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遠征軍と未踏の特殊区画と人の悪意
93 ゼベルの妨害とコレットの決意
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レインベル領、迷宮入口
湖に点在する陸地の一つに、迷宮への入り口が存在する。
ラ・メイズのメインゲートほどではないが、屋台が並び、多くの冒険者が行き来している。
50人を超える遠征軍は良く目立つ。気付いた者たちがこちらに注目している。
「コレット様だ。領主様が遠征軍を…。やはり、ボスが復活しているのか」
冒険者たちが噂している。
みな、事情は察しているのだろう。
表向きには【常雨の湿地】にボスが復活したことは伏せてある。
特殊区画の入り口は領兵が封鎖している。
だが多少耳の良い冒険者ならすぐに気づく。
それでも混乱が表面化していないのは、これまでの治世のたまものか。
周囲の様子を確認したコレットが口を開く。
「皆さん、私はレインベル領主のコレット・レインベルと申します。先日【常雨の湿地】にボスが復活しましたわ。我々はボスを討伐しに向かいます。どうか落ち着いて、吉報をお待ちくださいまし」
勝利は確定している。落ち着いた声で語り掛けるコレット。
透き通り、迷いない声はよく通る。
コレットはもう領主ではなくなるのだが、わざわざそれを話して混乱を起こすことはない。
「領主様、信じてお待ちしています!」
「くそ、俺にもう少し力があれば、遠征軍に加われたのに」
「獣人、ドワーフに、エルフまで。レインベル領を救いに駆けつけてくれたのか」
人々が遠征軍に道を譲る。
コレットが率いる遠征軍の前に開いた道は、まるでレインベル領の未来を祝福するようにまっすぐと続いている。
「では、参りましょう」
コレットと遠征軍が迷宮に足を踏み入れようとしたその時。
「待て、貴様ら何をしている!」
迷宮入口に控えていた兵士たちが遠征軍の前に立ちふさがった。
レインベルの領兵ではない。
人族至上主義者の息がかかった、国の兵士たちだろう。
「我々は【常雨の湿地】のボスを討伐しに向かいます。道を開けなさい」
領民に話しかけていた時の態度とは違い、腹立たし気に応えるコレット。
「そんなことは知らん。それよりも、そのケモノどもはなんだ。エルフにドワーフまでいるではないか。迷宮に入る場合には、レベル制限の奴隷紋を施すのが決まりだ。迷宮に入るなら、レベル制限をかけさせてもらおう」
兵士を代表して口を開いているのは、ひときわ身なりの良い装備を身に着けた男だ。
おそらくはレインベル領を陥れようとする貴族の手先だろう。
迷宮の入出管理は国が行う。
実際は建前で、むしろ兵士の少ない領を国が援助するための決まりだ。だが、今回はそれを悪用されたらしい。
「私はコレット・レインベル。領主ですわ。さらに彼らは冒険者ギルドに所属しています。冒険者ギルドに所属する者は、レベル制限を免除されます。あなたの飼い主が認めたことですわよ。あなた方に私たちを止める権限はありません。退きなさい」
「これは、領主様。ですが我々はそんな話は聞いておりませんな。我々も仕事です。いくら領主様と言えども、ルールは守って頂きませんと。確認を取るまでお待ちいただけますかな?」
「…しらじらしい。どのくらいの時間が必要だと?」
「そうですな、今から確認の伝令を出しますので、三週間ほど頂けますかな?」
「話になりませんわ。伝令が帰ってくるまでに、レインベル領は荒野に飲まれることになります。あなたはその責任が取れるのですか?」
「まさか。我々に責任はありません。そのような事態を招いたのは領主様、あなたの怠慢によるものではないですかな?」
「…ここまでレインベル領に妨害を繰り返しておいてよくもぬけぬけと。もうあなた方と対話する余地はありません。我々の被った痛み、苦しみ、その身で償う覚悟がないのなら、お退きなさい。あくまでも立ちふさがるというのなら、剣の錆にして差し上げますわ」
コレットが腰のレイピアを抜く。
細く、刃のついた曲がりない青の刀身。
その冷たい輝きは、持ち主の怒りを表現しているようだ。
「馬鹿な、我々に逆らうとおっしゃるのですか。これは国に、周囲の貴族に対する重大な反逆行為だ。我々に逆らっては、レインベルなど吹き飛びますぞ。今代の領主はまだまだ幼いようですな。先代の領主など、いつも我々にペコペコと頭を下げていたというのに」
おどけた様子で両手を広げる男。周囲の兵士たちがゲラゲラと笑う。
