上 下
109 / 172
遠征軍と未踏の特殊区画と人の悪意

107 邪神の天秤 搾りカス勇者はプルプル震える

しおりを挟む
【邪神の天秤】

 俺が取り出したのは、光をほとんど反射しないひたすらに黒い天秤だ。

 天秤は公平さの象徴でもあるはずだが、【邪神の天秤】に備わった二つの皿の大きさは不揃いだ。その禍々しさと相まって、まるでこの世の理不尽を体現したかのような禍々しいフォルムをしている。実に良いセンスだ。

 スタンピードで邪神の欠片を討伐した際に手に入れたドロップに迷宮主が手を加え、俺への報酬としたものだ。その効果は…。

「ちからが、ぬけ…」

「あ、あぁあ…」

 勇者パーティから黒色の煙が立ち昇り、【邪神の天秤】へと吸い込まれていく。
 立ち昇る煙の正体は瘴気。迷宮の力により経験値として奴らに蓄積されていたものだ。

 邪神の天秤の能力は、対象に蓄積された力を瘴気に再変換し吸い取ることができるというもの。
 使用者より格上には使えないなどの制限はいくつかあるが、それを差し引いても強力な魔道具だ。
 この対象は人間に限らず、魔物のドロップ品にも適用される。

 仮に魔物のドロップに使用したなら、そのドロップを生成するのに必要な瘴気を【邪神の天秤】の中へ蓄えることができる。

「終わったか」

 勇者パーティから立ち昇る煙が消えたことを確認し【蒐集ノ神】を発動させる。

 ホスロー・アゼンティウム
 年 齢:27
 種 族:人
 身 分:人族の勇者
 レベル:1

 勇者パーティの装備をはぎ取り、レベル、スキルは瘴気に変換し【邪神の天秤】へ蓄積した。
 俺は勇者パーティからレベルまで奪ったのだ。

 全裸でピクピクしている細目、ほか勇者パーティ。
 釣り上げられた魚のようだな。

 お、熟女はなかなかのスタイルをしているな。
 人族の本能が刺激されるかは微妙なところだが。

「コレット、こっちに来い」

「はいトシゾウ様」

 コレットが痙攣する勇者パーティを横目にこちらにやってくる。

「コレット、今からお前のレベルを上げる。だがこれは本来のお前の力ではない。力に呑まれるな。あくまでも自衛のためのものだと思え。…あとは、復讐もお前の望みだったな。そのために力を振るうことは許可しよう」

「はい、感謝いたしますわ。最後はぜひ、私にやらせてくださいまし」

 コレットが青い瞳を細める。
 瞳の中で炎が燃えている。熱く、どこかほの暗い。それは復讐の炎だ。

 勇者から奪ったレベルをコレットに与える話はあらかじめしている。

 俺は【邪神の天秤】に蓄積された瘴気を経験値として変換し、コレットに注ぎ込んだ。

「んっ…か、身体が、熱い…。それになんだか、変な気持ち…です、わ」

 急激にレベルが上昇していく違和感に身悶えするコレット。
 潤んだ青い瞳、赤らんだ頬に、一筋の汗が流れる。耳元に吐息が…。エロい。
 いかん、今は実験中だ。人族の本能を必死に押さえつける。

 本人の培った経験を超えてレベルを上げることを養殖と言う。

 本人の器量を超えて与えられた力では、迷宮で本当の危機に瀕した時にそれを乗り越えられない。
 本来は褒められたことではないのだが、コレットは今後迷宮に挑む冒険者になるわけではない。

 人間の世界においては、飛びぬけたレベルがあればそれだけで他者を圧倒できる。
 もちろん同レベルの相手には負けてしまうし、力に溺れてしまう者もいるが、その点はコレットなら信頼に足りる。

「う、ふっ、はぁ、はぁ…」

 勇者パーティ全員の経験値を注ぎ込まれ、呼吸を乱れさせるコレット。
 美しい金髪が肌に張り付き、呼吸をするたびに形の良い胸が上下に…いかん、今は実験中だ。実験中なのだ。人族の本能を必死に押さえつける。

「ご主人様からオスの匂いがします…」

 シオンの目が若干冷たい気がする。いや、気のせいだ。気のせいに違いない。
 深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻す。

「…シオン、コレット、コウエン。出入り口を封鎖する敵兵を全て無力化し、ここへ連れてこい」

「はい!」

「わかりましたわ」

「御意」

 ゼベル・シビルフィズの抱える兵士たちは、その異様な光景に目を奪われ撤退する機会を逸していた。
 かくして、ゼベルお抱えの兵士と勇者は完全に無力化されることになる。

