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遠征軍と未踏の特殊区画と人の悪意
114 水上の宴
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「「「コレット様万歳!レインベルに豊穣を!」」」
湖の中央に大歓声が広がる。
領民のほとんどが集まっているのではないかというくらい、人や物が溢れていた。
俺達がいるのは島の上だが、島を囲うように数えきれないほどの船が浮かんでいる。
領民たちは新たな英雄たちの凱旋を一目見ようと詰めかけたのだ。
迷宮は人族にとって身近な存在であり、同時に計り知れないものだ。
多くの人々を殺してきた恐ろしい存在であり、同時に生きる糧と生存可能な領域を提供してくれる、まさに大自然のような存在である。
各特殊区画にはそれぞれに特徴のある信仰や祭りが存在するという。
自然信仰ならぬ迷宮信仰とでも言おうか。
領主自らがボスの討伐に成功したレインベル領でも、領地の伝統に従い祝宴が催されることとなった。
一足先に離脱した遠征軍がボスの討伐を知らせ、祝宴の準備を進めていたのだ。
湖の中央ではテンペスト・サーペントの竜玉がひと際大きな柱に飾られている。
強力な魔物特有の巨大な竜玉は、それを持ち帰った遠征軍の偉業を証明するように異様な存在感を放っている。
当然この宴の主役は竜玉の周囲に集った遠征軍だ。
遠征軍の中央から進み出たコレットがこれまでの経緯を説明し、祭りの開始を宣言した。
住民はボスが復活していたことを知り驚いたようだが、それが犠牲を出さずに討伐されたことを知って完全に度肝を抜かれたようだ。
特殊区画のボスを倒せる領主。それは住民にとってとてつもなく大きな意味を持つ。
開闢の英雄の再来、そしてその庇護が今後数十年にわたって保障されているということだ。
ボスの復活を知った騒めきは、そのまま遠征軍とコレットを称える称賛の嵐に変わった。
話がややこしくなるため、コレットは勇者の討伐やシビルフィズ領での顛末については話していない。
被害者には個別に情報を開示し、十分な補償を行うそうだ。
死して仮初の操り人形と化したゼベルやその元部下の供述をもとに、被害者リストの作成を進めている。
情報の制限はしていないため、遠征軍やゼベルに殺された遺族などを通して徐々にゼベルの悪行が拡散していくことになるだろう。
シビルフィズ領と勇者から奪った財があるため、財政的にもレインベルの将来は明るい。
冒険者ギルドとの協力や他種族との連携が進めば、さらに状況が良くなっていくはずだ。
「祭りだ!勝利の美酒だ!たらふく飲んでやるわい」
「やれやれ。勝利の美酒というのは本来、余韻を味わいながら静かに楽しむものだぞドワグルよ」
「エルフはむっつりだな。こういうことは盛大にやるものだぞ」
「な、ゴルオン、だれがむっつりだ!」
「お前のことだ。それよりも肉をくれ。テンペスト・サーペントの肉があるはずだ。楽しみでならん。一生に一度しか食べられぬだろうしな」
「ああ、あれは今料理中らしいわい。なんでもすごいごちそうになるから胃袋を開けておくと良いらしいぞ。…おっといかん、そう言えば調理用の土窯の作成を依頼されとるんだったわい」
「ほう、それは楽しみだ。では催しを楽しむとしようか。たしか魚のつかみ取り競争をやるらしいな」
遠征軍は解散し、祭りに混じっていく。
酒を奢ってでも武勇伝を聞きたいものは多い。新たな英雄たちにとっても楽しい宴となるだろう。
「よし、では俺たちも祭りを楽しむことにしようか。珍しいものが満載の船を巡るのは楽しそうだ」
俺はシオンに声をかける。
コレットは祭りの主役であり、多くの関係者にあいさつ回りをする必要があるため別行動だ。
