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冒険者ギルド世界を変える

143 ただの雑魚ではないらしい

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「さぁさぁ、すごいカードやで!現役の勇者と獣人たちの戦いや。見な損やで!」

「はーい、窓口はこちらとなりまーす。見物料10コルですー。握りは一口10コルからどうぞー!シオン様の倍率は1.1倍、決着がつくまでの時間での賭けもありますよー!大穴の獣人の勝利は今算出中ですー!」

 ガヤガヤガヤガヤ…

 互いの主張を通すための決闘が始まる。
 などと真面目なことを言うのも馬鹿らしくなるくらい、周囲はお祭りムードであった。

 勇者と獣人の立ち合いは金をとっても良いレベルだ。
 金の匂いに敏感なベルがそれに気付かないわけもなく。
 どこからか現れた商業班とともに動き回り、すでに見世物の賭け試合の様相を呈している。

 ラ・メイズで獣人が暴れるというのは、人族が支配していた時代であれば一線級の非常事態だ。
 それがちょっとした騒動程度のレベルで済むのは、ひとえに勇者とそれを擁するギルドへの信頼によるものだろう。

 俺はベルに頼まれ、決闘までに一時間ほどの準備時間を設けた。
 ギルドの資金も稼げるし、大衆にシオンの力も示せるため一石二鳥であるからだ。

 場所は獣人たちが暴れていた場所のままだ。
 冒険者区画の大通りは馬車が3台ほどすれ違うことのできる幅がある。
 それでも複数人が戦うには少々手狭だが、狭さは一人で戦うシオンにとって不利になるだけなので、それに不満を言う者はいない。
 ある意味土地の無断利用だが、そこは権力を味方につけているので何の問題もないのである。

 獣人たちは最初こそ自分たちが見世物にされていることに気付き顔を赤黒くして怒っていたが、現在はやけに大人しい。

「…彼らは思ったより利口なようですわね。油断できませんわ」

「うむ、コレットは良く見ているな。獣人たちは今更ながらにシオンの力に気付いたようだ。おそらく何か策を練ってくるだろう」

「やはり。すぐにシオンに知らせてこなければいけませんわ」

「その必要はない」

 俺は駆けだそうとしたコレットを止める。

「どうして止めるのですか?もしシオンが油断するようなことがあれば…、ああ、そんなことはありませんわね」

 口に出して冷静になるコレット。まぁ友人想いなのは良いことだ。

「うむ。それに万が一シオンが負けそうになった場合は、誰も気づかないように状況をひっくり返す。何も問題はない」

「相変わらず身も蓋もないですわね。でも安心して見ていられそうですわ…もしかして私がゼベルと戦っていた時も同じことを考えていらっしゃったのですか?」

 コレットがジトリと胡乱気な視線を投げてくる。

「…まぁな。だがお前は勝った。最良の結果を手繰り寄せたのだ。シオンに同じことは無理だと思うか?」

「いえ、思いませんわ。戦闘なら私よりもあの子の方がよほど優れていますもの。ゼベルの件も、そもそも私が手ずからの復讐を望んだのです。その望みは叶いましたし、今さら蒸し返すことでもありませんでしたわね」

「コレットは物わかりが良いな」

「…一言余計ですわ」

 コレットは俺に恨みがましい視線を投げつけた後、一人静かに待機しているシオンへ優しい目を向けた。差別である。


 …それはさておき、一時間という間隔は、怒っていた獣人たちを冷静にさせたようだ。

 俺とコレットは、先ほどから獣人たちの耳がピクピクと動いていることに気付いていた。
 俺は目の前の獣人たちの評価を上方修正する。

 灰狼種をはじめ、獣人の基礎能力や聴覚は人族を超える。
 獣人が周囲の声に耳を傾ければ、シオンが白竜を倒すほどの実力者であること、その戦い方などのヒントを観客から得ることができるだろう。

 普通に考えれば獣人たちがシオンに勝つ可能性は低い。
 それは獣人たちも気付いたはずだ。

 だが獣人たちの戦意は衰えていない。
 今回の決闘は、獣人たちにとって千載一遇のチャンスであると言える。
 獣人たちが冒険者ギルドの力を手に入れれば、人族の力を大幅に削ぐことも可能だ。

 さて、どのような手段で攻めてくるのか楽しみだな。

 目的を達成するための工夫は、俺にとって質の高い娯楽である。
 かつて迷宮での戦いで冒険者たちの思わぬ攻撃に惑わされたことを思い出し、自然と口角が上がる。

 シオンに油断はなく、力もシオンの方が上だ。
 だが搦め手を使われた経験はほとんどないだろう。
 灰狼種の獣人たちは、シオンにとって良質の研磨剤になってくれそうだ。
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