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1章 セルティスと仲間たち

第37話 脱力して無駄な力を抜け

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 セルティスがライラに問いただす声は、悲しげで震えている。

 ライラはそんなセルティスを見ながら、嘲笑う。

「だって、面白いでしょ? 自分の思い通りになるって」

 セルティスはライラを睨みつけた。

「理由になってない」

 突き放すように言うと、ラグナロクを横にして走りながら、斬っていく。

 ライラは素早くジャンプした。

 ライラは猫型だけあって、身体能力がある。

 高くジャンプして耐空時間も長い。

 セルティスはライラを見た。

(動きが速い。私の目じゃ追えない)

 ライラの動きを観察している。

 ライラは地面を強く蹴って、セルティスに飛びかかった。

「まぁ、ここで死んでもらうことになるよ」

 そう言って、鋭い牙を見せた。

 セルティスはハッとして、素早く後退し、転がった。

 この牙で噛まれたら、ひとたまりもない。

 それに、ライラは毒を持っている。

 ホークのように身体に毒が回る可能性もある。

 セルティスはライラの動きを読もうとしているが、なかなか素早くて判断できずにいた。

 咄嗟に身体が動いて、避けられた攻撃が多い。

「どうする……?」

 セルティスは心を落ち着けて、どうするべきか思考を巡らせた。

 その時だった。

 ライラは爪を立て、稲妻を発生させた。

 ゴロゴロ

 大きな音を立てて稲妻がセルティスを突き刺した。

 セルティスは目を大きく見開いた。

 素早くラグナロクを振る。炎が稲妻とぶつかり合う。

 ドーンッ

 と、先ほどよりも大きな音を立てて、壁を破壊する。


「うぅぅっ……」

 セルティスは倒れてしまう。

 素早くラグナロクが放つ炎で、ライラの稲妻を回避できたかに思われたが、回避できなかった。

「セルティス!!」

 声をかけたのは、眠りから覚めたホークだった。

 ホークはセルティスを抱き上げて、必死で声をかける。

 ライラは息を荒くしながら、立ち上がった。

 身体はヨロヨロしている。

 それでも、立ち上がれるとは。ただ、ライラもふらついているということは、少なからず、セルティスもライラにダメージを与えていた。

 ホークはセルティスの心臓マッサージをした。

「まだ、死ぬな!!」

 メルはゆっくりと息を整えて、セルティスに手をかざす。

 大人の女性に変化したメルは、セルティスの傷を癒した。

 が、メルは再び、小さな妖精へと戻ると、倒れてしまう。

「メル!」

 ミラトがメルのそばへやってきた。

「どうしたの? メル!」

 メルは笑顔を向けた。

「大丈夫。でも、ちょっとやりすぎたみたい。召喚獣に変身するのは、相当体力がいるの。だから、ちょっと休めば大丈夫」

 ミラトがメルを心配していると、ライラはミラトを狙って飛びつこうとしていた。

「邪魔なんだよ! 私はそこの剣士と戦っているんだ!」

 セルティスはすぐにラグナロクを振って、炎の剣となったラグナロクでライラの背中を斬る。

「ミラト!」

 ミラトが振り返った時、既にライラは大きな傷を負っていた。

「チッ……」

 ライラは舌打ちして、セルティスを睨みつけた。

 セルティスはラグナロクをライラに向けた。

「私と戦いたいんだろ? なら、勝負してやる」

 そう言うと、ラグナロクを斜めに振って、ライラを叩き斬る。

 炎がライラを吹き飛ばした。

 セルティスの放った炎は、勢いが強くてゴォォォォォーと音がしたかと思うと、炎の凄まじいパワーで軽く吹き飛んでしまう。

 ライラはすぐにブリッジをしてから、サッと起き上がる。


「ちょっと油断したな」

 ライラはニヤリと笑うと、セルティスに爪を立てる。

 同時に稲妻が走った。

 セルティスは瞬時に横に飛んで転がった。

「速い」

ライラの動きを目で追う。

 動体視力が弱いのか、それとも人間の動体視力よりも速い動きがライラにはできるのか。

 セルティスは唇を噛んだ。

 悔しそうなセルティスを見て、ライラはニヤニヤしている。

「その顔がたまらなくいい。もっと、そういう顔が見たいな」

 爪を立て、セルティスの胸を貫こうとした。

 セルティスは息を吐く。

 どうすれば、相手の動きを読むことができるのか、心を落ち着かせて考える。

(まずは脱力。脱力して相手の力を利用できれば……)

 脱力して動きを感じようとする。

(脱力が全てだ! 無駄な力を入れるな)

 セルティスは脱力をしようと息を吐く。

「セルティス、強くなろうという気持ちと動きが空回りしてるぞ。心と身体を一致させなければ、強くもなれないし、相手に読まれるぞ」

「えっ?」

 どこからかセルティスの知っている声がして、思わず周囲を見回した。

「レナルド?」

 セルティスはその声の主の名を呼んだ。

 レナルドとは同い年で、一緒に剣術や格闘技を学んだ男性である。

「セルティス、いつも、おまえは無駄な力が入りすぎ。脱力して斬る瞬間だけ力を入れる。いつも、無駄に力が入っていると、ケガするぞ」

「無駄な力が入ってる……」

 セルティスは、一度、肩を上げて下げて息を吐いた。これをやるだけでも、無駄な力が入ってる感覚と入っていない感覚がわかるようになってくる。

「よし! それでいい」

 レナルドの声がなぜ、聞こえてきたのか、わからないが、何かを教えてくれようとしていると、セルティスは確信した。

「セルティス、何、ボーッとしてるんだ!」

 ホークの叫び声が聞こえてきた。

「ホーク?」

 セルティスはレナルドの声のしたほうへ、視線を移したが、そこにいたのはホークだった。

 ホークの声に我に帰ったセルティスは、息を長く吐いた。

 そして、脱力する。

 気がつけば、ライラの爪がセルティスの胸を刺す寸前まできていた。

 セルティスは息を長く吐いた後、ラグナロクを振り下ろす。

 炎がライラを焼き尽くした。

「あぁぁぁぁー!!!!」

 ライラは仰向けに倒れる。
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