自分たちは権力に守られていると、目の前の女はできもしない虚勢を張っていると思っているのだ。
男たちはコレットを見誤った。
湖に点在する陸地の一つに、迷宮への入り口が存在する。
ラ・メイズのメインゲートほどではないが、屋台が並び、多くの冒険者が行き来している。
50人を超える遠征軍は良く目立つ。気付いた者たちがこちらに注目している。
「コレット様だ。領主様が遠征軍を…。やはり、ボスが復活しているのか」
冒険者たちが噂している。
みな、事情は察しているのだろう。
表向きには【常雨の湿地】にボスが復活したことは伏せてある。
特殊区画の入り口は領兵が封鎖している。
だが多少耳の良い冒険者ならすぐに気づく。
それでも混乱が表面化していないのは、これまでの治世のたまものか。
周囲の様子を確認したコレットが口を開く。
「皆さん、私はレインベル領主のコレット・レインベルと申します。先日【常雨の湿地】にボスが復活しましたわ。我々はボスを討伐しに向かいます。どうか落ち着いて、吉報をお待ちくださいまし」
勝利は確定している。落ち着いた声で語り掛けるコレット。
透き通り、迷いない声はよく通る。
コレットはもう領主ではなくなるのだが、わざわざそれを話して混乱を起こすことはない。
「領主様、信じてお待ちしています!」
「くそ、俺にもう少し力があれば、遠征軍に加われたのに」
「獣人、ドワーフに、エルフまで。レインベル領を救いに駆けつけてくれたのか」
人々が遠征軍に道を譲る。
コレットが率いる遠征軍の前に開いた道は、まるでレインベル領の未来を祝福するようにまっすぐと続いている。
「では、参りましょう」
コレットと遠征軍が迷宮に足を踏み入れようとしたその時。
「待て、貴様ら何をしている!」
迷宮入口に控えていた兵士たちが遠征軍の前に立ちふさがった。
レインベルの領兵ではない。
人族至上主義者の息がかかった、国の兵士たちだろう。
「我々は【常雨の湿地】のボスを討伐しに向かいます。道を開けなさい」
領民に話しかけていた時の態度とは違い、腹立たし気に応えるコレット。
「そんなことは知らん。それよりも、そのケモノどもはなんだ。エルフにドワーフまでいるではないか。迷宮に入る場合には、レベル制限の奴隷紋を施すのが決まりだ。迷宮に入るなら、レベル制限をかけさせてもらおう」
兵士を代表して口を開いているのは、ひときわ身なりの良い装備を身に着けた男だ。
おそらくはレインベル領を陥れようとする貴族の手先だろう。
迷宮の入出管理は国が行う。
実際は建前で、むしろ兵士の少ない領を国が援助するための決まりだ。だが、今回はそれを悪用されたらしい。
「私はコレット・レインベル。領主ですわ。さらに彼らは冒険者ギルドに所属しています。冒険者ギルドに所属する者は、レベル制限を免除されます。あなたの飼い主が認めたことですわよ。あなた方に私たちを止める権限はありません。退きなさい」
「これは、領主様。ですが我々はそんな話は聞いておりませんな。我々も仕事です。いくら領主様と言えども、ルールは守って頂きませんと。確認を取るまでお待ちいただけますかな?」
「…しらじらしい。どのくらいの時間が必要だと?」
「そうですな、今から確認の伝令を出しますので、三週間ほど頂けますかな?」
「話になりませんわ。伝令が帰ってくるまでに、レインベル領は荒野に飲まれることになります。あなたはその責任が取れるのですか?」
「まさか。我々に責任はありません。そのような事態を招いたのは領主様、あなたの怠慢によるものではないですかな?」
「…ここまでレインベル領に妨害を繰り返しておいてよくもぬけぬけと。もうあなた方と対話する余地はありません。我々の被った痛み、苦しみ、その身で償う覚悟がないのなら、お退きなさい。あくまでも立ちふさがるというのなら、剣の錆にして差し上げますわ」
コレットが腰のレイピアを抜く。
細く、刃のついた曲がりない青の刀身。
その冷たい輝きは、持ち主の怒りを表現しているようだ。
「馬鹿な、我々に逆らうとおっしゃるのですか。これは国に、周囲の貴族に対する重大な反逆行為だ。我々に逆らっては、レインベルなど吹き飛びますぞ。今代の領主はまだまだ幼いようですな。先代の領主など、いつも我々にペコペコと頭を下げていたというのに」
おどけた様子で両手を広げる男。周囲の兵士たちがゲラゲラと笑う。
自分たちは権力に守られていると、目の前の女はできもしない虚勢を張っていると思っているのだ。
男たちはコレットを見誤った。
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