レインベル領と冒険者ギルドの協力体制を整えるために冒険者ギルドの幹部連中も転移で連れてきているが、彼らにはそれぞれの仕事をしたり、祭りを楽しむように命じている。
班ごとの役割は明確であるため、下手に俺が連れまわすよりも効率が良いのだ。
そのため、今はシオンと純粋に祭りを楽しむつもりでいた。
祝宴と祭りを兼ねているからだろうか、水上マーケットで見た品揃えとはまた違った商品を並べている船が多い。
日本で例えるなら、鯛や赤飯とたこ焼きや唐揚げを同時に売っているようなものか。
レインベルらしいな。独自の文化はおもしろく、興味深い。
「ご、ご主人様、船の上は危険です。それより島の上に出ている屋台を見に行きましょう」
「…いいだろう。あちらも珍しいものがたくさんあるようだ」
シオンはあいかわらず水の上が苦手らしい。
その気になれば水面を走ることすらできそうなのだが。
【常雨の湿地】で果敢に戦っていたシオンはどこへ行ったのか。
「ありがとうございます!ご主人様と二人で歩くのは久しぶりです。えへへ…」
服の裾をキュッと握ってくるシオン。
シオンのふさふさ尻尾が垂れたり立ったりフリフリしたりしている。ギャップが激しいな。かわいい。
俺の今の服装は一般的な人族のものだ。アカゾナエは強力な装備だが目立ちすぎる。
人目を気にすることはないが、必要以上に相手に畏まられると手間が増えるからな。
シオンと二人で屋台を巡る。
「その魚をよこせ」
「らっしゃい!水神祭名物のスピリカフィッシュだよ。かわいいお嬢さんの分は半額で良いよ。二匹で15コルだ」
「うむ、もらおう」
「まいど!」
「はぐはぐはぐ」
「その肉をよこせ」
「おう。水神祭名物のマッドヒッポのタレ焼きだ。二枚で200コルだ。嬢ちゃんは育ち盛りだろうから大盛にしてやるぜ」
「高いな」
「しゃーねぇよ兄ちゃん。なんたってこの領の特殊区画、15層の魔物の肉だ。だが縁起ものだし、味は絶品だぜ」
「そうか、それならもらおう」
「まいどぉ!」
「おじちゃんありがとう。はぐはぐはぐはぐ」
「おう。良い食いっぷりだな!」
やたらと名物が多いような気がするが、味は悪くないので問題ない。
マッドヒッポはよく脂がのっていて美味いな。15層の魔物の肉を屋台で売っているというのは、前世の常識から考えればどこかちぐはぐだが。露店で神戸ビーフだか松坂牛を売っているようなものだと考えれば…、まぁないでもないか。
「はぐはぐはぐはぐ」
ラ・メイズの料理と比べて、レインベルの料理は豪快だ。種類も量も多い。
「はぐはぐ」
実に食べ応えがある。人族に擬態していると食というものの価値が上がる。時間ができれば食道楽に走るのもおもしろいかもしれないな。
「はぐはぐはぐはぐ」
「…すごい食欲だな、シオン」
「はい、お肉やお魚がたくさんでとても美味しいです。いくらでも食べられます」
レインベルの食事はシオンに合うようだ。狼の獣人らしく、肉や魚が好きらしい。
全ての屋台の品を制覇する勢いのシオン。さすがの食欲だ。
育ち盛りなのだろうか。そういえばシオンの背が少しだけ伸びている気もする。
コレットほどではないが、シオンも買い物をするときに値引きしてもらえることが多いようだ。シオンの価値は人間共通か。素晴らしいことである。
「食べかすがついているぞ」
「すいません。あ、ありがとうございます」
シオンの口元をぬぐう。顔を赤くするシオンがかわいい。
ふいてもふいても食べかすを付けるシオン。チラチラとこちらを見ている。
「…うむ、シオンはかわいいな」
「えへへ」
何度目かわからないがシオンの口元をぬぐってやる。
構われてご機嫌のシオン。今回もシオンは役に立った。これくらいは良いだろう。
ワッ!
