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冒険者ギルド世界を変える

134 至高の霊薬はアフィリエイトの商材と化す

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「そうでなくてはな。説明は以上だ」

 一通りの説明が終了した。
 最高の報酬【邪神の天秤】使用権についての説明が終わり、トシゾウは参加者に解散を促した。

「あ、トシゾウはん、紹介依頼も言うとかんと。皆さん、ちょいとストップや」

「ああ、そうだったな。ベル、説明を頼む」

「ガッテンや」

 解散しかけた参加者をベルベットが止める。

「説明会に参加した皆さんに冒険者ギルドからお願いがあるんや。ある意味ギルドからの最初の依頼やな。冒険者ギルドのオープンまでに今日聞いた話を広めてほしいんや。初日に登録しに来た冒険者100人につきエリクサーを1本プレゼントするで。ここにいる皆さんの名前を出したら1カウントや。名前を出した冒険者にもギルド謹製の中級ポーションをプレゼントや。ついでにギルド貢献ポイントも弾むで」

「え、エリクサーだと!たった100人紹介するだけでか!?」

「正気か!?これはうかうかしていられない。急いで声をかけて回らねば」

 本日何度目になるかもわからない驚きに包まれる冒険者たち。
 外から見れば腹を空かせた魚が口をパクパクしているようにも見える。
 開いた口が塞がらないとは良く言ったものだなとトシゾウは思った。

 それに100人の紹介を“たった”というあたり、冒険者の横のつながりは思った以上に広いようだ。

「せやな…。勘の良い人はもう気付いとるやろうけど、あえてウチから皆さんにアドバイスするとすれば…手持ちの素材やポーション類は全てコルに替えといた方がええで。情報が大事なんは商人も冒険者も同じやな」

 豊かな赤髪を揺らし、茶目っ気たっぷりにウインクするベルベット。
 ベルベットの仕草にあてられた何人かの男たちが顔を赤くする。
 悔しいが絵になっているとカルストは思った。受付嬢でもやらせれば人気が出るだろう。

 もっとも、ベルベットの本領は別にあることをカルストは知っている。
 これも参加者への土産ということか。

 すぐに動けば、商人の真似事をするだけで大きな富が手に入るだろう。
 新たな装備を新調しても余りある利益になるのは間違いない。

 相場が崩れるのは間違いないだろう。
 ある意味では、冒険者ギルドにかかれば相場を書き換えることすら容易いと、ベルベットはそう言っているのだ。
 慎重かつ疑り深いことを自他ともに認めるカルストでさえ、降って湧いた話に心が昂っていくのを感じていた。

 何も知らずに話だけ聞けば、どれだけ安い詐欺なのかと笑うことだろう。
 力のない者がどれだけ理想を唱えても、そこに悪気がなくとも、それに追従して得られるものはなく、結果だけ見れば詐欺に遭ったのと変わらない結果が待っている。

 だがその逆、圧倒的な力を持つ者が理想を唱えたのなら。
 それは詐欺や偽善といった言葉をすべてひっくり返し、後に続く者に莫大な益をもたらすだろう。
 冒険者ギルド、引いてはトシゾウの力を疑う者はすでにこの場にいなくなっていた。

 とりあえず金策だ。
 そしてギルドに登録し、力を蓄え、いずれは俺の火魔法で祖白竜を…。かつての英雄たちの末席に名を連ねてやる。

「セリカ、やるぞ」

「ししょーが燃えているですぅ。明日は矢の雨が降るですぅ…痛いですぅ!」

 カルストも冒険者の一人なのだ。
 平素は冷静なカルストだが、現状の冒険者の扱いに不満を抱き、胸の内で燻るものがあったのも事実だ。

 カルストほどの冒険者になればともかく、新人冒険者の中には日々の糧を得ることで精いっぱいな者も多い。
 そんな冒険者はやがて身の丈に合わぬ獲物を狙い冒険者を続けられなくなる。
 冒険者のことを分からぬ者には無謀者と笑われて終わるが、それがやむを得ない事情によるものだとカルストは知っている。
 冒険者ギルドが機能すれば、無謀に走る新人も減り、冒険者稼業は大いに勢いづくだろう。

 カルストはこれからの冒険者の在り方、そしてその最前線を進む自分を夢想し期待を馳せる。

 やる気に燃えるカルストと、マイペースなセリカ。
 デコボコなようで意外にバランスの取れた冒険者パーティは、これからも迷宮に潜り続ける。

 やがて二人は伝説の英雄に…なれるかもしれないし、なれないかもしれない。
 いずれにせよ、冒険者ギルドはその二人の冒険に欠かせない存在になっていくのだった。

「セリカとカルストか。面白そうな冒険者だったな」

「ご主人様から名前を覚えられた人はそれだけですごい人です」

「そうか?俺は普通の人間なら名前を憶えているのだが…。シオンが言うならそうなのかもしれないな」

「はい!」

 シオンの良くわからない発言に首を傾げるトシゾウ。
 なぜか尻尾を振りながら返事するシオン。

「セリカさんはとても面白いし、強い人でした。お友達になりました」

「そうか、友人か。切磋琢磨し、互いに価値を高める存在だな。素晴らしいことだ。また相手をしてやると良い」

「はい。ご主人様に助けられた時は、友達を作るどころか、もう会うこともできないと覚悟していました。でもそれは間違いでした。私は幸せ者です」

 耳をパタパタ尻尾をフリフリ、屈託なく笑うシオン。なつき度はすでに振り切れている。
 いつもはかわいいシオンの仕草が今回はなぜか眩しく見え、思わず目を細めるトシゾウ。

「トシゾウはん、おっちゃんが子どもの夢を応援するような顔になっとるで…」

 なんやかんやとありつつも、説明会は無事終了したのだった。
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