「お、お前ら覚えていろよ!殺してやる!絶対に殺してやるからなぁ!」

「勇者にこんなことをして許されるとでも思ってるのか!?お前ら人族全てを敵に回すつもりかぁ!」

 芋虫のように迷宮の床を這いつつ、俺たちを罵る勇者パーティ。余裕あるなこいつら。

「コレット、こいつらまだ勇者のつもりでいるらしいぞ」

「痺れても良く回る口ですわね。私たちから全てを奪おうとしたのです。逆に全てを奪われても文句を言う権利はありません。それにあなた方はもう勇者ではないのです」

「ど、どういう意味だ!」

「言葉通りの意味ですわ。あなた方の罪は明白、もはや言い逃れはできませんわ」

「ふん、そんな話が通るはずがない!お前たちがどれだけ騒ぎ立てたところで無意味さ。僕たちのバックには多くの権力者がいるんだ。むしろ僕たちを殺せばお前たちの立場が悪くなるだけだ」

「あら、それをどうやって証明するつもりですか?勇者パーティは特殊区画で遠征軍を助けた代償に全滅。良いシナリオですわね」

「そ、それは…」

「ご安心ください。あなた方の名誉を守るなんて、そんな真似はしませんわ。王族はすでにこの件を把握済みです。私たちの報告がもみ消されることはありません。あとはあなた方の飼い主のゼベル卿のみですわね。今からお話をしに行く予定です」

 冷笑するコレット。その瞳には一片の慈悲もない。当たり前か。
 俺もここまで勇者が腐敗しているとは考えていなかった。全面的にコレットに同意である。

 こいつらには全てを失ってもらう。力も、名誉も、財産もだ。そしておそらくは命も。

「迷宮で理不尽はつきものだ。もし生き延びることができたなら、また俺に挑んで来ると良い。あぁ、お前たちが領地に蓄えている財産は全てもらい受ける。安心してくれ」

「あなた方が不正に蓄えた財産は、理不尽に虐げられた者や遺族に分配します。これで勇者はただの人となりました。そんなあなた方を助けに来る者がいるのなら、必死に魔物から逃げ回ればあるいは助かるかもしれませんわね」

 富、名誉、力を失えば、後に残るのは奴らが築いた関係性くらいだ。
 さて、迷宮15層まで危険を侵して助けに来る者がどれだけいるのだろうな。

 細目たちの顔が青褪める。
 自分たちに人望があるかは本人たちが一番理解しているだろう。

 これで話は終わりだ。
 遠征軍を全滅させようとした者たちは、その全員がレベル1の全裸に。そして迷宮に放置されることとなった。

「さて、それでは最後の一仕事といこうか。安全地帯から俺たちの邪魔をする脚本家気取りの男にあいさつをしに行くぞ」

 俺は【蒐集ノ神】と【迷宮主の紫水晶】を起動する。

 遠征軍の物資は奪われることが分かっていたため、追跡できるようにしておいた。
 それをたどれば、芋づる式にすべてを奪い取ることができるだろう。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボッチな俺は自宅に出来たダンジョン攻略に励む

佐原
ファンタジー
ボッチの高校生佐藤颯太は庭の草刈りをしようと思い、倉庫に鎌を取りに行くと倉庫は洞窟みたいなっていた。 その洞窟にはファンタジーのようなゴブリンやスライムが居て主人公は自身が強くなって行くことでボッチを卒業する日が来る? それから世界中でダンジョンが出現し主人公を取り巻く環境も変わっていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

追放から十年。惰性で生きてきた英雄くずれの私が記憶喪失の少年と出会ったら。

有沢ゆうすけ
ファンタジー
 かつて聖王と呼ばれた青年に命を救われた少女・アウローラは彼に忠誠を誓い、彼を守るため、共に魔獣との戦争〝人魔大戦〟に身を投じる。  しかし戦争の最中、アウローラは主を守れず、その咎で騎士団を追放されてしまう。 「役立たずの偽火め。どうして私たちの王を守らなかった――ッ!」  終戦から十年後。  主を亡くし、生きる目的を見失ったアウローラは観光都市・ラルクスへと流れ着き、そこで無気力な日々をただ茫然と過ごしていた。  そんなある日、アウローラは若き市長・セリアより奇妙な依頼を持ちかけられる。 「――お前に、ある少年を守ってもらいたいんだ」  記憶を失ったという謎の少年・ソラ。  彼の正体には秘密があり、やがてアウローラはそれが引き起こす事態に否応なく巻き込まれていく。

処理中です...