そのとき、島の一角から大きな歓声や声援が聞こえてきた。
「店主、向こうで何をやっている」
「ああ、あれは水神祭名物の魚獲り競争だ。とにかく時間内にでかい魚を多く獲った方が勝ちっていう催しだ」
「ほう。せっかくだ、見に行ってみるか」
「はいご主人様」
迷宮から出て以来、観光は俺の楽しみの一つだ。
俺はシオンを連れて魚獲り競争を見物しに行くことにした。
湖の中央に大歓声が広がる。
領民のほとんどが集まっているのではないかというくらい、人や物が溢れていた。
俺達がいるのは島の上だが、島を囲うように数えきれないほどの船が浮かんでいる。
領民たちは新たな英雄たちの凱旋を一目見ようと詰めかけたのだ。
迷宮は人族にとって身近な存在であり、同時に計り知れないものだ。
多くの人々を殺してきた恐ろしい存在であり、同時に生きる糧と生存可能な領域を提供してくれる、まさに大自然のような存在である。
各特殊区画にはそれぞれに特徴のある信仰や祭りが存在するという。
自然信仰ならぬ迷宮信仰とでも言おうか。
領主自らがボスの討伐に成功したレインベル領でも、領地の伝統に従い祝宴が催されることとなった。
一足先に離脱した遠征軍がボスの討伐を知らせ、祝宴の準備を進めていたのだ。
湖の中央ではテンペスト・サーペントの竜玉がひと際大きな柱に飾られている。
強力な魔物特有の巨大な竜玉は、それを持ち帰った遠征軍の偉業を証明するように異様な存在感を放っている。
当然この宴の主役は竜玉の周囲に集った遠征軍だ。
遠征軍の中央から進み出たコレットがこれまでの経緯を説明し、祭りの開始を宣言した。
住民はボスが復活していたことを知り驚いたようだが、それが犠牲を出さずに討伐されたことを知って完全に度肝を抜かれたようだ。
特殊区画のボスを倒せる領主。それは住民にとってとてつもなく大きな意味を持つ。
開闢の英雄の再来、そしてその庇護が今後数十年にわたって保障されているということだ。
ボスの復活を知った騒めきは、そのまま遠征軍とコレットを称える称賛の嵐に変わった。
話がややこしくなるため、コレットは勇者の討伐やシビルフィズ領での顛末については話していない。
被害者には個別に情報を開示し、十分な補償を行うそうだ。
死して仮初の操り人形と化したゼベルやその元部下の供述をもとに、被害者リストの作成を進めている。
情報の制限はしていないため、遠征軍やゼベルに殺された遺族などを通して徐々にゼベルの悪行が拡散していくことになるだろう。
シビルフィズ領と勇者から奪った財があるため、財政的にもレインベルの将来は明るい。
冒険者ギルドとの協力や他種族との連携が進めば、さらに状況が良くなっていくはずだ。
「祭りだ!勝利の美酒だ!たらふく飲んでやるわい」
「やれやれ。勝利の美酒というのは本来、余韻を味わいながら静かに楽しむものだぞドワグルよ」
「エルフはむっつりだな。こういうことは盛大にやるものだぞ」
「な、ゴルオン、だれがむっつりだ!」
「お前のことだ。それよりも肉をくれ。テンペスト・サーペントの肉があるはずだ。楽しみでならん。一生に一度しか食べられぬだろうしな」
「ああ、あれは今料理中らしいわい。なんでもすごいごちそうになるから胃袋を開けておくと良いらしいぞ。…おっといかん、そう言えば調理用の土窯の作成を依頼されとるんだったわい」
「ほう、それは楽しみだ。では催しを楽しむとしようか。たしか魚のつかみ取り競争をやるらしいな」
遠征軍は解散し、祭りに混じっていく。
酒を奢ってでも武勇伝を聞きたいものは多い。新たな英雄たちにとっても楽しい宴となるだろう。
「よし、では俺たちも祭りを楽しむことにしようか。珍しいものが満載の船を巡るのは楽しそうだ」
俺はシオンに声をかける。
コレットは祭りの主役であり、多くの関係者にあいさつ回りをする必要があるため別行動だ。
レインベル領と冒険者ギルドの協力体制を整えるために冒険者ギルドの幹部連中も転移で連れてきているが、彼らにはそれぞれの仕事をしたり、祭りを楽しむように命じている。
