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冒険者ギルド世界を変える

146 集う仲間たち(物理)

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「ご主人様、終わりました」

 シオンが駆け寄ってくる。
 残像が見える速度でトテトテと小走りをするとは。シオンは器用だな。

「シオン、よくやったな」

「はい…。でも、少し苦戦してしまいました」

 白いモフモフ尻尾がへにょんと垂れつつも、ゆっくりと左右に揺れている。

 褒めてもらいたいけど完璧ではなかったので不安だけどやっぱり褒めてもらいたい…という時の動きだ。

「シオンに落ち度はない。むしろあの獣人たちを褒めるべきだな。強いて言うのならば、最初に絡みつかれた時にすぐ腕を切り落とすべきだったかもしれないが…。勇者の看板のことを考えたのだろう。あれで良い。シオンは役に立つな」

「!は、はい。そんなことまでわかるなんて、ご主人様すごいです」

「もし本当に危険だったら、躊躇なく自分の身を優先しろ、命令だ」

「はいご主人様…えへへ」

 シオンの頭を撫でる。白い耳がピクピクと動き、気持ちよさそうに目を細めるシオン。
 喉がゴロゴロと…鳴ってはいないが、そんなイメージだ。かわいい。
 小柄なシオンの頭はちょうど撫でやすい位置にあるのでついつい撫でてしまう。

「やはり実権を握っているのはギルドマスターのトシゾウ、知恵ある魔物か…」

「ゆ、許せん。羨ましい。だがかわいい。あぁ、俺は一体どうすれば…くそっ、頭がどうにかなりそうだぁ!」

「きゃぁぁあ!シオン様があぁぁ!?」

「シオン様はそんなことしない。シオン様はそんなことしない。シオン様はそんなことしない。シオン様はそんなことしない。あれは幻覚…」

「…コレット様に指で弾かれたい」


「なんだかいろいろな視線を感じますわ…。主に殺意が…」

「知らん。シオンは俺のものだ、何も問題はない」

「そ、それはそうなのですが…」

「コレットも他人ごとではないぞ。レインベル領で踊った時も似たような視線が注がれていた」

「あ、あの時は踊りに集中していて気付かなかったのですわ。後から領のみんなに散々にからかわれて…うぅ、思い出しただけで…。なぜかルシアには叩かれるし…」

 真っ赤になった顔を両手で隠して体をよじるコレット。エロかわいい。
 そんな仕草をしているから余計からかわれるのだと気付かないあたりがさらに素晴らしい。

「いたっ、シオン!?どうして私を叩くんですの?ちょっ、いたい、いたいですわっ!?」

「助かりました。でもやっぱりコレットはずるいです」

 身をよじるコレットの頭をポカリポカリと叩くシオン。

 シオンのコレットいじめはホクホク顔のベルがやってくるまで続いたのであった。


「いやぁ、思わぬ臨時収入やな。ギルドメンバーにお小遣いを出したろか。しーちゃん、コレットはん、今度女の子同士でお茶会せぇへんか。女子会やで!」

「女子会、ですか?なんだかすごく楽しそうです!」

「それは良いですわね。私は仕事柄年の近い知り合いが少ないのですわ。ぜひ参加させてください」

 ベルの提案にもろ手を挙げて賛成するシオンとコレット。

「うんうん、二人のABCについてちょぉっと詳しく教えてもらわなあかんしなぁ」

「ABCって何ですか?」

「シ、シオンはまだ知らなくても良いですわ!」

 きゃあきゃあと賑やかだ。
 女が三人そろえば姦しいとはよく言ったものである。一人だけ女の皮をかぶったオッサンが混じっている気がしなくもないが。

 うむ、所有物たちの仲が良いのは良いことだ。

 それにしても、ギルドの予算は班ごとに管理していたはずなのだが。
 いつの間にやらベルが財布を掌握したらしい。そう言えば会議でそんな議題もあったような気がするが…。
 気付けば親方をやっているドワイトしかり、胃袋を掌握しているエルダしかり、戦闘班を完璧に統率して見せるコウエンしかり…。
 優秀な人間に権力が集まるのは自然な流れなのかもしれない。


「さて、ではそろそろ戦後処理といこうか」

 俺は倒れている灰狼種たちにレインオブエリクシールを放り投げる。
 青の七色が空中で弾け、昏倒していた獣人たちが目を覚ます。

 話の成り行き上、獣人の勝利条件はかなり多かった。
 今回の獣人は、言うならば仮想のテロリストだ。
 どんな手段を使ってもシオンを無力化できれば勝ちというルールである。

 だが仮にテロリストのように無差別に人族を害する者がいたとして、【蒐集ノ神】や【迷宮主の紫水晶】を持つ俺たちはその犯人を簡単に特定し、復讐することができる。
 また【無限工房ノ主】によって解析あるいは自作した魔道具をギルドにも配備しつつある。
 俺がいれば首が千切れた程度では蘇生ができるし、たとえ俺の隙を突いて殺して回ったとしても、数に劣るテロリストが滅びるほうが先である。

 以上、俺たちは冒険者ギルドを相手に力で要求を通すことの無謀さを淡々と説明してやった。

「我々はシオン様とトシゾウ閣下に従います」

 平伏する灰狼種たち。物わかりが良いようで何よりである。
 いつの間にか俺は閣下と呼ばれていた。やはり閣下呼びは獣人特有の敬称なのだろうか。

 【超感覚】を持つシオンも満足げに頷いている。本心からの言葉であるようだ。
 俺の所有物となるのならば、裸に剥くのは勘弁してやろう。
 おそらくコウエンに相当にしごかれることにはなるだろうが…それは灰狼たちの努力次第だ。

 今は頼りになる冒険者ギルドの初期メンバーとて、最初は奴隷や半信半疑の拾い屋が大半だった。
 もちろん忠誠心など皆無で、最初は餌付けから始めたのだ。
 灰狼たちも俺の目的のための素晴らしい所有物となってくれるだろう。
 俺は俺の所有物を大切にする。
 宝にはいつも良い輝きを放ってほしいものだ。

 後日。
 多くの観客を呼び込んだ甲斐もあり、この一件は他種族の間でも噂になったらしい。

 期せずしてコレットがラ・メイズでの名声を高めることになった。
 人族の勇者と獣人の勇者が親友だということも、俺の目的にとって良い影響を与えている。
 力に訴えるようなトラブル、特に種族の違いからの諍いが目に見えて減少したとコウエンからも報告があった。

 灰狼種のように集団で冒険者ギルドに加入した獣人たちは、荒野で鍛えてきた有能な者が多かった。
 彼らは冒険者となるだけでなく、ギルドメンバーの一員としてコウエンの指揮の元で特殊区画の開放や、やっかいな案件へ対処してもらうことになるだろう。
 少々思い込みが激しく思想に難がある奴らだが、コウエンに一任しておけば間違いはない。

 運動不足の解消というわけではないが、俺たちはその後も同様のトラブル解決に奔走した。

 翌日、なんやかんやとありつつもついに冒険者ギルドの営業が始まった。
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