!?」

 メルは『仲間を頼ること』という言葉をかなり強調して確認させた。

「あぁ……」

 セルティスはそれ以上、何も言わなかった。

 メルに怒られそうだ。

 メルはセルティスに近づいた。

「ねぇ、私ともう1人、一緒に連れってて」

 セルティスは首をかしげる。

「もう1人?」

「そう、無口なんだけど、人間と妖精との間に生まれたハーフ。エースっていうの」

 メルが紹介して手招きした。

 メルに手招きされて姿を現したのは、ショートのサラサラした黒髪と赤の瞳を持つ。

 完全な人間の姿。

 人間でいうと6歳くらいの少年だ。

メルは背中をバシッと叩いた。

「挨拶しなさい」

「エース……」

 エースと名乗った少年はそれ以上、言わなかった。

 メルは呆れた。

「ごめんね、この子、無口なのよ。まぁ、何があったかわからないけれど、記憶がないみたいで。ダンジョンから出た後、エースが困っていたから助けたの」

「……きっと人間が辛い思いさせたんだな。ごめんな」

 アランがエースの頭を撫でて言った。

 エースは抵抗しなかった。ただ、悔しそうな表情をしている。

 アランはエースの肩を掴んで、真剣な眼差しを向けた。

「大丈夫だ。そんな奴らは俺らがぶっ飛ばす。だから、エースももっと強くなろう」

 アランの言葉は凄く心強かった。エースは頷いた。

 アランの言葉はセルティスにも心強かった。

 いつの間にか凄く頼れる男になっていたことにビックリした。

「精神的にも強くなったんだな、アラン」

 セルティスはホッとしたような表情を見せている。

 アランはセルティスに言われて嬉しかったか、胸を張ってドヤ顔をした。

「俺だって成長するんだよ。ってか成長を続けないとダメ人間になるからな」

 セルティスは笑顔を見せた。ただ、その笑顔は、何かを決意させるような笑顔にも見える。

(私も精神的にもっと強くならないと)

 メルとエースも加わってセルティスたちは、空中の城へ向かうことにした。

 メルが道を案内してくれた。

 どのくらい歩いたのか、ひたすら草原を進んでいる。

「草原が永遠に続きそうだな」

 アランが頭の後ろで手を組みながら、呟いた。

景色も草原だけだから、歩いていても飽きてきているらしい。

セルティスは仲間を守ろうとして周囲を警戒して歩いている。

 そんな様子を見ていたホークは、セルティスに声をかけた。

「セルティス、俺らを守ろうとしてくれてありがとう。だけど、気を締めすぎてガチガチになっていると見えるものも見えなくなるぞ」

「え?」

 セルティスはホークに言われて、そんなにガチガチになっているのかと疑問に思った。

「肩、上がってる。肩上がってると、無駄な力が入りがちになるぞ」

 ホークに言われて、セルティスは肩を上下に動かしてほぐしてみる。

 確かにガチガチになっているかもしれない。

「ありがとう、ホーク」

 セルティスはホークにお礼を言う。

 メルはそんな様子を見て、ボソッと呟いた。

「なんかさ、普段はこうやって仲よくしてるのに、いざっていう時は、想いを
伝えらないのね」

 ホークとセルティスの関係に、ちょっぴりイラッとしている。

 アランはメルに同意した。

「本当だよな、こっちがもどかしいんだよな。早く付き合っちゃえばいいのに」

 アランとメルは、セルティスとホークの恋愛について話に花を咲かせながら、草原を歩いている。

 すると草原からゴソゴソと音が聞こえてくる。

 セルティスは警戒しながら、でも、無駄な力を入れずにリラックスして音に集中する。

 ところが、次の瞬間、セルティスは背筋が凍るような感覚を覚えた。

「げっ……」

 セルティスはすぐに遠ざかり、距離を置いた。

「ん?」

 ホークはセルティスの様子が明らかにおかしいと思って足元を見ると、そこにはセルティスの苦手なものがいた。

 セルティスは思わず、ホークの背中に隠れる。

 ホークはセルティスの苦手なものを発見して、大笑いした。

「えっ? どうしたの?」

 メルは不思議そうにホークを見る。

 ホークは指しながら、笑ながら言った。

「セルティス、昆虫が苦手なんだよ」

「えっ……?」

 メルも一瞬、背筋が凍った。

「私も昆虫、苦手……」

 ホークはちょっと安心したような表情をしている。

「セルティスもメルも女の子だな。良かったよ、女の子らしさが見えてさ」

 セルティスは恥ずかしくなったのか、顔が凄く真っ赤だ。

「本当に昆虫は苦手だ……」

なんて言っていたら、巨大な昆虫が何十匹と現れた。

「うわっ、なんだ、こいつら……」

 セルティスは無意識にホークを背後から抱きしめていた。

 アランは冷静に構えながら言った。

「いや、昆虫というか……昆虫の姿をしたモンスターだろ、これ……」

 昆虫型のモンスターがアランに突進しようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル

初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。 義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……! 『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527 の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。 ※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。 ※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。

処理中です...