上 下
93 / 172
レインベル領と新たな世界

91 宝箱VSゴルオン ゴルオンのターン

しおりを挟む
 レインベル領、訓練場

 レインベル領にある数少ない陸地。
 普段は訓練場として使用されている場所だ。

 今は俺と獣人たちが対峙している。

「ご主人様、殺さないようにがんばってください」

「トシゾウ様、武運を祈りますわ」

「閣下、ゴルオンは獣人の中でも屈指の実力者です。獣人は力を重んじるため、彼を倒すことは今後に良い影響を与えるでしょう」

 応援の声がかかる。悪くない。
 純粋な応援と言うよりは、別のことを心配しているようだが。


「決闘は神聖な儀式だ。死んでも互いに恨みは残さない。俺が死んだ場合は、部下が話を獣人に伝える。知恵ある魔物と言うならば手加減は無用だな。殺す気で行くから油断するな」

「俺を心配しているのか。ゴルオンは親切だな。良いだろう、圧倒的な力を示そう」

 スキル【蒐集ノ神】を発動する。

 ゴルオン
 年 齢:38
 種 族:獣人(獅子種)
 レベル:21
 スキル:【剛力ノ鬼】
 装 備:マッドマンティスの手甲 マッドマンティスの鎧 剛力の腕輪 

 レベルは21、スキル持ちか。
 マッドマンティスは25層相当の魔物だ。
 ゴルオンのレベルに相応しい装備と言えるだろう。

 迷宮を利用できない状態でこれだけのレベルを手に入れるのは並大抵のことではない。

 迷宮では瘴気が還元されることによって経験値にブーストがかかる。
 そしてレベル21という数字は、迷宮を利用しても一握りの者しか到達できない領域だ。

 経験値効率の悪い荒野でレベル21に達するとは。
 人生の全てを戦いに費やし、さらに格上の敵を屠り続けないとこの域に達することはできないだろう。

 迷宮を利用できていれば、あるいは最深層に到達し得る人材だ。

「…惜しいな」

 このような人材が迷宮に潜れないなどもったいない。損失だ。
 ゴルオンが迷宮に潜っていれば、俺の宝はさらに増えていただろう。

 獣人は魔法を使えない代わりに、それを補う身体能力を持つ。
 ゴルオンの装備とスキルも獣人らしく近接格闘戦に特化している。
 他の獣人の能力も同じような構成だ。

 獣人に圧倒的な力を示すなら、相手の得意分野で戦うか。
 魔法を使わず、基礎的な能力で圧倒するのがわかりやすいだろう。

 トーセーグソクは不要だ。
 俺はすべての戦闘装備を外した。



 トシゾウはスキル【擬態ノ神】を発動する。

 頭の上に白い耳が生え、臀部から白く豊かな尾が伸びる。

 レベルを50から60に。
 さらに人族から獣人に変化する。

 【擬態ノ神】は格下に擬態するほど、設定できる能力の幅は大きい。
 人族や獣人はオーバード・ボックスに格で劣るため、レベルやスキルを幅広く選択できる。

 トシゾウ
 年 齢:20()
 種 族:獣人(白狼種)(オーバード・ボックス)
 レベル:60()
 スキル:【剛力ノ神】【耐久ノ神】【敏速ノ神】(【擬態ノ神】【蒐集ノ神】【無限工房ノ主】)
 装 備:不死鳥の尾羽 主従のミサンガ


「準備完了だ。自由に攻撃してこい」

 トシゾウは簡素な衣服だけの状態で両手を広げる。

 …。

 擬態したトシゾウを見ても、取り囲む獣人たちに動揺する気配はない。
 油断せず、力を溜めている。

 一瞬の静寂が破られる。

「行くぞ!」

 先陣を切ったのはゴルオン。
 獣人の脚力は同レベルの人族を凌駕する。
 ゴルオンは一瞬でトップスピードに達し、トシゾウを射程に捕らえる。
 小細工は不要。それは両者ともに理解している。

 ゴルオンが指を折り曲げ、手のひらを突き出す。掌底打ちだ。
 指先に装備された鎌、マッドマンティスの手甲から突き出された3本の鎌が先行し、トシゾウへ迫る。

 手甲で獲物を貫き、そのまま正拳突きで押し込み、粉砕する。ゴルオン最強の一撃だ。

「はあぁぁっ!」

 ドゴォッッッ

 空気が震える。

 手の平がトシゾウの顔面に直撃した。
 それは先行する鎌が敵の顔面を貫いたという証拠。…これまではそうだった。

 ビキリッ

「ぐっ」

 くぐもったうめき声を上げたのはゴルオン。
 手首に甚大な負荷がかかり、骨が折れ曲がっている。
 通常ではありえない反動に顔をしかめた。

 生き物を殴った時の感触ではない。まるで巨大な金属の塊を殴ったような…。

 手甲を確認したゴルオンは驚愕する。

「…ばかな。マッドマンティスの鎌が、砕けただと?」

 激しい動きから一転、動きを止めるゴルオン。
 緑に輝く欠片が宙を舞っていることに気付いたのだ。

 鎌は貫通したのではなく、砕けただけだった。
 粉々になり吹き飛ぶはずの相手は、まったく変わらぬ姿でそこに立っている。

 掌底打ちで与えたはずの衝撃と爆風はトシゾウの髪を揺らすだけだ。

「…たしかに眼球を捕らえたはず。いったいどんな手品を使った?」

「なにも。ただ目を閉じただけだ。目に入ると痛そうだったからな。その程度の攻撃ではまぶたの薄皮が破れるかどうかだ」

 当然のように答えるトシゾウ。

 マッドマンティスの爪を加工した手甲はノコギリ状になっている。
 貫通まではしなくとも、殴りつけた敵の肉を削り取る殺傷力の高い武器だ。

 ゴルオンには、たとえ相手が50層の魔物であってもダメージを与えられる自信があった。
 だがそれは思い上がりだったらしい。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ボッチな俺は自宅に出来たダンジョン攻略に励む

佐原
ファンタジー
ボッチの高校生佐藤颯太は庭の草刈りをしようと思い、倉庫に鎌を取りに行くと倉庫は洞窟みたいなっていた。 その洞窟にはファンタジーのようなゴブリンやスライムが居て主人公は自身が強くなって行くことでボッチを卒業する日が来る? それから世界中でダンジョンが出現し主人公を取り巻く環境も変わっていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...