班ごとの役割は明確であるため、下手に俺が連れまわすよりも効率が良いのだ。
そのため、今はシオンと純粋に祭りを楽しむつもりでいた。
祝宴と祭りを兼ねているからだろうか、水上マーケットで見た品揃えとはまた違った商品を並べている船が多い。
日本で例えるなら、鯛や赤飯とたこ焼きや唐揚げを同時に売っているようなものか。
レインベルらしいな。独自の文化はおもしろく、興味深い。
「ご、ご主人様、船の上は危険です。それより島の上に出ている屋台を見に行きましょう」
「…いいだろう。あちらも珍しいものがたくさんあるようだ」
シオンはあいかわらず水の上が苦手らしい。
その気になれば水面を走ることすらできそうなのだが。
【常雨の湿地】で果敢に戦っていたシオンはどこへ行ったのか。
「ありがとうございます!ご主人様と二人で歩くのは久しぶりです。えへへ…」
服の裾をキュッと握ってくるシオン。
シオンのふさふさ尻尾が垂れたり立ったりフリフリしたりしている。ギャップが激しいな。かわいい。
俺の今の服装は一般的な人族のものだ。アカゾナエは強力な装備だが目立ちすぎる。
人目を気にすることはないが、必要以上に相手に畏まられると手間が増えるからな。
シオンと二人で屋台を巡る。
「その魚をよこせ」
「らっしゃい!水神祭名物のスピリカフィッシュだよ。かわいいお嬢さんの分は半額で良いよ。二匹で15コルだ」
「うむ、もらおう」
「まいど!」
「はぐはぐはぐ」
「その肉をよこせ」
「おう。水神祭名物のマッドヒッポのタレ焼きだ。二枚で200コルだ。嬢ちゃんは育ち盛りだろうから大盛にしてやるぜ」
「高いな」
「しゃーねぇよ兄ちゃん。なんたってこの領の特殊区画、15層の魔物の肉だ。だが縁起ものだし、味は絶品だぜ」
「そうか、それならもらおう」
「まいどぉ!」
「おじちゃんありがとう。はぐはぐはぐはぐ」
「おう。良い食いっぷりだな!」
やたらと名物が多いような気がするが、味は悪くないので問題ない。
マッドヒッポはよく脂がのっていて美味いな。15層の魔物の肉を屋台で売っているというのは、前世の常識から考えればどこかちぐはぐだが。露店で神戸ビーフだか松坂牛を売っているようなものだと考えれば…、まぁないでもないか。
「はぐはぐはぐはぐ」
ラ・メイズの料理と比べて、レインベルの料理は豪快だ。種類も量も多い。
「はぐはぐ」
実に食べ応えがある。人族に擬態していると食というものの価値が上がる。時間ができれば食道楽に走るのもおもしろいかもしれないな。
「はぐはぐはぐはぐ」
「…すごい食欲だな、シオン」
「はい、お肉やお魚がたくさんでとても美味しいです。いくらでも食べられます」
レインベルの食事はシオンに合うようだ。狼の獣人らしく、肉や魚が好きらしい。
全ての屋台の品を制覇する勢いのシオン。さすがの食欲だ。
育ち盛りなのだろうか。そういえばシオンの背が少しだけ伸びている気もする。
コレットほどではないが、シオンも買い物をするときに値引きしてもらえることが多いようだ。シオンの価値は人間共通か。素晴らしいことである。
「食べかすがついているぞ」
「すいません。あ、ありがとうございます」
シオンの口元をぬぐう。顔を赤くするシオンがかわいい。
ふいてもふいても食べかすを付けるシオン。チラチラとこちらを見ている。
「…うむ、シオンはかわいいな」
「えへへ」
何度目かわからないがシオンの口元をぬぐってやる。
構われてご機嫌のシオン。今回もシオンは役に立った。これくらいは良いだろう。
ワッ!
そのとき、島の一角から大きな歓声や声援が聞こえてきた。
「店主、向こうで何をやっている」
「ああ、あれは水神祭名物の魚獲り競争だ。とにかく時間内にでかい魚を多く獲った方が勝ちっていう催しだ」
「ほう。せっかくだ、見に行ってみるか」
「はいご主人様」
迷宮から出て以来、観光は俺の楽しみの一つだ。
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